第13話

「クスクス、私はお兄様……いいえエセルの事なら何でも知っていてよ」



 それは双子の妹キャサリン。

 同じ顔の性別の違うもう一人の――――俺だ。


「エセルが誰を愛しいと想っているのかも、そしてその娘を何としても護り抜きたいと思っている。またそう遠くない将来エセルが何を企てているのかも全て私は知っているわ」


「キャシー……」


 血を分けた美しい妹。

 だが俺自身幼少より肉親より余り愛された記憶がない故なのか、キャシー程に肉親への情を追い求めてはいない。

 

 そう両親とはただ単に俺とキャシーをこの世へ生み出した存在。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 愛されぬのであれば最初から求めなければいいのだ。


 幸い俺はこの国の王子として誕生した。

 それ故生きる為に必要なモノは全て必要以上に与えられてはいる。

 肉親の情以外は……。


 

 だが妹のキャシーは俺とは違う意味での強欲だった。

 俺が俺の唯一であるエリザベス、貴女と言う存在と出逢いそして貴女を護る為にあらゆる事へ強欲になるのであらばキャシーは肉親の情へ凄まじい執念を見せたのである。


 まあキャサリン自身今更両親の愛を強請ろうとは思ってはいない。

 それについては彼女も幼い頃よりそれなりに理解をしていたのだ。

 

 赤子だった俺達が必死に待ち望んだ両親の愛情を得る事は出来なかったと言う現実。


 だからキャシーは両親ではなくこの世で自身に誰よりも近い存在――――つまり双子として誕生しその片割れであるこの俺を欲したのである。



 はっきり言って6歳くらいまでは何時も一緒の寝台で眠っていた。

 何をするのも常に一緒で、この頃までは特に男女の差も大きく変わる事もないしまた何と言っても血を分けた兄妹なのだ。

 乳母や城へ仕える者達も万が一の事なんて、そうこの俺自身もそこまでは考えが及ばなかった。


 だが6歳を迎えてそろそろお互いが個人に与えられた私室で過ごす様になりそれと同時に俺は10歳で立太子をし、行く行くは未来の国王としての帝王学を始めありとあらゆる学問に剣術や魔術等へ費やす時間は多くなっていく。

 それに未来の側近候補達との選別から始まり交流も深めなければいけない。


 一方キャシーの将来は自国の有力な高位貴族若しくは他国の王家への輿入れをし、我が王家との絆をより強固なものとする。


 それが王女として生まれた者の宿命。

 当然キャシーもそうなるべくそれまでに何処へ出たとしても輝ける程の立派な淑女として日々学びを深めているのだと、俺も兄として妹に恥じない様に頑張らなければいけないと思っていた。



 キャシーは最初から何処へも嫁ぐ意思等なかったのだ。

 何故なら彼女の欲しいモノは何時でも彼女の目の前に存在していたからである。


 その欲しいモノがこの俺自身。


 お互いの寝室で別れて眠る様になってもだ。

 真夜中になればキャシーは必ずと言っていい程俺の寝台へ潜り込んできた。


 まあ最初の数ヶ月は双子と言えども妹は妹なのだな……何て今にして思えば実に可愛い事を考えていたであろう俺は思いっきり愚かでしかない。

 夜が明ければ乳母達が一緒に眠る俺達を見て『駄目ですよお兄様の寝所へ何て淑女がする行動ではありませんわ』そう苦言を呈してはいても俺も含めて皆心の中では微笑ましいものと高を括っていたのだ。



 だがそれが一体何時からなのだろう。

 普通に離れて眠っていれば気が付くと何時の間にがキャシーが俺の身体へ抱き着くようになったのは……。


 そして彼女の行動はそれを皮切りにどんどんとエスカレートしていく事となる。

 

 眠っている間とは言え俺の頬だけでなく唇や頸へとキスをしてみたり、俺の手を引き寄せては自身のまだささやか過ぎる胸へと押し付けていたのである。 


『おいキャシー俺達は血を分けた兄妹なんだ。余り変な事をするなよ』


 それから俺は適当な理由をつけて扉の前に騎士を配備した。

 すると今度はバルコニーから侵入するキャシーに俺は頭を悩まされてしまう。


『私はエセルが好きなの!! エセル以外私はいらない。エセルだけがこの世にいて私を愛してくれればそれでいいの!!』


 キャシーの心の底よりの悲痛な想い。

 理由は分からなくもない。

 親に愛されない子供故にその代わりを欲せば何としても手に入れたいと望む行動を……。


『それでもだ。俺達は兄妹だから、俺は妹としてキャシーを愛してはいるがそれ以上には愛せはしない』


 将来他人を愛せるかと聞かれればそれもまだわからない。

 何しろ愛情を受け取りそこなったのだからな。

 でもだからと言って実の妹とどうこうなんて考えてはいなかったのだ。



 しかし全ては貴女との出逢いで俺達兄妹は決定的に変わらざるを得なくなった。

 そして俺は何としてもあらゆるものよりエリザベス、貴女を護りたかったのだ。

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