1.

 雨――それは俺を憂鬱にさせる。


 雨――それは俺を退屈にさせる。


 雨――それは


 「こう、おーい好ってば、聞こえてるか~?」


 「あ? 何? 今そんなダル絡みに付き合ってるところじゃないんだ。 そっとしてくれ」


 構ってちゃんが構ってほしいそうに俺の名前を呼んでいたが、軽くあしらって溜め息を吐いた。


 「なんかお前ってこの時期になるといつもそうなるよな」


 「嫌いなんだよ。 憂鬱だし退屈だ」


 「彼女にも会えないとかもあったりする?」


 「......じゃあそれも追加で」


 嘘は言っていない。俺の彼女――なぎは虚弱体質で雨に濡れると高確率で風邪をひく。だから極力こういう時期にはお互いに無理して会わないようにしている。まあ会うってほうがおかしいかもしれん。


 「あ! 好くん! まだ教室にいたんだ!」


 「お、噂をすればなんとやら。 じゃ僕はお邪魔になるんで先に帰るね。 また明日」


 帰っていきやがった......俺もここにそんな長居するつもりないのに......


 「好くん、帰ろ」


 「そうだな、帰るか」


 俺は、床に置いているバックの取っ手に手をかけそのまま肩にかけた。そして俺たちは、一つの傘に二人入る相合傘の形で帰りの通学路を歩いた。


 「今日は」


 「あ? 」


 「今日は......さ、どうするのかなって」


 「今日はどうするかって......この時期、俺はなんもやらんのはお前もわかるだろう」じ


 そう、梅雨時は何にもやる気が起こらないため、何もせずただ時間が過ぎ去っていくのを待つことしかしてない。じゃあいつも何をしているのかというと、特に何かをしているわけではないが、時たまにやれ遊びに行こうだの、やれ面貸せとかなんか誘いが来るからである。今時期は断られるのがわかっているのか誘いは無い。


 「それはわかるよ。 でも」


 それでも続けようとする

 

 「でももねえよ。 いざということも、突然も急も」


 この時期は特に


 「......そう、でも心配」


 あまりにも食い下がらないし、挙句の果てには心配もされた。仕方ないので俺は聞いてみることにした。


 「どうした急に」


 「なんかね、昨日夢でこんな時期にも関わらず活発に動いてた好君がいたんだよね。そして何をしていたか分からなかったんだけど、なんか夢にしてはリアルだなぁっと思って心配になって聞いてみた」


 「まー確かに夢にしてはリアルだし心配するのも無理ないかー」


 「ちょっなんで棒読みなの!? こっちは心配してんのに......」


 「冗談だよ冗談、夢一つで心配してくれるとは思ってもみなかったから」


 「もう、意地悪はやめてよ」


 ふくれっ面でこっちを見る凪を俺は笑いながらそう返した。

 

 「あ、ちょっと」


 「ん、なんだ急に」


 凪が不意に腕をつかんで俺を引き止めた。


 「こんな雨なのに人がブランコに座ってる」


 そう言って凪が指をさした。さした先には、公園の右手側にあるブランコだ。そこに一人の少女が、ブランコをこぐこともせずに座っていた。しかし、あの少女には少しおかしな点があった。


 「なんかあの子、見慣れない服着てるな。なんていうんだろう、病院で入院するときに着るような」


 「そう......だね......」


 そう、あの子は普段じゃまず見ない服を着ていた。


 「病院から逃げてきたのかな?」


 凪が不意にそう言った


 「それ、マジだったら相当まずくないか」


 俺は少し驚きながらも返した


 すると、今までブランコに座っていた少女がブランコから降りてこっちを向いた。見た目からして14、15歳あたりだろう。


 「こっちに来てないか?」


 少女が俺たちの存在に気付くと俺たちの元へ歩いてくる。俺たちは動かないでいた。


 「ねえ、雨は好きかい?」


 入院着を着た少女がこっちへ来るなり目を細めた笑顔で質問した。

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