勘違いから始まるラブコメ~一度は終わったと思ったラブコメが実はまだ続いていた件~
ぐっさん
第一章 勘違いから始まるラブコメ
1 勘違いから始まるラブコメ
新しい春を迎えてから一ヶ月弱が経過した今日、四月二十二日――帰りのホームルームが終わり、さあ帰ろうという雰囲気だったはずの教室内が今、打って変わって騒然としている。
それもそのはず――ここ、
聞く話によると、南条椿の祖父は日本を代表する企業グループのうちの一つ、『南条グループ』の総帥で、その子である父がグループ企業の一つで会長を務めているらしい。
つまり、正真正銘のお嬢様なのだ。
美少女ビッグ5が一人も所属していない飢えた俺のクラスの男子の視線は当然彼女に釘付け。女子も女子で、もはや嫉妬の対象とは見ておらず、それとは真逆な羨望の眼差しを向けている。
一体そんな子が二年三組の誰に用があるというのか、クラス内に緊張感が走るのが伝わってくる。
彼女を見つめ、もしかして俺? みたいな期待に溢れた表情をしているくせにガチガチに固まる男子多数。
そんな視線の中を一歩、また一歩と歩みを進める彼女だったのだが、遂にその足が止まった――まさかの、俺の机の前で。
肩の先まで伸びた僅かにウェーブのかかった金色の髪に、大きな瞳に澄んだ碧眼。色白で荒れ一つない肌に、整った可愛らしい顔立ち。加えて、御淑やかな雰囲気。
これぞ、圧倒的お嬢様感。
初めてこんな間近まで接近した。
というよりも、海櫻学園に入学以来、今初めてしっかりとこの子の顔を見た。いや、今は見る他に選択肢はないのだ。
目の前で立ち止まられてしまっては当然の如く俺も彼女に釘付けになってしまい、即座に心臓の鼓動が加速していく。
その最中、視線を逸らせないでいる俺に、彼女は頬を赤らめつつ微笑んだ。
脱帽だ……流石は美少女ビッグ5。
こんな至近距離に初めて接近した事で、彼女にかかれば俺なんてイチコロだったのかと今更ながら気付かされた。
可愛すぎてそれ以外に表現の仕様がない。
小学五年生の春に放送が始まった『魔法女神アルネちゃん』を皮切りに、今やすっかり子供向け変身美少女アニメシリーズにハマってしまった俺の一番のお気に入りこそが、現在放送中の『魔法天使ライラちゃん』だ。
そんな二次元のライラちゃんを三次元の女の子が上回る日が来ようとは、人生何があるか分からないものだな。
なんて思いつつ、未だに南条さんから視線を逸せない俺なのだが、南条さんも南条さんで俺から視線を外してくれない。
俺に何か言いたい事でもあるのか、口をパクパクさせている。
こちらから用件を聞いてみようかと思ったりもしたが、俺に用があるかもというのが勘違いだったらいい笑い者になってしまうかもしれない。嘲笑の的になるのは御免だ。
だから、結局彼女から何か言われるまで待つ事にしているのだが――、
「
「――えっ?!」
俺の目の前に南条さんが来てからどれくらい経ったか、そんなの分からないくらいには長く感じたが、遂に南条さんから声をかけられた。
しかも、それは思いもよらぬ事に俺への告白で、聞き間違えじゃないかと耳を疑いそうになってしまう。
途端に、騒然としていたはずの教室内は誰も彼も俺と彼女を残して帰ってしまったかのような静寂に包まれ、俺も俺で彼女から目を背けられず身体が硬直してしまっている。まるで時が止まってしまったかのような感覚だ。
周囲の反応から考えても、聞き間違えではなかったのだと簡単に判断可能。
生まれて初めて異性から向けられる本物の好意。しかも相手が海櫻学園美少女ビッグ5の一角ときた。
また更に心臓の鼓動が加速してしまい、聞こえていないかどうか、周囲の静けさも相まって心配になってしまう。
接点なんて全く無い。それどころか、特に目立った存在でもない俺の事を知っていただけでも驚きだ。
特にイケメンでもない上に特別運動神経も良くはなく、学力も学年平均よりちょっと良いだけの、
そんな俺なんかより、もっと良い男が学校に幾らでもいるだろうに……。
だからどうして俺を好きになったのかなんて分からない。
それでも、これを逃したらこんな究極美少女とお付き合いできる機会なんて、彼女いない歴=年齢の俺には無いかもしれない。いや、かもしれないではなくあるはずがないのだ。
それに、歳を重ねる毎に変身美少女アニメに頼るのがキツくなっていくのもまた事実。
毎週土曜の朝九時に、テレビの前で魔法天使ライラちゃんを観てニタニタしている男子高校生なんて俺くらいのものだろう。
冷静にならなくても分かる。こんなの普通じゃないし、自分で言うのもあれだけどこのままでは将来が心配だ。良い加減恋愛経験をちゃんと積んだ方が良いに決まってる。
それに――いつまでも、過去の失恋を言い訳にし続けるわけにはいかない。
そう思うと、断る理由なんて何一つとして無かった。
「――は、はいっ! よ、喜んでっ!」
俺の答えを微笑みながら待つ彼女、及びただ黙って見守るクラスメイト達の前で、これまでの人生で最高の緊張を感じながら返事を告げる。
「ホッ……」
すると、南条さんは安心したのか小さく息を吐き、胸を撫で下ろした。
「ひゃぁーっ! 良かったね風見くん!」
「ふざけんな風見この野郎……!」
すると、静寂に包まれていたはずの教室内にクラスメイトの女子からの甲高い歓声やら、男子からの殺気混じりの怒声が飛び交い始める。
だが、そんな事はたった今、南条椿という彼女ができたという事実が嬉しすぎて全然気にならない俺がいる。
むしろ、怒り狂った怒声に対して優越すら感じてしまう。
「ありがとうございます! では、行きましょうか!」
彼女もそんな事は意に介せずといった具合に、弾んだ声を出し、微笑した。
おぉ、ぐうかわっ……。
なんて思いつつ、その声に釣られながら我が物顔で教室を出る。
「あれ? そういえば、いつも一緒にいるお付きの人達は……?」
執事見習いやら、メイド見習いと有名な男女二人組。
大金持ちの南条家において、彼らそれぞれの父親が執事らしく、跡を継ぐだか何なのか知らないけど、いつも南条さんの
てっきりいるもんだと思ってたけど……。
「彼らは今日、補習なんです。だからチャンスは今日しかないわ! って思って意を決して来ちゃいました。あの二人、絶対邪魔してきますし、そもそも理由を言えば二年三組に行くのすら許してくれない気しかしなかったので」
それは良かった……! いられたとしたら彼らに気を遣わなきゃいけないと思ったんだけど、南条さんの事で精一杯になるであろう俺にそこまでできるわけがない。
というか、どう考えても俺にとっては邪魔以外の何者でもないから、いないのは正直凄い嬉しい。
「でさ、南条さん。行くってどこに?」
一緒に帰るとか、デートに行くとかだろうか? 仮にデートだとしたら初めての事だから、期待感を持たずにはいられない。
まだまだ、この緊張は解けてくれそうにはなさそうだ。
「えっと、映画館です」
「なるほど……」
初デートの定番といえば、映画館だってライラちゃんが言ってた気がする。
もしかして南条さん、結構考えてきてくれているのか? と、また一段期待が膨らんでしまう。
「ダ、ダメでした……? 付き合っていただけるのですよね……?」
南条さんが不安げな表情で見つめてくる。か、可愛い……。
「ぜ、全然ダメじゃないよ! さ、行こう!」
「ふふっ、はい、隼人くんっ!」
これ以上見つめられると冗談抜きに昇天してしまいそうだ。
そう思って歩き出すと、南条さんはご満悦そうな声を出して横に並んでくれた。
人生が百八十度反転したみたいで本当に最高の気分だ。
ほのかに香る甘い匂い、堪りませんなぁ、これ。
校内から校門まで、信じられないものでも見るかのような視線を向けられ続けた。
それは俺にとって全く馴染みがなかった視線。特に、男連中からの嫉妬、怒り、羨望といったは本当に気分が良かった。
もう俺とお前らとではレベルが違う。
南条椿という圧倒的ステータスの持ち主が彼女になってくださったのだからな。
お前らを選ばず、俺を選んでくれたんだ。男の格が違うんだよ!
――今日から、俺のラブコメは始まるんだっ!
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