125話 間引き

 今日は、早めに朝食を済ませて朝から武具の手入れをしている。

 

 間引きへの参加は、ソロにすると年齢的に初心者冒険者枠になりそうだったし、そこで変なフラグ立つ気もしたので、結局の所マキスさん達と一時的にPTを組んでの参加とした。

 

 ・・・見える地雷は踏まない子なのだ。

 

 武具の手入れっていっても、僕は過度な装備を好まないので小型の盾と剣、そしてダーツくらいしか用意しないけどね。基本的にはマキスさん達の準備の補佐をしてる感じ。丁稚ボーイウェル吉だ。

 

 マキスさんは弓手なので弦の張り具合や予備の用意をしている。

 

 「あっマキスさん、矢筒何本か持ちましょうか?」

 

 「あっそうだったわね。おねがいっ」

 

 レーテーさんは短剣を真剣な顔で研いでいる。真面目な顔できるんやねーとか思ってしまうのは仕方ないと思うの!てか研ぐのは砥石だよね、後でシャープナーでも作ってみようかな。でも刃の角度とかあるよなぁヴァルカンさん相談案件かなあ。

 

 アレサさんは普段からきちんと手入れしてるらしく、槍を数度振って準備完了みたいだ。

 

 ・・・あっそうだハープも持っていこうかな、戦いの歌とかPT支援向きだよね。

 

 30分もしないで用意が終わったので集合場所の街の出口へ馬車で向かう。道中で間引きについて色々と教わったり、雑談をしていたのであっという間についた。付き添いできてくれたマゼッパさんへお礼を言って人がすでに集まっている門へと向かった。

 

 今回、間引く場所は以前大物狩りをしてきた草原の奥にある森の周辺で行けたら奥までって予定らしい。1週間近くやるらしいので、この辺も大分安全になるんだろうな。

 

 間引き隊は領兵と冒険者も混合した隊の構成になっている。単純に大楯や金属鎧で装備固めた前衛とわりと軽装な中衛、そして魔法や回復の後衛という三段構えだ。これの他に偵察隊として斥候みたいな役の人たちが数名で隊周辺の情報を収集してる感じ。

 

 大人数の間引き隊は先導するギルド員と領兵に従って街道を超えて目的地を目指す。

 

 歩いた後が道になる勢いで行軍を行い、やがて草原の一か所に大き目陣を構えた。結構視界が広い場所だ安全なスペース確保を念頭においたのかな?

 

 定期的に間引きをしているだけあって、陣の構築はテンポよく進んでいる。よくよく見てみると陣作ってるのは大工さんっぽいね、猫屋敷の時にみた人がいるわ。はえー、仕事選ばずだね。

 

 人の多さとパターン化というか秩序良く動いてる間引き隊に感心していると、あの面倒事が嫌いってって体をしていたギルドマスターのおっちゃんがお立ち台みたいなのに立って、二言三言話した後に号令をかけた。

 

 「おうっお前らいつもの事だと気を抜くなよ!近隣の街と街道の安全を守る大事な仕事だ!気合入れてやれよ!!」

 

 その言葉を合図に各々が動き出す。あらかじめ決めていた通り、強PTの方々が森側からモンスターを草原側に追い込みを始め、前線にでるPT間で進行方向の確認をしあって進行開始だ。

 

 大勢に紛れて、マキスさん達と移動を開始する。

 

 時々爆発系の魔法なのかな?衝撃波を伴った火炎がみえたり、鉄板みたいなものをガンガン鳴らしているのが聞こえる。結構、派手だ。森を燃やすときっと森の大精霊が出て来て怒られるよー。そんなものが存在するかは知らないけど、森を焼くって禁忌感かというか忌避感かみたいなのがあって、まあもやっとする。自然を大事にってのは文化的価値観なのか本能的判断なのか悩ましい所だ。

 

 なんにせよ、音と熱で追い込む。原始的かもしれないけど、効率的なんだろうなっと。

 

 そして僕らのPTはって言うと。

 

 「ウェルくーん、こっちお願い」

 「それ終ったら、こっちも頼むわー」

 「ウェルギリウス様、こちら側でもお願いします」

 

 前線に出てきたはいいものの、PT内外あちこちから声かかっている。この現状は遊撃なの?僕ほとんど動いてないんですけど。

 

 事のはじまりは、緑のゴブリンが乱戦で拾ったであろう斧を振り回して、近くのPTが突撃力に押し負けかけた時だった。

 

 突っ込んでいたゴブリンの前面1㎝位のギリギリの位置に石の壁をドン。

 そのゴブリンの背後に同じように石の壁をドン。

 で、仕上げに左右を蓋して終了。

 

 えー2足だの4足歩行の生き物ってのですね。

 前後1㎝にピタっと壁立てられたら詰むよね。

 

 前にも後ろにも進めない、横に移動しようにも体を捻じれ無い。壁を壊そうにも手足を動かせない。そして左右も行き止まりってね。ツンデルofツンデラ。

 

 ってな具合に超キツキツ空間に格納されたゴブリンボックスを作ってしまった。

 

 これがはじまりだった。危うく難を逃れたPTが腹いせにゴブリン倒したがったので、ゴブリンの胸元近辺に穴を作った。

 

 ・・・うん!もうこれ処刑道具だよね。

 

 自分の容赦のなさというか、確殺意識の高さにビビる。

 

 それを見ていたギルドの担当員に低級冒険者のレベル上げに利用していいですか?って聞かれた時点で僕はモンスター箱詰め職人に転職した。

 

 まあでもそうしますよね、動かない敵ですもの。

 

 ギルドの人曰く、間引き直後は低級冒険者が狩れるモンスターが減るので、間引き中は引率付きで狩り方講習とかレベルアップ支援っぽいものをしたりするそうだ。

 登録したての子に命を奪うという経験をさせたいってのは分かります。槍や剣をさしてビクつく魔物の感覚ってのは経験しておくに越したことはないよね。即死なんてのはなかなか無いからねぇ、致命傷後の一撃がマジでリミッター切れしてるから脅威の一撃である事が多いと思うのです。

 

 「ウェルくーんっ」

 

 むむむ、代表してマキスさんがこっちに来た。はよせーってことかなぁ。魔法の処理的に難しい感じも全然しないので、視認できる範囲を一気にやってしまうか。うん!やぁってやるぜ。箱詰め砲ふぉめーしょんだ!!

 

  「はーい!!いまから一気にいきまーーす」

 

  ドンドンドンドゴンドンドン

 

  あっ調子乗ったかも。結構広範囲だったせいで一部ズレたものがある。何匹かは土壁に激突して打ち上げられてる。

 

  ズレたのかな?動いたのかな?・・・まあそれ位は処理すんでしょ。

 

  「何匹か箱からズレましたー。気を付けてくださいねー」

 

  一応、大声を出して注意喚起するとアチコチから了承の声が聞こえる。

 

  「おうよー」「わかったわっ」「はーい」「ウェル君との共同作業に抜かりはない」

 

 それから陽が大分落ちるまでモンスターだったり、魔物だったりと名称あやふやだけど、悪い生き物をとりあえず大量に間引きをしまくった。僕は土壁で箱作ってただけだけども。

 

 僕としてはマクロ的な事は全然わかんないけど、まあこうやって一気に数減らすと良い事があるんでしょう。

 

 ある程度の数が間引けたところで、今度は領兵主体にて安全管理の確認を行う。街道沿いから目撃地点との距離だったりを、前線組に聞き取ったり検分したりしてた。

 

 これで間引きとしては終わりかな?近くに居たマキスさんに聞いて見る事にした。

 

 「マキスさーん、間引きってこれで終わり?」

 

 「うん?そーねぇっ、この感じだと今日は終わりかなぁ」

 

 「ふーん、結構あっさりしてるね」

 

 「えっとね、君だよ。きーみ。ウェル君の、あのアースウォールであっという間に終わったのよ。魔犬も魔狼もゴブリンも全部完封しちゃったじゃないっ」

 

 「えーさっき危なかったので安全第一です」

 

 「たしかにあんな精密な魔法が出来るのならば、安全なのだろうがな」

 

 ジト目のアレサさんに距離と目線をツメラレタ。やめてウェル君のライフはゼロよ!!なんてバカな事を思いつつも、まじめに答えとくか。

 

 「うーん、ちょっとずつだけどもね、冒険者の人にも周りにも力を見せていきたいのです。ほら傷治したのに詐欺よばわりされるとかあったし、ああいうのはみんなが不幸になるだけだもん」

 

 「まあそれは確かにそうなのだが、、、な」

 

 アレサさんに促されて周りを見渡すと、ちょっと消化不良な熱気というか達成感の無さのような空気を冒険者の一部から感じる。それは仕方なくない?と思いつつも。まあやる気満々からの肩透かしってのも分からないでもないよな。快適すぎた狩りだもの、返り血は壁でシャットアウトだし、武器以外は小奇麗なままなんてね。

 

 「すまん、責める気ではないんだがな」

 

 まあうん、なんというか養殖みたいだもんね。戦いを生業にしてる人は嫌かもね、狩りというより釣り堀、養殖場、安全舐めプ祭りだもんね。

 

 「大丈夫です、伝わってますよ。熱気の行き場が無いし魔物とはいえ命のやりとりですからね。明日はちょっとちがう方法で行こうと思います。たぶん歌で支援かな?」

 

 「ちゃんとわかっているのだな。余計な事を言った。すまないな」

 

 アレサさんが引き寄せて頭を撫でてくれた。

 

 「・・・それは私の仕事」

 

 マキスさんとレーテーさんが近くにきて頭の撫で合戦?がはじまった所で、間引きの終了を知らせる大きな爆発音がして今日の間引きは終了となった。

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