意味がわかると怖い話。

荒瀬ヤヒロ

第1話







「きゃー」


 悲鳴らしきものが聞こえた。


「ん?」


 あまり緊迫した感じはしないが、とりあえずそちらへ足を向けてみる。


「ひどいですぅ。何をなさるんですかぁ。階段から突き落とすだなんてぇ。殺人未遂ですよぉ」


 階段の下で尻餅をついてぷんすか怒っているのは、確かカンバス男爵家の令嬢だったか。


 そして、その彼女を見下ろしているのは私の婚約者であるフェクトル公爵家の令嬢ユージェニーだ。


「これは殺人未遂ですぅ。断罪案件ですぅ」


 よくわからないが、これはユージェニーが男爵令嬢を突き落とした、ということでいいのか?


 何故、ユージェニーはそんなことを?

 いや、ユージェニーがそんなことするか?


 男爵令嬢なんてユージェニーの友人の中にはいないはずだ。王太子である私の婚約者として、ユージェニーの交友関係はすべて王室で把握しているし。


「なんていうことを! 公爵令嬢ともあろう方が!」

「そうですよ! アリス嬢に危害を加えるだなんて!」

「ここまでされてはもう見過ごせません!」


 !?

 ケインにジュリアンにニコラス?

 どこから出てきたんだ?


 突如としてわらわらと階段下に集まってきた私の側近達の姿に、私は首を傾げた。


「フェクトル公爵令嬢! 貴女のような身分を理由に下位の者を虐げるような者は王太子殿下の婚約者にふさわしくありません!」


 !?

 何を言い出すんだケイン!?

 お前、つい三日前に「ユージェニー様は王妃教育の傍ら慈善活動にも熱心に取り組んでいらして頭が下がります」とか言ってたよな!?


「まったくです! 可愛げの欠片もない貴女が王太子妃になるなど、あり得ません!」


 !?

 ジュリアン、お前、つい昨日、私の前で「さっきユージェニー様とすれ違ったんですけど、あいかわらずお美しくてスッゲーいい匂いっすよね! げへへ」と宣って私に絞められたのを忘れたのか!?


「そのうえアリス嬢を殺そうとするだなんて、なんて恐ろしいことを! 殺人未遂の重罪人として裁かれる覚悟をしてください! 法廷で会いましょう!」


 !?

 ニコラス? 筆頭公爵家の令嬢で、しかも王太子の婚約者であるユージェニーが、たとえ何らかの罪を犯したとしても通常の裁判に掛けられることなどあるはずがないだろう? 宰相の息子のお前が知らないはずがないのに何言ってんだ!? 法廷で会える訳がないだろう!?


「ルードリフ様、ボックセル様、ヴェントーネ様。アリス、怖かったですぅ」


 アリス・カンバス男爵令嬢が私の側近達を呼んで瞳を潤ませる。

 階段から突き落とされたという割にはぴんぴんしていないか?

 どこにも怪我をしているように見えないのだが。

 あと、惜しい。ジュリアンの名前はジュリアン・フォックセルだ。ボックセルじゃない。


 いや、それよりも、どうもよくわからないが状況的にユージェニーが責められているようだ。止めにはいるべきだろう。


「何をしている?」

「あっ、殿下ぁ!」


 私が姿を現すと、何故かアリス嬢がうれしそうに笑顔を浮かべた。



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