【義妹SIDE】帝国で新種の流行病が蔓延する

「……ううっ」


「し、しっかりしろ! もうすぐだぞっ! もうすぐ母国に戻れるからなっ!」


 大勢の負傷した帝国兵達が帝国に運ばれていった。応急処置はしているが、それでも万全の治療はその場では施せない。


 戦えなくなった負傷兵は母国に送還される事となっているのだ。


 しかし、この事によって帝国は大混乱に陥る事になる。この事をまだ帝王も王女リノアも未だ知らなかったのだ。


 ◇


「ふむ……戦況はどうなっているのだ?」


 帝王は腹心である大臣から報告を受けている。大臣とはいっても帝王からすれば権力の格差は著しい。実質的には小間使いのようなものなのである。故に帝王の決定に対して物申す事など決してできなかった。


「は、はぁ。それがでありますね。帝王陛下。ルンデブルグとアーガスが共同戦線を張っております。それ故に思っていたよりも兵達も手こずっており、戦況は芳しくなく」


「なんだと! この馬鹿ものが! なんとかせい! どのみちルンデブルグを攻め落とした後はその隣国であるアーガスも攻め落とす予定なのだぞ!」


「は、はっ! 兵達も全力を尽くしているのですが、なかなか思うようには。やはり戦争にはイレギュラーな出来事がいろいろと起こります故」


「ま、まあいい。戦況の報告はそれくらいで」


「は、はぁ……よい報告ができず誠に申し訳ありません。それともう一つ、気がかりな報告があります」


「なんだ? 報告とは、申してみよ」


「そ、それが、なんでも我が帝国で件の伝染病が大流行を起こしたそうです!」


「な、なんだと! それは誠か!」


「は、はい。なんでも戦場で兵士達が集団感染を起こし、わが国にその伝染病を持ち帰ってきたそうです」


「くっ! 何たる事だ! 戦争中であるというのに! このような余計な手間が発生するなど!」


 帝王は憤慨していた。元々から子供のような人格の持ち主なのである。自分の思い通りになんでもなってきたから、少しでも思い通りにいかないと憤慨するのである。


「まあいい。大臣よ。何とかしておけ! 伝染病を静め、その上で戦争にうまく勝利するのだぞ!」


「そ、そんな、それは無茶ですぞ! 帝王陛下!」


「ん? なんだと! 我のいう事が聞けぬか!」


「は、はぁ! 全力を尽くします!」


「よい! 職務に戻れ!」


「はっ! 失礼します!」


 大臣は一目散に去っていった。


 ◇


「ふう……」


 帝王は自室で休んでいた。最近何かと疲れていた。やはりトラブルが連発すると当然普段以上に疲労するものであった。


「パパ」


 そんな時の事であった。疲れている帝王の前に癒しの天使と言える人物が現れたのである。


 その人物とは勿論、最愛の娘であるリノアの事であった。正確にはリノアの後ろには奴隷市場で購入してきたディアンナという専属のメイドがいるのではあるが、帝王は自分の娘であるリノア以外、眼中にも入らなかったのである。


 ディアンナは帝王にとってはただの置物のようであった。


「リノア!」


「パパ……どうしたの? 辛そうな顔して。何かあった?」


「な、なんでもない、リノア。すぐに手に入れてやるからな。この戦争に勝利し、お前の欲しがってた、エル王子もレオ王子も必ずお前のものにしてやるからな」


「うん、パパ。楽しみ。パパ、大好き」


 リノア王女は父である帝王に抱きつく。まるで玩具を買ってもらう時の子供のようであった。


「おお~、リノア。可愛い娘よ」


(本当、自分と娘の事しか考えてない男ですわね……国民がどうなってもなんとも思わないんですの。というよりは国民とも思っていないのでしょうね。そう、道具だとしか思っていないのですわ)


その情景を見ていたディアンナは毒づく。勿論、声には出さない。出した瞬間銃殺刑になっていたとしても不思議ではないのだ。


しかし。ここで二人に異変が起こるのであった。


「ごほっ! ごほっ! げほっ! ごほっ!」


 王女リノアが猛烈に咳込み始めた。嫌な咳込み方だった。


「ど、どうしたのだ! リノア!」


 次の瞬間、帝王の身にも異変が起こるのである。


「ごほっ! ごほっ! げほっ! ごほっ! ……なっ!? なんだと! こ、これは!」


 ディアンナは気づいた。かつて自身も件の伝染病にかかった事があるのである。今は一応完治してはいるのだが。かつて自分がかかった病と同じ症状が二人に出ているのである。


間違いない。


(ふっふっふ……ざまぁみろですわ……これぞ天罰ですわ!)


かつて自分にその天罰が下った事など忘れ、ディアンナは帝王と王女リノアに襲い掛かった災難。


いや、ディアンナからすれば因果応報というものであろう。その因果応報ともいうべき災難に、ディアンナはほくそ笑んでいた。良い気味だ。


この時ばかりはディアンナの見解を大多数の人間が同調した事であろう。

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