帝国と戦争をする事になってしまいます

リノア王女の要求を断った後の事でした。すかさず帝国から使者がやってきます。


使者の命令は帝国への無条件降伏でした。王国ルンデブルグは帝国の属国になるように要求されたのです。


その要求を断った場合は戦争をしかけてくるとの事でした。帝国は武力をちらつかせ、要求を通そうとしたのです。


なんと卑劣な連中でしょうか。しかし、人類の歴史は戦争の歴史です。醜い戦争の輪廻は決して断ち切る事はできないのです。そう、そして目の前でまた戦争が行われようとしているのでした。


「くそっ!」


その要求を聞いた後、レオ王子は机に拳を叩きつけます。


「落ち着け、レオ」


 兄であるエル王子が諫めます。


「これが落ち着いてられるかよ! 帝国と戦争になるんだぞ! 兄貴は平気なのかよ!」


「平気なわけがあるか! だが、そんな物に当たって怒鳴り散らしたところで状況が変わるわけでもあるまい。レオ、お前は少し冷静になれ」


「わ、悪い。兄貴の言う事もその通りだ。取り乱したってどうしようもない事だったな。俺も冷静になるよ」


 エル王子に言われて、レオ王子は気を取り直しました。


「エル王子、戦争になるんですか?」


 私はエル王子に聞きます。


「おそらくそうなるだろうな」


「そ、そんな! 何とか回避できないんですか!」


「リノア王女の要求をのめば可能性があるかもしれない」


「だったら……」


 リノア王女の要求をのめばいい。そう言いかけて私は言葉を閉じます。エル王子やレオ王子の気持ちを知っておいてそんな事を言おうとするなんて、あまりに酷すぎます。


「だが、それは戦わずして帝国に降伏するというだけだ。帝国はそれだけにとどまらない。恐らくは帝国はこの王国ルンデブルグを植民地化する事だろう」


 エル王子は語ります。


「おそらくはリノア王女の要求なんていうのは戦争のきっかけにすぎねぇ。あいつ等は最初から戦争を起こすつもりだったんだ。あいつ等はこの国を植民地にしたいと思ってるんだよ。どのみち、それを拒否するなら戦争は避けられない」


「そんな……そんな事って」


「だからアイリス、別に君のせいではないんだ。戦争が起こるのは。帝国側の都合で戦争を起こそうとしているだけなんだ。だから気を病まなくていいんだよ」


「で、ですが、戦争になれば人が死にます。せっかく王国で流行り病が治まってきたのに。それなのに戦争が起きて大勢の人が死ぬなんて、そんなのあんまりです」


 私はこれから起こる惨事を予想し、そして不安に思いました。


「ああ……その通りだ。だけど、言葉だけではどうしようもない。相手が矛を突きつけてくるならこちらも矛を突き返すだけしかない時もある。正論だけでは解決できない。時には武力を必要とする時も世の中にはあるんだ」


「その通りでございます……もう、どうしようもないのですね」


 私はなんと無力な存在でしょうか。自分の無力さが恨めしいです。薬の力など万能ではありません。人は死んでしまったら終わりです。死んだ人間をよみがえらせるような、魔法のような力は流石にありません。


 失った命は元には戻らないのです。それでも人は争うというのでしょうか。


 なんと愚かな事でしょうか。でもそれが人間なのかもしれません。


「何とか戦争を回避するように外交をしてみる……だが、それが無理な場合、本格的な軍事衝突をする可能性もある」


 戦場で傷つき、命を落とすのは兵士でしょう。だから私は直接そのような事にはならないかもしれません。ですが、大勢の人が傷つくというのはそれだけも胸が痛むことでありました。


 私は運命という巨大な波の流れに漂う、一枚の葉っぱのようなものです。


 流されるままに時代の流れに身を任せるより他にありませんでした。

 

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