レオ王子の治療をします
なんでしょうか。随分と慌ただしいです。使用人達は大慌てです。
「どうかしたのでしょうか? 随分と皆焦っているようですね」
「何かあったようです。他の使用人に聞いてきましょう」
私はいつも通り部屋で調薬をしていました。それが私のお仕事ですし、この場にいる意味ですから。お城にいる大抵の時間は調薬をして過ごしています。
ヴィンセントは他の使用人に話を聞きに行きました。
「どうでしたか? ヴィンセントさん」
「た、大変です! アイリス様! レオ王子がっ! レオ王子がっ! なんと――」
普段冷静沈着な印象を受けるヴィンセントが大慌てをしているのです。私は直感的にこれはもうただ事ではない事が起こったのだと理解しました。きっとこれは良くない事が起こったのです。
「レオ王子が軍事演習中の事故でお怪我を負われたそうです!」
「な、なんですって! レオ王子がお怪我を!」
確かに私は色々と悪口を言われましたが、それでもレオの心が真っ直ぐだからこそ発せられたものなのだと理解しておりました。本心はとても良い子のはずなのです。だからその不幸を喜ぶような卑猥な感情は微塵も抱きませんでした。ただただ私はレオの事が心配になったのです。
「は、はい。どうやらその通りです」
「どこにいるのですか?」
「今、ベッドで横になっているとの事。出血が酷く、止血をしても中々血が止まらないとの事で」
「ヴィンセントさん、私もすぐに向かいます!」
私は出来るだけの治療薬を持って、レオの元へ向かうのでした。
◇
「レオ王子! しっかりしてください! レオ王子!」
「ううっ……ううっ」
レオを中心に、使用人数名が輪を作っていた。
「今、医者を呼んできますから! レオ王子!」
止血をしつつ、使用人達は大慌てをする。あまり意味の無い事だ。朦朧としているレオには言葉は届いていないであろうし、大声がストレスになっている事だろう。
気が動転している使用人達もそこまで気を配る事ができていないのだ。
「退いてください!」
治療薬を抱えた私は輪の中に飛び込む。
「あ、あなたは薬師のアイリス様!」
「皆様、静かにしてください。騒ぐだけで何事も解決するわけではありません」
私が言うと使用人達は沈黙した。
私は状況を観察しました。傷は深い、ですが心臓や肺は避けられているようです。怖いのは感染症でしょうか。ともかく早急に消毒する必要がありそうです。
私は消毒薬をガーゼに染みこませました。
「うっ……ううっ……」
レオは呻きます。
「しっかりしてください。レオ王子。気を確かに」
次に私は患部を開きます。酷い傷です。脇腹に大きな穴が出来ています。私はそこに塗り薬を塗り込みます。
「うっ! ……い、いてぇ」
「我慢してください。レオ王子」
塗り薬を塗った後、包帯に薬を染みこませ、まき直します。
それから飲み薬を飲ませます。
ごくっ、ごくっ、ごくん。
レオ王子は少し落ち着いたような表情になりました。薬の効果には痛み止めの効果もあります。それで気持ちが落ち着いたのでしょう。
睡眠剤のような、眠くなる効果もあった為、レオはすー、すー、すーと寝息を立てて眠り始めました。その寝顔は実に子供らしく可愛らしいものでした。
猫のようです。ずっとこのまま寝ている方が彼はきっと可愛くて好まれるでしょう。猫も寝ている時は可愛いのですが、起きていると泣きわめいたり飛び跳ねたり大変です。
まあ、それも猫の魅力なのですが。
「アイリス様……レオ王子は」
「恐らくは大丈夫です。ですが何があるかわかりません。これから私は彼の看病をします」
「ありがとうございますアイリス様。何か私達にできる事があったら遠慮なく申してください」
「ええ。そうしてください。出来たら食事をここに届けてくれないでしょうか? パンとスープ、それから水。簡単で食べやすいもので構いません」
「わかりました、手配します」
こうして私はレオの看病を着きっきりで行う事になったのだ。こうして眠れない夜が過ぎていきます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます