レオ王子が怪我をしてしまいました
その日から私達は宮廷での日常を過ごしていきます。私は調薬をする毎日です。そしてエルもまた仕事があります。あの日から私もまた、レオの言葉が気にかかるようになりました。
エルと私ではそもそも身分が異なるのです。今は薬師として重宝されていますが、将来それが続くとも限りません。世の中から病がなくなる事はありませんが、それでも沈静化される事はあると思います。
そうなると私も大事にはされなくなるかもしれません。十分にあり得る可能性でしょう。そうなるとエルと私が結婚する時、王族でもなければ貴族でもない身分ですから。あくまでも結婚とは可能性の話です。王族でも貴族でもない私との結婚を、保守的な貴族が反対するでしょう。
仮に国王と王妃が認めたとしてもです。そうなのです。二人の関係は茨の道なのです。
だから恐らくこのままの距離がいいのでしょう。王子と薬師。それで構いません。エルは素敵な男性だとは思いますが、きっと世の中にはもっとお似合いの女性がいるはずです。
ですから彼が幸せになれるような人と結ばれればよいのではないか。
私はそう考えています。
そして、私をかき乱した問題のレオはまたもや騎士団と軍事演習を行っているそうです。
お城の近くに演習場があり、そこで騎馬戦を行っているらしいです。安全には気をつけてはいるとの事ですが、戦争の練習をするのです。危険はゼロにはできません。
家でおままごとをしているわけではないのです。
何となく私はレオの事を考えながら窓から青空を見あげました。
◇
レオは考え事をしていた。実の兄エルの事。そしていきなりやってきた薬師アイリスの事。王宮に入ったのは百歩譲って許すとしよう。だが、エルと恋人関係になるような真似は容認しがたかった。
一時的な感情でそういう関係になってもきっと後悔するだけだ。なぜなら王族とそれ以外の立場の人間では身分が異なる。異なった身分の人間との恋は大抵上手くいかない。
天秤の釣り合いだ。片方が軽すぎても重すぎても均衡は保てない。分相応というものがあった。
(兄貴……どうしてあんな地味女の事をそこまで)
兄であるエルがそこまで執心する理由がわからなかった。どこにでもいそうな地味そうな女だ。確かに顔は整っていて、品はあるがそれでも王族のような派手さはない。あの程度の女、兄は四六時中アクセサリーのように身につけたり外したりできるであろうに。それも同時に何個も。
レオはそう考え事をしていた。故に注意力がなくなる。目の前に杭があるにも関わらず、ぼーっとしていたが故に注意がいかなかった。馬の制御を怠ったのである。
「レオ王子!」
騎士が声をかける。
「えっ!?」
ヒヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!
馬が暴れた。目の前の杭を警戒したのであろう。この杭で出来た障害物(バリケード)は敵国が戦争で使う時のものである。それを模したものであった。
「う、うわっ! ああっ!」
レオは宙に放り出された。グサッ。そして杭に落下をする。
「レオ王子! レオ王子!」
あまりに高いところから落下し、杭に刺さった。鎖帷子をしているにも関わらず、レオはかなり深い傷を負ったに違いない。
「うっ、……ううっ」
不幸中の幸いな事に、胸のあたりの損傷は防げた。だが、腹部から帯びただしい血が流れる。
傷は浅くなかった。下手すると命に関わる程に。
「レオ王子! レオ王子! しっかりしてください!」
騎士達はレオを介抱する。
「し、城だ! とにかく城へ連れて行くんだ!」
騎士達はレオを城へ運び始めた。
◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます