突如隣国に薬師として招かれてします
これからどうしよう。婚約者を嘘つきな義妹(いもうと)に奪われた、その上に実家を追い出された私は当てもなくギルバルト家の付近を彷徨っていました。
なにせ私にはお金がありませんでした。そしてギルバルト家以外に頼れるツテは何もありません。私にあったのはせいぜい長年の研究で培った薬の知識くらいでした。
そんな事をしているうちに、私の目の前に一台の馬車が通りがかります。
「止まれ!」
声がしました。馬車が私の前で止まります。
い、一体何なんでしょう。
中から降りてきたのは執事服を着た男でした。
かっこいい。私は思わずそう呟いてしまう程でした。高い身長。細身の身体。そして整った顔立ち。品性のある立ち振る舞い。
私の理想を体現したような、完璧な執事でした。執事は私の前で突如、一礼する。
「そこのお嬢様。ここら辺にギルバルト家があると聞きます。どこにあるかご存知ですか?」
執事は丁寧な口調でそう聞いてくる。
「は、はい。ギルバルト家はこちらを行ったところにあります。でも、なぜギルバルト家に。よろしければ理由を教えてくれませんか?」
「はい。風の噂でギルバルト家に薬に精通した女性アイリス様がいらっしゃると伺いました」
「あ。はい。アイリスは私です。どのようなご用件でしょうか?」
「なんと! あなたがアイリス様ですか!? 大変失礼しました。私の名はヴィンセント。隣国ルンデブルグで執事をしている者です。突然ではありますが、あなた様を我が宮廷に薬師としてお招きしたいのです」
「ま、まあ? それはなぜですの?」
私はあまりに突然の事に驚いてしまいました。
「我が王国の王子、エルドリッヒ様が流行病に侵されてしまいました。ありとらゆる薬師を招いても中々状態が改善せず、このままでは座して死を待つばかりでしょう」
「そ、そんな事が……」
「そこであなた様の力を風の噂でお伺いしたのです。長年薬の研究をされてきたと伺っております。あなた様のお力であれば、我が国の王子。エルドリッヒ王子の病を治せるやもしれません」
「で、ですが……私に治せるかどうかも」
「私達としても藁にもすがる気持ちであります。もしあなた様で手が終えずとも誰もあなたを恨みません。どうか、来て貰う事だけでもできないでしょうか?」
そう、執事ーーヴィンセントは私に傅いた。迷うまでもなかった。どうせ行く当てもないのだ。それに、私で治せなかったとしても恨まないとも言っている。
それに私は困っている人を見捨ててはおけなかった。私の研究してきた薬の力が役立てる事ができるのであれば、迷う余地など微塵もなかった。
「わ、私でよろしければ。でも、治せる自信はありませんよ」
「構いません。来て頂けるというその気持ちだけで。さあ、どうか馬車に乗ってください」
私は執事ヴィンセントと一緒に馬車に乗り込み、隣国ルンデブルグへと向かっていった。
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