「嘘つきの義妹に婚約者を寝取られ、婚約破棄されましたが、何故か隣国の王子に求婚されています。私の作った薬が必要と言われても、もう遅いです! ホワイトな宮廷で薬師として雇われたので」

つくも/九十九弐式

嘘つきの義妹に婚約者を寝取られた上に実家を追い出されてしまいます


「アイリス! 貴様との婚約を破棄する!」


 それは突然の事でした。


 呼び出された私相手に婚約者-ーロズワールが無情にもそう告げてきます。


「ど、どうしてですか!? なぜいきなりそんな事を!?」


「義妹(いもうと)のディアンナから聞いているよ。君は屋敷の地下室で怪しげな毒薬を作っているそうだね」


「そ、それは違います! 私はそんな毒薬など作ってはいません!」


 私の名はアイリス・ギルバルト。男爵家に生まれた令嬢である。薬の研究をしていた母が亡くなってからというもの継母と義妹に無駄だ、無益だと馬鹿にされつつも、ずっとその後を引き継いできた。


「しかも、それを義妹のディアンナの飲ませようとしたそうだね。僕は心底、君という人間を軽蔑したよ」


「ち、違います! 私が義妹のディアンナに毒薬など飲ませていません」


「ロズワール様……お姉様の言っていることは大嘘ですわ」


 煌びやかなドレスを来た美しい少女が来る。だが、私はその美しさの裏には傲慢さや欺瞞で満ち満ちている事を知っていた。

 義理の妹ーーディアンナである。ディアンナは母が死んだ後、父が連れてきた継母の娘である。


「わたくし、大変怖かったんですの。姉の挙動不審に気づいた私は、咄嗟に飼っている犬に食事を食べさせたんですの。そしたらその犬は泡を吹いて死んでしまいましたわ」


「そんな……」


 よくもまあ、そんな嘘八百を並べられる。私はあきれ果ててしまった。


「う、嘘よ! そんなの!」


「あらっ。嘘じゃありませんわ。ねぇ、お母様」


 そのうちに継母も出てきた。継母はディアンナの母らしく、美しく若い見た目をしていたが、実際の所は見た目だけで、性格のねじ曲がった継母であった。


「ええ。そうよ。ねぇ、あなた」


「う、うむ」


 父も出てくる。父は継母の言いなりであった。完全に継母の尻にひかれていた。


「ねぇ。あなた、私の娘であるディアンナが嘘をついているはずがないでしょう。嘘をついているのはアイリスの方。アイリスは地下で毒薬を飲ませようとしたの。そしてディアンナのあまりの美しさに嫉妬したのよ。そうに決まっているわ」


「そ、そうだな……お前の言うとおりだ。ディアンナが嘘を言っているわけがない。嘘を言っているのはアイリスの方だ」


 実の父は告げる。


「そ、そんな……」


 私は絶句した。まさか実の父にそんな事を告げられるなんて、夢にも思っていなかったのだ。


「ねぇ。ロズワール……そうでしょう? 私が嘘を言うはずがない。嘘を言っているのはあの愚かな姉、アイリスの方よ」


「そ、そうだな……確かにその通りだ」


「でしょ……これが終わったら良い事の続きをしましょう?」


 ディアンナは妖艶に微笑む。私は確信した。ロズワールとディアンナは既に関係を持っていたのだ。


 大方ロズワールはディアンナの色香に惑わされたのであろう。


「あ、ああ……ディアンナ……僕は君さえいればもう十分だよ。そういうわけでアイリス、お前の婚約を解消するから、そのつもりでいてくれ」


 私はロズワールからそう告げられる。


「そ、そんな、あ、あんまりです! なんで私がこんな事に!」

 

 私はお母様の意思を継ぎ、薬の研究をしていただけ。世のため人のためになるようにただ一心不乱に努力していただけ。

  

 それなのにこんな仕打ち。あんまりであった。思わずその場で泣き崩れてしまいそうな程に。


 しかし、非情な仕打ちは尚も続く。


「ねぇ。お父様。こんな異常な姉をこの家には置いてはおけないわっ。そう思うでしょう?」


「う、うむ。ディアンナ。その通りだな」


「あなた……あなたにとって娘はもうディアンナ一人よ。あそこの女はもうあなたの娘ではないわ。一家の恥さらしの居場所はここにはないの。わかってるでしょ? ねぇ?」


「アイリス! ギルバルト家当主として告げる! 貴様は即刻我が家を出て行け! そして二度と我が家の敷居を跨ぐなっ!」


 実の父の非情な宣告。動けなくなった私は無理矢理引きずられて追い出される。


そして、着の身着のまま何も持たずに外の世界へ放り出される事になってしまいました。

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