屑な夫と妹に殺された私は異世界転生して復讐する

リオール

1、プロローグ

 

 

「ちょっとお姉ちゃん、この煮物何?すっごい不味いんですけど!」

「あ、ごめん……」

「たく、お前はいつまでたっても料理が上手くならねえなあ」

「ごめんなさい……」

「んも~お兄さん、いっつもこんなの食べさせられてるんですか?かわいそ~」

「そう思うだろ~?郁美ちゃん、俺に美味い料理作ってくれよお」

「え~あたしの料理は高いですよ~」

「いいよいいよ、体で払うからどう?」

「んもう、お兄さんったら、やだ~」


 目の前で夫と妹がいちゃつくのが視界に入らないように、私は俯きながら黙々と食事を続けた。


 これはいつもの事。

 夕飯時に私達夫婦の家に妹の郁美がやってきて、夕食を共にし。

 私の食事に文句を言いながらいちゃつく。


 そして。


「しゃあねえ、郁美ちゃん、外に食べに行こうぜ!」

「え~やっすいファミレスは嫌よ~?」

「まかせとけ、いい店知ってるんだ。……おい!」


 最後の呼びかけは、私にだ。


 視線を上げれば、右手を差し出す夫、明彦の手。


「お前の不味い飯なんか食ってられっか。外食いに行くから金出せ」

「はい……」


 私は言われるがまま、財布を渡す。


「ち、しけてんな、三万しかねえのかよ。おい、もっとねえのか!?」

「今はもうそれ以上は……」

「使えねえなあ、お前は!」

「お姉ちゃん、ちゃんとしてよ~?旦那様のためにもっと稼がなくちゃ!」

「そう思うだろ?こいつ、ほんと出来ないやつでさあ」

「もっと仕事増やせばぁ?」

「そんな……早朝から深夜まで複数掛け持ちしてるのに。この後もまた仕事に行くのに……これ以上増やすなんて」

「口答えしてんじゃねえよ!」


 ボロボロになりながら仕事を掛け持ちしてるのに、まだ増やせという郁美の鬼のような言葉に。

 さすがに反論しようとしたら、明彦の蹴りが入った。


「ぐえ!」


 思わず苦悶の声をだして、床にうずくまる。


「お前は俺らの言う事聞いて、黙って仕事してりゃいいんだよ!しょっぼいお前を嫁に貰ってやったんだ!態度で感謝を示せってんだ!!」

「ご、ごめんなさ……い!ひ、ひぐう、蹴ら、ないで……!」

「なあにお姉ちゃん、蹴るのが嫌なら殴ってあげようか?」


 そう言って、郁美はそばにあった盆を手にとり。


 ゴッ……!


 嫌な音が響く。

 思い切り頭を殴られたのだ。


 ポタリポタリと床に落ちる血。

 呆然とそれを見つめる私を尻目に、二人は出て行った。


 バタンと扉が閉じる音がして。

 二人の大きな声がまだ聞こえる。


「床、ちゃんと掃除しておけよ!」

「じゃあね~お姉ちゃん!」

「飯食った後は当然ホテルだろ?」

「え~でもそんなお金あるのぉ?」

「ま~無理ならどっか外ですっか?興奮するぞ」

「やだあ、変態~!」


 キャッキャと郁美が笑う声が徐々に遠ざかって。


 残るは静寂のみ。


「血……拭かなきゃ」


 頭をタオルで押さえながら、私は雑巾を取りに向かった。


 どうしてこうなったとか、今更考えてももう意味は無い。


 最初はこうではなかったのだ。

 明彦はよき夫で。

 郁美は可愛い妹だった。


 なのに、ある日体調を崩して仕事を早退した時。


 見てしまったのだ。

 ベッドで裸で抱き合う明彦と郁美の姿を。


 それから二人は遠慮しなくなった。いつでもいちゃつき、時には今からするから明日まで帰るなとか。酷い有様だ。


 私も私で、離婚して出て行けば良かったのに。

 それでも時々……本当に時々だが、優しくされると、やっぱりこのままの方がいいんじゃないかと思ってしまい。


 完全に、精神を病んでいた者の思考だと気付いたのは。


 気付い、たのは……


 視界が揺らぐ。

 いつの間にか私は床に倒れ込んでいた。


 意識が朦朧とする。


 手足が動かない。


 ああ、これはやばい状況なんだ。郁美に殴られた場所が悪かったのだろう。


 助けを呼ぼうにも、もう声も出ない。


 私は一人寂しく、死んでいく。

 こんな、こんな悲しい最期を迎えてようやく気付くなんて!


 後悔がひたすら押し寄せてきた。


 どうしてもっと早くに正気に戻らなかったのか。

 どうして早く出て行かなかったのか。


 どうして、あいつらの好きにさせていたのか。


 どうして、どうして……!!


 後悔が波のように押し寄せてくる。

 きっとあの二人は殺人の罪に問われるだろう。それだけが唯一の救いだと思いつつも。


 それでももっと痛い目に遭わせてやれば良かったと思った。


 復讐をしてやりたいと思った。


 ああでももう目を開けていられない。

 意識が消えそうだ。


 そうして、私の人生は終わった。全て、終わった──


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