PART8
”トミーと勇者たち”は、その後順調に興業収入を伸ばし、何でも彼を跳ね付けたアニメ監督のA氏の新作を抜き、実写も含めて日本映画のトップに躍り出た。
いや、日本だけじゃない。
公開されてからすぐにネットで海外に伝わり、米国のメジャーフィルム(ああ、ネズミの国株式会社じゃないぜ。どちらかというと、あっちとはライバル関係にある別のプロダクションだ)から、ウチの会社が配給元となるから、是非米国で公開を”と打診してきたのである。
この出来事は彼のプライドをいたく刺激したようだ。
米国で認められてヒットしたとあれば、オスカーの候補にだってなりうるかもしれん。
新聞も雑誌も、そしてネットでも、大々的に取り上げられ、披露パーティ兼プレスリリースが東京の一流ホテルの宴会場を貸切って開かれた。
俺は雑誌社にいる知人のコネを使い、フリーのライターに成りすまして会場に潜り込んだ。
万が一向こうが俺を覚えていた時の用心のために、ツケ髭とかつらで形ばかりの変装はしたがね。
会場の中は”トミーと勇者たち”のロゴの入った、例のTシャツ姿の親衛隊があちこちに陣取っている。
壇上に陣取った彼は、偉くご満悦な表情だった。
記者たちも、そしてゲストも、妙に歯の浮くような言葉しか口にしない。
大方の質問が終わった後、おもむろに俺は手を挙げた。
向こうも見慣れない顔がいると思ったんだろうが、首からぶら下げていたパスで安心したんだろう、司会者(当たり前だが、やはりあのTシャツを着ていたが、こっちを指さす。
『長谷川監督にお伺いします。今回の映画が、貴方が制作されるより前に発表されていた小説だったというのはご存知ですか?』
会場がざわついた。
全員の視線が集中する。
『な、何のことですか?』
長谷川が怪訝な表情で俺を見た。
俺はかけていた眼鏡を取り、例の同人誌を取り出し、彼の方をまっすぐ見ながら言った。
『監督、貴方はこれに見覚えがあるでしょう?まだ高校生ですから、今からおよそ17年前に神奈川のS高校の文芸部で・・・・』
長谷川の額に青筋が立ち、表情が引きつった。
司会者が目配せをする。
すると、会場に居たTシャツ姿の”親衛隊”が四~五人俺に近づき、周りを取り囲んだ。
『すみません、ちょっと外に出て頂けますか?』身体のごつい、猪みたいな顔の男が、精いっぱいドスを効かせて低い声を出す。
『断る、といったら?』
俺は気にもせずに答えた。
『出て頂きます』
別の痩せた、目つきの悪い男が言った。
嫌でも言うことを聞かそうという意思が丸見えだ。
仕方がない。
俺は連中にせっつかれるまま、連中に囲まれて会場の外へと出た。
ええ?
”前にも似たようなことがあったみたいだな”
だって?
それだけこういう連中は行動パターンがそっくりだってことさ。
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