親切の真偽

 彼女は昔から嫌味な子だった。

 私が先に結婚して、先に家を買って、先に子供が出来たことを、おそらく妬んでいる。こんなもの、ただの巡り合わせなのに。


 近頃はSNSでの新築自漫が止まらない。

 狭いベランダ。敷き詰められた2階建て。夏には自宅のガレージから車を出して、通行人に丸見えのプールの映え写真。

 我が家は、中古物件だ。しかし、写真でもわかる程度に我が家の方がベランダも部屋も広い。床暖房付きで屋上もあり、気候が良ければBBQ、夏はプールも周囲の目を気にせず楽しめる。

 当初は新築を探していたが、どこも同じような造りで気に入った物件が見つからなかった。そんな折、不動産屋が紹介してくれたのが今の家。

 中古ながら築年数も浅く、かなりの優良物件だった。建て替えたばかりだったが、急な海外への転勤で売りに出されたのだと聞いた。


 新しいかろうが古かろうが、自分が良いと思ったものを選ぶのが私のスタイルだ。彼女は正反対だった。

 彼女は常に私をライバル視しているようで、子供を私立の幼稚園や小学校に入れたと、わざわざ報告してくれた。うちは近所の仲良しのお友達と同じ所がいいと言う子供の意見を尊重した。余程の所でない限り、親の見栄で決めることではないと思ったからだ。


 人生観において、彼女と分かり合える事は欠片も無いと分かりきっている。できることなら関わり合いたくない。

 だからこそ穏便に済ませたかったが、あまりにしつこく腹が立ったのである事実を教えてあげた。


 高校からこっちに越してきた彼女は知らない地元の常識。

 彼女が住んでる新築は、この辺りでは有名な心霊スポットだった。戦国の頃は首塚で、昭和の終わりまで墓地だった。彼女の家が建つ10年前にあった食事処が火事で全焼した。死者も出た、大きな火災だった。

 勿論この地元民は知っているので気味が悪くて避けるのだが、彼女は悪どい不動産屋に騙されるかたちで購入した。旦那さんはこことは全く違う地方の人なので知る由もない。

 それを知らずに何かあって手遅れになってはいけないので、SNSのコメント欄で教えてあげた。

 いいねが1番多い、我が家に対抗して自宅のガレージでBBQを楽しんでいる投稿に。


 鬱陶しい事この上ない彼女ですが、私は嫌がらせをしているつもりはほとんどありません。多少の意地悪さはあったかも知れませんが、本当に限りなく親切心に近いのです。

 だって、 SNSで幽霊屋敷自慢とかバズりそうじゃないですか。彼女喜びますよ、きっと。




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