幼馴染の思うところ

月之影心

Side:Seiya 1

 俺の名前は加藤誠也かとうせいや

 頭脳も肉体も普通よりは多少マシかなと思える辺りの高校生だ。

 見た目はまぁ、高校に入って二人に告白されたので悪くは無いと思いたい。

 残念ながらと言うか申し訳ないと言うか、二人ともお断りさせて頂いたが。


 そんな俺には小学3年生の頃から付き合いのある幼馴染が居る。

 名前は片桐咲良かたぎりさくらちゃん。

 お勉強の成績は常にトップ5には入るが、唯一運動だけは何も出来ない。

 容姿は十人が見れば最低でも九人は『可愛い』と言うだろう。


 幼馴染とは言うものの、小学3年生ともなれば既に男女の違いは意識している年頃なので、いつも一緒に居たとかの関係でも無い。

 なので、寧ろ幼馴染と言うよりは、『隣の家に住む同級生』という認識の方が強かったかもしれない。




 「誠也くん!数学の参考書貸してくれない?」


 突然の咲良ちゃんの来訪に驚いたのも無理はない。

 咲良ちゃんが俺の部屋に来る事なんか、付き合いが始まって8年近く経つ中で数える程しか無いのだから。


 「うぉっ!?びっくりしたぁ。」

 「そんなにびっくりしなくてもいいじゃない。」

 「突然どうしたよ?参考書?咲良ちゃんが持ってるやつの方がレベル高いだろ?」


 と、俺は本棚に並べてあるのまっさらな参考書を取り出してパラパラと捲った。


 「そんな事ないわよ。それに私数学だけはどうも好きになれなくて。」


 確かに、トータルでトップ5に入る成績でも数学だけは苦手なようで、それさえクリアすれば恐らく本当にトップで居るだろう。


 「これでいい?」

 「ありがと。」


 咲良ちゃんに参考書を渡すとニコッと笑顔を見せて部屋を出て行った。




 玄関の閉まる音が聞こえた。

 俺は大きく息を吐き出した。












 「はぁぁぁ!緊張したぁぁぁ!」


 辛うじて平静を保てたと思いたい。


 そう。


 俺は咲良ちゃんの事が好きだ。

 初めて会った時、他の奴が思うのと同じように『なんて可愛い子なんだ』と思い、それ以来咲良ちゃんの事が頭から離れなくなっていた。

 来る日も来る日も咲良ちゃんに会いたい、咲良ちゃんと話がしたい、と思っていた。

 家が隣りなのだから、何かしら用事を作るとかして遊びに行けば良かったのだが、当時の俺にそんな知恵も度胸も無い。

 唯一、偶然(を装い)登下校の時間が同じになった僅かな時間が咲良ちゃんと話が出来る時間だったが、それだけでも俺にとっては至福の時間だった。

 高校に入ってもなかなか咲良ちゃんとゆっくり話をする時間が作れず、今もこうして少し話しただけでも俺の緊張はMAXに跳ね上がる。


 何とか咲良ちゃんとゆっくり話がしたい。

 これまで大した繋がりは無いけれど、自分の気持ちを伝えるきっかけが欲しい。




 そう思いつつ、今日の出来事を脳内で反芻していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る