第43話 突撃6

「まさか……」


「まぁあり得ない話だが。士錠が右足を失ったのは高校生の時だ。その時からずっと本当の足を隠していたことになる。常人が為せる技ではない。そもそも、人目につかず、自分の体の一部を隠すことなど、せいぜいもって一年が限界だ。だがあの男はもう義足になってから四十年も経っている」


「でも士錠は常人ではない……」


 幡中の意見に蛭橋は嬉しそうに笑った。


「お前も少しは頭が切れるようになってきたな。取り敢えず、今は追わないとならない。真相は捕まえてからゆっくりと聞いてやる」


 蛭橋はそう言って、フロアの出入り口へと向かおうと、瓦礫を大きくまたいだ。すると、足元に石膏で作られた士錠の頭が転がっていて、躓きそうになる。

 石膏をじっと見つめ、その不自然さに気を留めた。

 人形が爆発したのは間違いなかった。それなのにそのすぐ上に乗っていた石膏には傷一つついていない。まるでこの頭だけが強固に作られているかのように。


「気持ち悪いなぁ」


 幡中がその頭を蹴り飛ばそうとした。


「おい、待て!」


 ガラクタを蹴るのを止めた蛭橋に不可解な表情を向ける。


「ここを見ろ、何かついているぞ」


 蛭橋はその場にしゃがみ込み、石膏の後頭部を指さした。すると、そこには丁番のようなものが付いている。

 その丁番から側頭部にかけて、一直線になるように指でなぞると、白い粉塵で覆われて見えなかった溝が浮かび上がっていた。額には堀があり、そこから頭の中を開くことが出来る。


「これも士錠が仕掛けた罠なんじゃ……」


「罠を隠す必要がどこにある? これは何かしらメッセージかもしれねぇな」


 石膏の頭が箱のような造りになっていて、中身を見ることが出来る。それはつまり、士錠の脳を覗くということである。緊張で手に汗が滲み、ゆっくりと親指を堀の中へ差し込んでいく。


「開けるぞ」


 蛭橋がゆっくりと開けると、中にはビンゴカードが入っていた。既に使用済みで、ところどころあいている。しかしビンゴになった形跡はなく、また遊んでいる途中のようだった。


「何ですかこれ、ただビンゴカードですよね」


 幡中がそれを持ち上げて、様々な角度から眺めた。しかしそれは何の変哲もないビンゴカード。何かしらの意味があるとは思えない。


「幡中、ちょっと貸せ」


 蛭橋はそのビンゴカードを受け取ると、眉間にしわを寄せながらじっくりと観察した。縦列が二列あいていて、一列目に三か所、そしてその隣に一か所だけあいている。そして横列は一列になって三か所があいている。ゲームの最初にあけるはずの真ん中のマスが閉じられていて、縦列と横列が混同しないようになっていた。

 リーチはおろかビンゴにはすらなっていない。「BINGO」という文字に細工されているわけでもなさそうだ。

 しかし、こんなものをなぜわざわざ隠すようにして、石膏の脳内に入れたのだろうか。ただの捜査の攪乱にも思えるが、士錠という人間性から考えるにそのようなつまらないことはやらない。

 いつもゲーム性を重視した研究を続ける士錠が残したものには何かしらの意味があると考えた。

 蛭橋はひっくり返し、裏面を見る。そこにはあけられた数字が倒れている。じっと見つめ、蛭橋はその数字が何かを示しているのではないかと考えた。


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