第33話 隠し事3
野島は深夜、ムクりと目を覚ます。
昨日は長い運転と暑さを疲れたため、今晩は深い眠りにつき、朝まで目が覚めないと思っていた。
暑さのせいで目が覚めたのだろうか。掛け布団は無意識に蹴っ飛ばし、足の先のほうで丸まっていた。暗く、静まり返った和室には風の音と家鳴りだけが響いている。
真田は二階には決して行くなと言ったが何があるのだろうか。この天井のその先が無性に気になった。人は禁忌に対して無性に好奇心を抱くのだ。今なら、機を織っていた鶴の姿を覗いてしまった翁の気持ちがよく分かる。
この妙な気を紛らわせるため、起き上がり、トイレに入る。用を足し、手を洗うため、洗面台へと向かった。鏡の隣に設置されていた掛け時計の針は深夜二時を回り、もうすぐ三時になる。
すると、頭上から音が聞こえた。家鳴りでも、ネズミの足音でもない。水を止め、耳を澄ませると、この洗面台の直上から椅子のローラーがフローリングの上で転がる音がした。不思議に思い、じっと天井を見つめる。
真田はこの家に独り暮らしをしていると言っていた。それなのにこの不自然な生活音はなんなのだろうか。一つの疑問は増幅し、さらなる探求心をくすぐる。
好意で家に泊めてくれた真田に対して申し訳ない気持ちもあったが、その好奇心には勝てず、ほんの少しだけ二階に行ってみることにした。草木も眠る丑三つ時、流石に真田も寝ているだろう。
洗面台の証明を消すと、速足で自分の部屋の前まで行き、扉に手を掛けた状態で、周りを伺った。振り返り、真田が寝ている居間を確認した後、忍び足で玄関へと進む。
この廊下の先に階段がある。暗闇の中、壁を伝いながら階段へと差し掛かった。暗く伸びる二階への道を見つめながら、足を一段目へとかける。
するとその瞬間、背後から真田の尖った声が聞こえた。
「そっちはダメだと言っただろう」
その声に心臓が止まるかと思った。体中の汗腺から汗が吹き出し、息が上がった。全く気配を感じなかった。二階に気を取られ、周りの気配りがおろそかになっていたのだろうか。居間の扉が開く音すらも聞こえなかった。
野島は強張る表情を苦笑いで誤魔化しながら振り返る。
「ごめんなさい、素直に謝るわ」
真田は野島が想像のよりも怒っていない様子だった。軽く頭を掻きながら言う。
「いいんだ、分かってくれれば。人には一つや二つどうしても隠したいことがあるだろ。その二階はそういうものだ」
「ええ、確かにそうだわ。本当にごめんなさい」
野島は謝るほかなかった。先程までの子供じみた自分の行動を激しく戒める後悔が押し寄せてきた。
「ところで、その隠し事、君にもあるだろ。俺よりも遥かに大きな隠し事が」
真田は眼鏡を光らせながら言った。何か核心を突いたような言葉に対し、野島は惚けた表情で返す。
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