幕間3
トラット邸
キザルトの乗った馬車は整備された庭を通り、大理石でできた石畳が敷き詰められた白に染まった玄関に止まる。
キザルトは馬車から降りると玄関の扉がメイドの手によって開かれる。
開かれた扉を通ると赤い絨毯の敷かれ、天井からは豪華なシャンデリアが吊るされた玄関ホールが目に入って来る。
ホールの正面には階段が有り、正面には家族全員の集合した肖像画が飾られていた。
キザルトはその階段を上り、2階、3階と上っていき、3階の角部屋の前で立ち止まった。
扉は黒く塗られ艶のある輝きを放っていた。
キザルトは一度息を整え、扉を叩いた。
扉を叩き返事を待っていると中から入室の許可がくぐもった声で聞こえてきた。
「失礼します・・・」
キザルトは扉の前で声を掛けてから扉を開く、扉を開くと書類が積まれた執務机から壮年の男性が顔を上げた。
男性はキザルトと同じ金髪をオールバック纏め、グレイの瞳を鋭く光らせキザルトを見る。
「何の用だ?キザルト私は仕事が立て込んでいるのだ、手短に話せ」
男性は書類にサインをしていた手を止めキザルトの顔を観察する。
「父上、今日僕は運命の出会いをしました!あのお可憐な佇まいまさに僕の理想です!つきましては結婚のお願いに上がりました」
キザルトは左手を胸に当て右手を前に出し少し顔を赤らめ話した。
それを聞いて男性は眉を一つ上げ、キザルトと一緒に入室してきた老執事へ目を向ける。
老執事は一度頭を下げ「お相手の女性には断られてございます」と答えた。
それを聞いたキザルトは老紳士の方を向き。
「何を言うバーザックあの方は照れていただけだ、必ず了承の返事をもらうつもりだ!」
キザルトは自信満々に了承を貰えると答える、だがバーザックは首を振っていた。
そんな2人を見て男性はバーザックと同じ様に首を振り。
「下らん、お前はトラット家の長男なのだ、
市民だと妾になるが妻を何人も養えるほどトラットは豊かではない、今は南の港町ラッツリードからの塩の関税で持っているが、財政は余り豊かではない。
特産が有るわけでないトラットは財政が厳しいのだ、お前も執務を手伝うようになれば嫌でも分かる事になるだろう・・・」
男性はキザルトを説得するように説明する。
そんな男性の言葉を聞きキザルトは振り返り。
「僕はあの人以外目に入りません!政略結婚などしなくてもトラットは問題ありません!」
キザルトは叫ぶと執務室を出て行ってしまった。
「はぁ、キザルトももうちょっと領地経営に興味を持ってくれれば、私も楽になるのだがな・・・」
男性が頭を抱えてため息をつく、その様子をバーザックは頷きながら。
「キーレル様申し訳ございません、坊ちゃまのこと以外にご報告したいことが・・・」
バーザックは頭を下げながらキーレルに話しかける。
キーレルはそれだけでやっかい事だと気づき、もう一度深いため息をつくと話す様に促した。
「今日坊ちゃまと行った露店で気になることを聞きました。実はその露店孤児院の子供達がやっていたのですが・・・」
バーザックが話始め孤児院の子供たちがと言った所で声が上がった。
「待て!孤児院の子供たちが?露店だと?それは孤児院を出た子供がと言う事か?」
キーレルが眉間に皺を寄せバーザックに質問する。
その様子は明らかに意表を突かれたようで、知らなかったことが表情から分かった。
「いえ、まだ5歳から10歳前後の子供達でした」
バーザックの報告を聞いてキーレルは執務机を叩き。
「それは補助金を受け取っていながら、孤児たちを不当に働かせていると言う事か!バーザックなぜその場で衛兵に捕らえさせなかった!」
キーレルは激高してバーザックを問い詰める、するとバーザックは声のトーンを落とし。
「それは露店の経営者が言うには補助金は孤児院に送られていないと言うのです、だから自分たちで稼いでいるんだとか」
バーザックは静かに報告する、だがキーレルには心当たりが無いようだった。
「補助金は毎月町の予算から払われている!なのに送られていないとはどういう事だ?もしや着服してる者がいるのか?バーザック調べろ!補助金の流れを徹底的に調べ上げろ!」
キーレルが激高しながら支持を出す、バーザックはその指示を聞き深く頭を下げながら目を細め自身の怒りを心の奥に止める。
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