第58話マーナの悪戯

私が差し出した剣を、アベルは少し震えながら両手で受け取った。

 受け取った瞬間、アベルは震えて停止した後、徐に剣を鞘から引き抜いた。

 剣は片刃の曲刀で刀より幅広なサーベルだった。

 風が流れるイメージがされているのか、全体的に丸みを帯びていて、柄の部分も丸く、風の流れる装飾がされたナックルガードが付いていた。

 ナックルガードの中心には緑色に輝く石が嵌められ、それを守るように流れる風のイメージがナックルガードに彫り込まれていた。


アベルが剣を振ると風が剣から勢いよく吹き出し、前方に流れるのを感じた。

 そして道の脇に生えていた木に深々に傷跡が刻まれた。

 その様子を見ながら私は考え、思い出に浸っていた。

 風刃って避け辛くて嫌いなのよね、風刃はPVPで散々対処してきたのよ、剣を持った戦士と戦う時は、必ず飛んでくるものと思わないと、負ける原因になりかねないもの。

 戦士は風刃を撃ってから近づくのが、セオリーって言われるくらい良く使われる攻撃ね。


私が考え事をしている間も、アベルは楽しそうに剣を振り風刃を作り、木に向かって発射していたが3発目で木がメキメキと音を立てて倒れた。


「なんか、少し眩暈がするな」


アベルは呟きながら、頭を押さえ首を振っているので、私は近寄りながら。


「MP、魔力の使いすぎだと思います、普段から魔力を使っているわけじゃないから身体が驚いたのだと思う」


「これが、魔力を使う感覚・・・」


アベルはブツブツと呟いて考えこんでしまった。

 アベルが考えこんでいると、マーナが唐突に弓を引き、ニヤリと笑ってアベルの影に矢を打ち込んだ。

 アベルはいきなり身体の自由を奪われて。


「うわぁ!な、なんだこれ?」


アベルは驚きながら、動かせる眼球だけを動かし辺りを確認しだした。

 マーナはニヤニヤ笑いながら、アベルの前に回り込むと、まじまじとアベルの状況を確認し始めた。

 アベルはこの状況を、マーナが引き起こしたのだと分かり、唸りながら。


「マーナ!何のつもりだ!」


アベルが動けずに怒り出すとマーナが。


「一人だけ、新しい武器試してるのが悪いのよ、あたしも試したいのに」


マーナが唇を尖らせながらそう呟くとアベルは。


「でも、俺に試さなくてもいいだろ」


アベルが呆れたように言うとマーナは、横を向き。


「だって、本番でいきなり使うのはちょっと・・・」


マーナが不安そうに呟くので、アベルは肩を竦め。


「分かったよ、その代わり効果時間しっかり把握してくれよ」


アベルは諦めたようにそう言うとマーナは、笑顔で頷いた。

 

「それにしてもすごいな、本当に動けない、これだけ動けないんじゃ反撃は無理だな」


アベルは暇なのか動こうとしては感想を呟いていた。

 私は暇になったので、他に使えそうな物は無いかストレージを漁っていると。 

 少ししてアベルが声を上げたので振り返る、見るとアベルの指が少し動いていた。


「今1分ぐらいか?少しずつだけど停止が溶けて来たみたいだ」


アベルの報告通り少しずつだけど動けるヶ所が増えてきてる。

 そうして2分経過した所で、アベルが「おっとと」と言いながら躓くようにして動き出した。


「効果時間は二分ぐらいって所か・・・」


アベルが身体を動かしながらそう言い、マーナも頷き、アベルの影があった所に刺さっていた矢を引き抜いた。

 武器の性能を確認するというアクシデントは有ったけど、1時間半ぐらいで森に入る場所に到着した。


森の入り口はかなり木々が茂っていて、薄暗くなっていた。

 足元の草も膝近くまで伸びていて、森に入っていく場所が無い状態だった。

 森の中も薄暗く奥まで見渡せない状態になっていた。

 すでに(探査)に幾つか反応が出てる、私達が入って来るのを今か今かと待っているのが、わかってしまうほど気配が感じる。


「ここから森の中に入る、十分気を付けてくれ」


アベルが真剣な顔でこちらに注意をすると、マーナが少し前に出て。


「それじゃあ、索敵するね」


マーナが前に出て辺りを警戒し始めた。

 アベルと私はその後について森に入り始める。

 

私たちが森に入るとすぐに動きがあった。

 何匹か私達から離れていくが、一匹こちらに走って近づいてきた。


「何か近づいてくる!」


私が叫び後ろを振り返る。

 まだすぐ引き返せる距離だ。


「一度後ろに戻ろう!」


私が叫ぶとアベル達は後ろに走り出した。

 それに気付いたのか、魔物も勢いを付けて走って来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る