第17話臨時治療

資料室を訪れた私は。

 客がいない資料室をどうにかできないかと色々提案してみたけど。

 解決策は見つからなかった。


「そもそも講習会を何故義務化しないのですか?」


私は疑問に思ったことをご老人に聞いて見た。


「それは、1日でもクエストを受けて金を稼ぎたいと、冒険者から苦情が出たからじゃ」


ギルドは生存率を上げるためにやってるのに、苦情が出るんじゃ力も入れずらいのね。

 これ以上は有難迷惑かしら。


「そうですか?それでは仕方ありませんね。

 本を探して下さりありがとうございました」


私は丁寧にお礼を言いお辞儀をした。


「儂のために色々考えてくれてありがとうね」


ご老人は嬉しそうにそう囁いて見送ってくれた。


冒険者は貧困に喘ぐ人もいるみたいだし、私にできる事なんて限られてる。


私は自分のちっぽけな手の平を見つめながら、何かできないかと考えてみるけど。

 回復魔法には自信はあるけど、お店開いて稼ぐ技術は・・・ん?有るわね、裁縫なら自信ある。

 でもお店の経営なんてしたこと無い、バイト経験は有っても経営経験は、それにお店に係りっきりになっちゃうのは・・・


私は自分が何かできないか考えながら階段を下りていく。

 何とかしたい、でもどうしたらいいか具体的な案が浮かばない、自分自身にもどかしさを覚えながら階段をおり切る。

私は一度、思考を切り替えてクエストが有る掲示板に向かう。


私が下りて来たことに気付いた冒険者たちの視線が集中するけど、気にしない、だって気にしたってどうにも出来いないじゃない。

 掲示板に近づいた私はクエストを見てみる。


う~ん銅クエストじゃ余りいいクエストは無いみたい、薬草採取とお遣い、うぁ、ゴミ捨て場の掃除なんてのもある。

 薬草採取にでも行って来ようかしら?資料室で手に入れた情報も気になるのよね。


私が掲示板前で悩んでいると。


「おい、あんた、神官なんだろ?今クエストから帰ってきた所なんだけど、怪我しちまって金なら払うから治してくれねーか?」


背中に掛かる声に気付いた私が振り向くと、そこには頭に布を巻いて、腕に添え木替わりの鞘を布で一緒に巻いた男性が立っていた。


私は吃驚しながら「大丈夫ですか?今、回復しますね」と声を掛け『ヒール』を唱えた。


光が男性の身体を包むと、痛みで引き攣らせていた顔が、一瞬で痛みが引いた喜びで笑顔になった。


「助かった、へまして怪我しちまったけど、あの腕じゃ仕事休まなきゃいけねーところだった」


男性は喜ぶ顔から一転、困ったような顔になり。


「治療費なんだけど、今持ち合わせが余り無くてよ、これしかないんだ」


男性は懐から革袋を出し、自分の手の上でひっくり返して中身を出した。

 中からは大銅貨3枚と小銅貨4枚、後は雑貨が11枚ほど出てきた。


「すまねー、今持ってる金はこれしかねーんだ、頼むこれで勘弁してくれ」


男性は両手で有り金全部を差し出してきた。


仕方ないわよね、持ってるお金全部出してくれたみたいだし、確か骨折って神殿行くと中銀貨掛かるのよね。

 当たり屋の人がそんなこと言ってたし。


私は笑顔で差し出されたお金を受け取り懐に入れる。


「ありがてー、神殿行くと糞高い金要求されて、無いって言ったら、治療してもらえなくて困ってたんだ。

 いやー助かったよ、ありがとな」


「いえ、喜んで頂けた様で良かったです」


私と男性のやり取りを聞いていたのだろう食堂に居た冒険者たちは。

 ゾロゾロ私の居る方へ近づいてきた。

 中には片腕が無い者、足や腕に添え木をした者もいた。

 私はその集団に気付きため息を付いてから受付嬢のレインさんの所に行き。


「回復の必要な人の治療をしてもかまいませんか?」


尋ねられたレインさんは。


「いいんですか?あの方たちは、神殿で治療していただけなかったからあのままなのですよ?」


「今日だけ特別です、余り安い治療費で治療したら神殿に怒られちゃいますから」


私はレインさんに話し終えると食堂のテーブルに行き腰かけると。


「今回だけ特別に治療いたしますが、神殿に睨まれちゃうのは嫌なので、お金は戴きますからね」


私がギルド内に聞こえる声で叫ぶと、冒険者達は「おお」「わかったよ」「助かる」口々に答えが返って来る。


「では、一人ずつ向かいの席に座っていただけますか?」


私が声を掛けると我先にと冒険者たちは押しかけて来るのを見て、お金を入れるのに良さそうな帽子を取り出し叫んだ。


「急がなくてもちゃんと治療しますから並んでください」


私の声を聞いた冒険者達は迅速に列を作り始める。

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