第104話 凛花
「アシェリナッ!!」
「アシェリナ殿ッ!!」
倒れたアシェリナに向かってインネは急いで治癒魔法を唱える。
しかし――
「くっ・・・!!」
「インネ殿、どうされたっ・・・!?」
「魔法力が、もう・・・」
大幅に魔法力を削られた中で、大怪我をしたオクリタに全力で治癒魔法をかけ続けていたインネに限界が見え始めていた。
「エリスさんっ、
「は、はいっ!!」
「アシェリナに治癒魔法をお願いしますっ!魔法は制限されているかもしれませんが・・・彼を、アシェリナを――」
最後は言葉にならなかった。眉を潜め今にも泣き出しそうなミトラは、ただの学生でただの子どものようだった。
エリスと
「All Element
「All Element
2人の手のひらに淡い光が灯る。
「精霊の
「
血の気を失って動かないアシェリナは蝋人形のようだ。そんな緊迫した空気に嗤笑が響いた。
「最強と謳われる
2人の少女の頭を撫でながら、ファルナは愉快そうに口角を上げた。
そこに鋭い鎌風がいくつも放たれたが、ファルナは虫を払うように魔法を打ち消す。
「はぁ、はぁ、はぁっ・・・!!」
両手を向けきつく睨むミトラも顔色が悪い。
「バカの一つ覚えのように同じElementを・・・。あんたら、飽きねーの?」
「飽きるも何も、僕たちは使役した精霊と共に生きるんだ。」
「そうやっていつまでも昔のやり方を引きずっているからこんな結果になるんだ。」
「何だとっ――!!?」
「かつて咎人も、負の意識を植え付けることができるのは1つの精霊だけだった。今じゃあ使役権限が解除されて、そんなもの無いに等しいけどな。でも、お前さんたちはどうだ?
「・・・!」
「火・水・風・土、どれかの精霊を使役して一生その魔法を使い続ける。それってすげー窮屈で不自由だと思わねーか?
魔法力の器をでかくして、努力して、鍛錬して、そのElementを徹底的に追求するのが
「そうだ。我らが目指す理想の世界がその先にある。お前たちみたいな無頼漢を駆逐することが
ファルナが鼻で笑う。
「何がおかしいっ!!」
「刷り込まれた理想を使命と言っちゃうところだよ。」
「なに・・・!??」
「その思考に疑問を持たないこと事態が
ファルナは倒れているアシェリナを指さした。
「弱い立場の人間は助けなければいけない、という
そいつだって、
女の子だからといって相手は
「っ・・・!!」
ミトラは拳をキツく握った。
「それに比べ咎人は自由だ。Elementにも魔法力の器にも縛られない。日々進化する科学や魔法技術を一つの方向に掘り進めるんじゃなく、あらゆる可能性に手を広げる咎人こそ、この世界を統べる最強の人種と言っていい!」
「・・・お前たちの目的は何なのだ・・・!」
「お前たちみたいな弱い種類の人間を英雄とうたうこの世界を壊し、一から構築し直すんだよ。」
「なんだとっ・・・?!」
「だから、
とある奴を
「貴様らっ・・・!」
「はは。いい顔するねー。では、さらなる絶望をプレゼントしてあげよう。」
ファルナはそう言うと黄金色に輝く石をピンと弾いて見せた。
「その石は・・・?」
「あんたたちが絶対に発現できない魔法を見せてあげる。格の違いを思い知りな。」
ファルナは手に持っていた石に力を込めると、粉々に砕かれた破片を盛大に頭上にばら撒いた。
砕かれた破片から眩い光が溢れ出せば、大量のプラズマが発生しはじめる。
「こ、これは・・・!」
集まったプラズマは急速に収束すると地上めがけて放電を発現させた。
「
「
強烈な光を発した落雷は地上へ容赦なく襲いかかる。
マソインとインネは両手を大きく広げた。
「All Element
「All Element
「
ぶつかり合う魔法がバチバチッと弾ける。その勢いにインネとマソインは踏ん張り続けなければならなかった。
「さすが
高みの見物と言わんばかりにファルナは愉快そうにふんぞり返った。
「くっ・・・!!」
「ふんっ・・・!」
インネの魔法が弱くなっている。インネの様子を見る余裕は無いが、2つの防御壁は明らかに
(いつもならこの程度の魔法、拙者一人でどうとでもなるというのに・・・!もっと魔法力の器が大きければ、いや、
マソインは慌てて首を振る。これでは咎人を認めたことになるではないか。
迫る
「ア、アシェリナッ!?」
「アシェリナ様ッ、気がつかれましたかっ!?」
「・・・だ、めだ、ミ、トラ・・・おまえ、が。こわれち、ま、う・・・」
「ア、アシェリナァ・・・!今は君の方がっ・・・!」
アシェリナの傷はふさがっていない。エリスと
「それ、でも、ミト、ラ・・・これいじょ、う、器に、負担、をかける、な・・・!」
「でもっ・・・!!」
アシェリナはチラリとマソインたちの防御壁を見た。
「こ、のままだと、2人の魔法は、保たな、い。そしたら、全滅、だ・・・。なんとか、しねぇと・・・」
「でも、君のそのケガじゃあ・・・」
アシェリナは懐からある植物を取り出した。
「それハ・・・?」
「・・・レプトパス花?」
それは5枚の白い花びらで、花弁の中心が青くなっている可愛らしい花だった。特に珍しい植物ではなく、学園でも観賞用として飾られていることもある。
アシェリナの持つレプトパス花には数滴の蜜がわずかに光って見える。
「なんでそれを・・・・?」
「説明して、いる、時間はない・・・。
キョロキョロと探す先にインネが目に止まる。しかし彼女は防御壁を張るのに精一杯の様子だ。
「く、そっ・・・!氷さえ、あれば・・・っ!!」
「え、氷ですかっ!??」
アシェリナはコクコクと頷いて見せた。すでに話すことさえできずにいる。
「――!!もしかして、その花を凍らせることができればいいんですか?」
アシェリナがわずかに反応した。
「花を凍らせたらこの状況を打破できるかもしれない!?」
アシェリナがゆっくりと顔を上げる。すでに視点が合っていないアシェリナの目を見た時、エリスの考えは確信へと変わった。
「ALL Element
「エリスッ!?」
突然治癒魔法を止めたエリスは詠唱に意識を集中させる。
「どうしたの、エリスッ!?」
「氷を・・・」
「え・・・?」
「
「!!?」
魔法力の出力は制限されている。ましてや、上級属性変化を扱ったことのないエリスが氷を発現させるなんて到底無理な話であり、幾度の練習に付き合った
それでも、エリスの集中は今までにないほどの気迫を感じさせた。
「・・・つぅっ・・!!!」
光を濃く大きく膨らませるようにエリスは力を込めるが、それは依然小さいままだ。
「アシェリナサマ、しばしのご辛抱を。」
魔法がぶつかり合う中で軽やかに澄んだ音が響き渡る。細い線で花と蔦が彫刻してある曲笛を
「菲、
「何だ、この耳障りな音は・・・!」
ファルナもピクリと反応する。
なめらかに動く指が奏でるメロディーに
(エリス、私の魔法を使って・・・! ALL Element
音が風に乗り、魔法はゆっくりとエリスに注がれていく。すると
「
エリスは短く息を吐く。情けない・・・そしてそう思った。
未だに
『七光りってやつか。』
アシェリナの言葉を思い出す。腹が立ったが実力を認められるほどの力を、自分は持っていないじゃないか。
あの子は・・・あの子は一人であんな簡単に
再び
音と共に流れる魔法は
エリスの上級属性変化習得の練習に
「んん・・・っ!!!」
再び光が濃く強くなる。
「それでも、いい・・・!今、私にできることを――!」
「
曲笛を奏でる無防備な
「
大きな爆発音とともに冷気が奔る。吐く吐息に白い霞が溶けた時、透き通る巨大な氷壁がエリスの前に現れた。
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