第99話 会長の右腕
事態は深刻だ。目の前の霊魔をなぎ払いながらシェティスは頭をフル回転している。
倒しても倒しても溢れ出る霊魔はおそらく
シェティスは頭の中でタイムラインを瞬時に並べ、
(緊急回線すら繋がらない・・・!ミトラたちに何か起きているわっ!)
キィィンという音の正体をインカムだと思っていたシェティスは、後に続く悲鳴に思わずハッとした。
劈くような悲鳴があらゆる場所から聞こえ、建物が崩壊する音もする。
「伏せてっ!!」
シェティスは手からエレメントを放出した。一緒にセレモニーの片付けをしていた男子生徒の背後から霊魔が飛びかかってきたからだ。
言霊すら省略した咄嗟の攻撃は霊魔に直撃する。しかし、崩れるように倒れた男子生徒の腕から大量の血が吹き出した。
「キャアッ!」「わぁぁっっ!!」という叫び声に周囲は一気に混乱した。
「彼に治癒魔法をっ!」
シェティスは近くにいた女子学生に叫んだ。
「早くっ!」
「は、はいっ!」
慌てた様子で女子学生が治癒魔法をかけていく。
「ひ・・・た、たすけ・・・」
「もぅ、だめ、だ・・・」
「シ、シェティスさん・・・」
声のする方向へ振り返ると、複数の霊魔が勢いよくこちらに向かってきている。
「ALL Element
シェティスの手に朱色の光を放った
「
シェティスが空へ向けて矢を放つと、大きく放物線を描くように舞い上がった矢がみるみるうちに増えていく。
重力に抗えなくなった数十本の矢が焔に包まれると、拳大ほどの大きさのまま霊魔へ次々と墜下していった。
衝撃により周辺には熱波が吹き荒れる。シェティスは動けなくなった生徒たちの前に立ちはだかると素早く防護壁を生成した。
「え・・・」
「す、ごい・・・」
一瞬で霊魔たちは塵と化す。その威力と素早さに生徒たちは唖然とした。
シェティスは再び耳のインカムを操作する。
「ノノリ聞こえるっ!?」
ノイズ音がひどい。しかし、ノイズ音に混じった小さな声にシェティスは意識を集中する。
「・・・ん、シェ、・・・スさ・・・」
「私の声が聞こえる、ノノリ?」
「・・・い、きこ、ます。・・・っと、まって・・・さい。」
ノノリの声が次第に明瞭になっていく。どうやらインカムの電波を修正しているらしい。
「シェティスさ、ん・・・き、こえますか?」
「ええ!聞こえるわ、ノノリ。」
「デバイスのネットワークを修正しました。でもミトラさんに繋がりません。」
「こっちもよ。ミトラにはアシェリナ様がついているから大丈夫。それよりノノリ、緊急指示を出したいの。なんとかできる?」
「
「オッケー。メンバーは四方に散っているわ。そこから学園全体にアナウンスする。」
「分かりました、1分でするです。」
カタカタと音がする。数十秒足らずだがとても長く感じる。
「繋がりました!アイバン君、シュリさん、聞こえますか!?」
「こちらシュリ、聞こえます。」
「アイバンだ。こっちも聞こえるぜ!」
シェティスのインカムにも2人の声が追加される。
「2人ともデバイスのポートを開放してください。」
「ポート・・・ってこれか?」
「ノノリ、開放したわ。」
「了解です。」
再びノノリが操作する音がする。
「アイバン、シュリ。状況報告を。」
「こちらシュリ。東エリアの警備をしていました。4体の霊魔が襲来し撃破。霊魔は
「こちらアイバン。南施設の巡回中。シュリ、勝ったぜ。撃破した霊魔は6体だ。」
「今そんなこと言っている場合じゃないでしょ、アイバン!」
「状況はどこも同じ。どうやら招かれざるお客様が大勢訪問のようね。」
「大人気だな、サージュベル学園。でも気になることがあるんだ。」
「どうしたの、アイバン?」
「霊魔だけど、手応えが無さすぎる。まるで紙を殴ってるみたいだった。」
「同じくです。
「分かったわ。それもこちらで調べておくわ。」
「シェティスさん、ミトラ会長は?」
「連絡がつかないし、緊急回線も繋がらない。」
「え?!」
「大丈夫なのかよ?」
「ミトラにはアシェリナ様がついている。それより今はこの場を何とかしなきゃいけない。」
「シェティスさん、繋がりました!」
「ありがとうノノリ!」
シェティスは素早くデバイスを操作した。
「みなさん、聞こえますか?こちら
シェティスは背筋を伸ばす。
「まずは
次に
そして
霊魔撃退までの指揮は私シェティス・フラアニムが務めます。みんなでこのサージュベル学園を守りましょう。
そして最後に・・・。どうかみなさん無事でいてください。健闘を祈ります。」
シェティスはふぅと息を吐くと素早くデバイスを切り替えた。
「さすが会長の右腕ですね、シェティスさん。」
「ありがとう。さぁ、私たちも動くわよ。
「それって・・・。」
「ええ。あなたたちには各クラスの役割をすべて担ってもらう。今は
「・・・っ!」
「シェティスさん。」
「何、アイバン。」
「オレ、ここも東も守ります。だからシュリと合流させてもらえませんか。」
「アイバン・・・」
「だめよ。今は戦力を偏らせるわけにはいかない。」
「でも――!」
「
インカムの先でシュリが息を呑む。
Twilight Forest《静かなる森》で遭遇した
「学園全員でこの重大な局面に立っている。その中で、生徒代表の
「わたし・・・わたし・・・。」
シュリの声は震えている。
「甘えないで。そんな中途半端な気持ちでそのデイジーが入ったマントを背負っているの?」
「!!」
「デイジーの花言葉は『希望』。この学園の希望を私たちは背負っている。そしてミトラが掲げている
シュリは
『ようこそ、
ニッコリと笑うミトラの笑顔に、重かったマントは羽のように軽くなった。そして自分の誇りになった。
「1人じゃない。背中を預ける仲間を信じる。」
「ええ、そうよ。いけるわね、シュリ。」
シュリは涙を流さぬよう拳で強く拭った。
「はい!」
「
「はい。」
「そして敵の目的はまだ分からないけど、これはチャンスよ。この機会にミトラに憑いた呪いの正体を引っ張り上げる!僅かなヒントでもいいわ。」
「・・・!」
「迷わないで、私たちが守るべきものを。私はみんなを信じてる。」
4人はそれぞれ離れた場所で、同時にマントの左肩に刺繍されているデイジーの花を力強く握った。
「
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