第3章 2部
第91話 属性魔法評議会
――
各機関の代表が現状における問題や懸案を話し合い議論することで、意思共有を明確化することを目的とした交流の機会である。
主催場所は4つの機関を当番制とし、その年の運営は開催機関代表が取り締まり公平性を図ることとする。
表示された説明を読み終えたシリアはタブレットをパタリと閉じた。
「それで、今年の
「えぇ、そうですわ。主催機関として他の機関の代表の方を招くわけですから、やはり力が入るのでしょうね。」
「しかも、今回は咎人と霊魔の歪んだ関係性が発覚してから初めての評議会だからなー。
「不謹慎ですわよ、テオ。」
シリアが窘めるとテオは小さく舌を出した。
セリカが教室の窓から下を見下ろすと、忙しなく動く女子生徒2人が廊下を渡り隣の棟へ消えていく。
「この学園の代表といったら――」
「もちろん、
自身の髪の毛をクルクルと触りながら現れたのは、大きめのパーカーに身を包んだロイだ。
「あら、ロイ。そのヘアクリップ可愛いですわね。」
「へへ、ありがとー。」
「どうせ、どっかのお姉さまからの貢ぎ物だろ。」
「羨ましいの、テオ?」
「羨ましくねーよ、この節操無しが。」
「
「相変わらずぶれないね、セリカは。」
パーカーのポケットに手を突っ込んだロイは、少し寒そうに身震いして見せた。
「代表は会長のミトラさんだよ。運営は
「さすが詳しいですわね、ロイ。」
「それもお姉さま方から聞いた情報か?」
「羨ましいの、テオ?」
「だから羨ましくねーって!」
「確かエリスと
「そうそう。
「ふーん、すごいな、エリスと
「セリカは参加しないの?」
「私はそういうのに向いていないな。」
「あー。それは分かる気がする。」
にっこりと笑うロイに悪意は感じない。
「出た、ロイの毒吐きスマイル。」
「でも、不思議と許せちゃうのですよね。・・・そういえば、セリカ。
「
ロイが意外そうな声を出した。
「単純に興味が湧いたんだ。私たちが目指す
「ふーん。この学園の先生たちの4割は
「えっ、そうなのか?」
「そりゃあ、サージュベル学園そのものが育成機関として
「ジン先生やライオス先生もか?」
「ライオス先生は
「フルソラ教授も
「ハイスペだよねーあの人。
「はいすっぺ?」
「ハイスペックの略ですわ、セリカ。まぁ、優秀ってことですわね。」
「そうそう。
ロイがにんまりと笑う。
「なんだよ、ロイ。」
「実は、今度の
「えっ!アシェリナ様ですか!?」
シリアの甲高い声が辺りに響いた。
「シーッ!!シリア、声がでかい!」
「あ、大変失礼しましたわ・・・。」
シリアは恐縮したように身を縮こませた。
「誰だ、アシェリナ様って。」
「セリカは相変わらずこういうことに疎いね。」
「あぁ、聞いたことのない名前だ。」
「アシェリナ様とは、世界で活躍する
シリアは小さく、しかし興奮を隠せない様子ではしゃいでいる。その様子にテオは小さく舌打ちをした。
「なんで、アシェリナが戻ってくるんだよ。」
「呼び捨てなんて失礼ですわよ、テオ!アシェリナ様は、私たちからしたら自慢の先輩であり英雄ですのよ!」
「そう。アシェリナさんはこのサージュベル学園の卒業生で、この世界で最も活躍する
「そんな人が何で?」
「さっきテオも言ったように、今回の
ジェシドさんが発表した論文で明らかになった霊魔製造に人間、特に子供を素材とすることが世界に広まった今、
「なるほどな。自分たちが他の
「そんな・・・。大事な話し合いの場に見栄や誇示を示すなんて――。」
「キレイごとだけじゃ機関は運営できないってことだよ。」
ロイが肩をすくめる。そんな中、セリカだけが腑に落ちない顔をしていた。
「
「セリカ、
「じゃあ、他の3つの
「そういうことだね。選ばれたそれぞれの機関は、自分たちの領域の環境を充足させ、安寧と平穏を約束するんだ。でもそれには、それなりの資源や活動に対しての財源が必要となってくる。それはどこから生まれると思う?」
「どこだ?」
「
各機関は、研究開発費や防衛費、環境維持費など
「だから4つの
「なるほどな。それで今回の議会に来る
「自分たちにより有利なカードを用意することで、差別化を図り優位に立とうとする。なんとも堅苦しい政治的な構想が渦巻いているよなー。」
「なんだか・・・悲しいですわ、そんなの。4つの機関が協力すれば今起きている困難な問題にもきっと立ち向かえるでしょうに。」
シリアはキュッと帽子をかぶり直した。
「では、サージュベル学園のカードがそのアシェリナという人物ということなのだな。」
「そのとおり。でもせっかくだから、アシェリナさんの武勇伝とか難攻不落のクエストをクリアした話とか聞きたいところだよね。」
「おお、おもしろそう!俺も聞きたいっ!」
「私は実用的な魔法構築のお話を聞きたいですわっ!」
3人が盛り上がるなか、セリカは再び下を見下ろした。今度は大量の資料を持った男子学生と女子学生が足早に廊下を駆け抜けていく。
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