第42話 図書室にて
「あの人はノジェグル先生だよ。2年生の主任をしている立場ある人なんだ。だから逆らっていいことなんか1つもない。あ、そこの問題はこの本に詳しく書いてあるよ。」
そう言うと、ジェシドは重ねてある数冊の本の中から分厚い本を手に取りページを開いて見せた。
「そうか。しかし、そんな先生だからこそ言葉や行動に責任を持つべきだと思うがな。・・・なるほど。これはこの解釈でいいのか。ということは、この問題の答えはこれでいいのか?」
セリカはノートに書いた答えをジェシドに見せる。
「そうそう。ただ、この問題はこの解釈に付随する記述を足せば加点が加えられるよ。それにしても、すごいねセリカ君は。あの人、2年生の
あ、そこの応用は僕のノートに詳しく書いているから参考にして。出題例もそんなに変わらないはずだから。」
ジェシドは自分のカバンからノートを取り出す。
「加点とかあるのか!?そんな方法があるなんて知らなかった。点が取れないはずだ・・・。」
ノートを受け取ったセリカは、ジェシドが指摘した問題を書き写しながら話を続ける。
「別にすごくなんてない。間違った事を指摘しただけで普通だ。」
ジェシドは上目遣いでチラリとセリカを見た。
「実は普通ってすごいことなんだよ。普通に過ごしたいと思うこと自体が、もう既に普通じゃないんだから。」
「?」
「変わり者や少数派は淘汰される。普通という平均値に合わせられない自分に劣等感を抱き、自ら孤立し作った壁は鋼鉄で出来ていてなかなか壊せない。
その中でも自分の芯を信じて強く歩める人なんてそんなにいないんだ。目立たず周りの色に合わせ、自分が苦しくない程度で小さく呼吸をすることが賢い生き方なんだ。賢く生きるには努力が必要だ。それしかもう、できないんだから・・・。」
セリカは理解できない顔をする。ジェシドはフッと鼻だけで笑った。
「セリカ君は強いから・・・。能力っていう点でもだけど、きっとここも。」
そう言うと、ジェシドは自分の心臓部を軽く叩いてみせた。
「話が脱線したね。セリカ君の話を聞いていると、そもそものエレメント理論や魔法性質は理解できていると思う。問題があってその解答を見つけ出すことに慣れていないだけだと思う。だから要領を掴んで、テスト慣れをすれば追試も大丈夫だと思うよ。それぞれの科目による出題傾向をまとめた資料があるから貸してあげるよ。」
「ありがとう。助かるよ。」
あの一件の後、図書室に静けさが戻り、その場にはセリカとジェシドだけが残った。
自分の手に重なった震える冷たい手を、さらにセリカは握り返す。
するとジェシドの手がビクッと動き、俯いた顔をゆっくりと上げていった。
「教師も、あの生徒たちも去ったぞ。」
セリカと目を合わせたジェシドは、顔の近さと重なった手に動揺し大きく後ろにひっくり返った。
「わっ!!」
派手な音をして倒れたジェシドに、セリカは手を伸ばした。
「大丈夫か?」
「う、うん・・・。」
周りを見回しながら、ジェシドは素直にセリカの手を取った。
「すまない。あんな大ごとになるとは思わなかった。巻き込んで悪かった。」
図書室の静けさに倣った小さな声でセリカは謝罪する。ジェシドは大きく首を横に振った。
「・・・う、ううん、うううん!!」
「?」
「う、うううん!!謝るのは僕の方だ。ごめん!僕はジェシドだ。ジェシド・ウォーグ。君は僕を庇ってくれたのに、僕は、僕は何も言えなかった・・・。」
「私はセリカ・アーツベルクだ。さっきのことなら、庇ったつもりはない。事実を述べたまでだ。」
「へ?」
「彼らが言っていたことに疑問があった。だから尋ねたまでだ。そしたら暴力に訴えてきたからねじ伏せただけだ。」
キッパリと断言されたジェシドは一瞬呆気に取られる。そして笑みを零した。
「ふっ、ふふふっ・・・・くくくくくくくくっ・・・・。」
突如笑い出したジェシドに、今度はセリカが呆気に取られる番だった。
「何だ、何を笑って・・・。」
「だって、親切なのか不器用なのか・・・くくくくくく・・・。」
「何を分からないことを・・・。」
「それに、ふふふ。それに、最初ぶつかった時『ぅお!』って低い声で・・・くくくくくく・・・。」
笑いのツボにハマったのか、ジェシドは腹を抱え笑い出した。目尻には涙さえ浮かんでいる。
セリカはジェシドを凝視し、あることに気付くとにわかにジェシドに近づいて前髪を遠慮なく上げてみた。
「わっ!何っ!?」
「ジェシド。お前はモジモジするより笑ってる顔の方がいいと思う。それに、目にかかりそうなこの前髪も切った方が似合うと思うし、このきれいな目も見せた方がいいと思うぞ。」
「え、えっ・・・!?」
突然目の前に現れたセリカの顔に、ジェシドは顔が熱くなるのを感じた。
「笑いは止まったか?そろそろ静かにしないと、図書室を使用している人たちに迷惑がかかるぞ。」
セリカは片方の口角を上げて笑って見せる。
「私はこれから追試の勉強をしなければいけないんだ。ジェシドも作業中だったのだろう?邪魔して悪かったな。」
セリカがジェシドに背を向けて歩き出そうとした時だった。
「セ、セリカ君!!」
「セリカ・・・君?」
呼び慣れない呼称にセリカが振り返れば、ジェシドが仁王立ちでこちらを見ている。
「ぼ、僕で良ければ勉強を教えるよ。効率のいいテスト対策を知っているから!」
ジェシドの提案を断る理由も無かったセリカは、こうやって勉強を見てもらえることなったのだ。
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