第30話 シリアの想い

 「おらぁっ!エレメントストーンを食らえやっ!!」


 そう言うと、ガロは2人に向けてストーンを思いきり投げつけた。


 「ガロ、あまり前に出るなよ!」


 ガロに続いて、ファルナもストーンを放り投げる。

 放り投げられたエレメントストーンはその形を少しずつ変化させていくと、シュリとアイバンの真上から煽られた火が滝のように落ち、威力を増しながら火の波として襲いかかっていた。


 シュリはその火に向かって大きく手を広げる。そして詠唱を口にした。


 「ALL Element!水精霊ウンディーネ!」

 「バカ女っ!魔法はつかえ――」

 「水衣みずごろもっ!!」


 シュリの手から、水で造られた盾が現れシュリとアイバンを火から防護する。

 エレメントストーンで生じた火と、シュリの魔法がぶつかり合いその場に大量の水蒸気が発生した。


 「なんだとっ!!?あいつらのエレメントが無効化されていないだとっ!!?」


 魔法が使える筈がないと踏んでいたファルナとガロが、真っ白になった視界に埋もれていく。


 「ALL Element!火精霊サラマンダー!」


 そこにアイバンの詠唱が響き渡る。


 「まずいっ!!」

 「火車かしゃっ!」


 アイバンの手から、火で燃えるタイヤが具現され回転をしながらファルナたちに猛スピードで飛び出していった。

 ファルナは咄嗟に、ガロの腕を引き寄せその攻撃を回避した。

 その時、ガロの指に嵌められた指輪がファルナの服に引っ掛かり、外れて落ちていった事に2人が気づく筈もない。

 完全に見縊っていた攻撃に、反応が遅れてしまったファルナはハッとする。


 「しまったっ!!ゼロ、避けろっ!!」


 回避した魔法の先にあるのはゼロたちがいる木だった。慌てて後ろを振り返るが、視界は煙で充満していてゼロの姿さえ確認できない。


 そして、煙の影響はゼロの眼路を不明瞭にしていた。

 ファルナたちを見失ったゼロが、アイバンの魔法を捉えた時にはすでに遅し。

 魔法を回避しようとした時には、ゼロの足に魔法が直撃するところだった。

 

 「う・・・っ!」


 衝撃により体勢を崩したゼロの腕から、滑り落ちるようにセリカが落下していく。


 「くっ――!!!」


 必死に手を伸ばしたが、足の激痛によりゼロの体は言う事をきかなかった。


 「All Element!!土精霊ノーム!!!」


 真っ白な視界が周囲を包む中、そこに、かん高い声の詠唱が響き渡る。

 空中に浮かび上がったオレンジ色の紋章に向かって、シリアは胸元にある式神を1枚投げ飛ばした。


 「跳べ、長尾驢ジャンプカングーロッ!!」


 カンガルーの形をした式神が、紋章の中をすり抜けるとその形をムクムクと変えていく。数秒も経たないうちに紙だった式神は、体長4メートルほどの巨大なカンガルーへと姿を変えていった。


 ポーン、ポーンとリズムよくジャンプする式神は、鼻をヒクヒクとひくつかせた。


 「お願い、絹江さん!!セリカを優しくキャッチしてっ!!!」


 シリアの指示にピクピクと耳を動かした絹江さんは、上から落ちてくるセリカをその長い尾で優しく包みながら受け止めた。


 「やりましたわっ!!絹江さん、そのままセリカをお腹の中で保護しておいて!」


 もう1度ピクピクンと耳を動かした絹江さんが、セリカをゆっくりと自分のお腹にしまいこんだ。


 「シュリさん、アイバンさん!セリカを回収しましたわっ!!」

 「ナイスよ、魔女っ子ちゃん!」

 「絹江さんー!名前からして包容力ありそー!」


 

 ――煙が風に流されて、視界の輪郭がぼんやりと浮かび上がってくる。

 薄煙の先には、ファルナたちがこちらを睨んでいた。


 「もう諦めなさい」「まだ粘るか?」


 シュリとアイバンの重なった声に、ではなく、(むしろ、声が重なり何を言ったか理解できなかった)状況に納得できないファルナが口を開いた。


 「なぜ魔法が使える・・・?」

 「ということは、あなたたちは魔法が使えないのね?」


 グッと口を噤む様子が肯定を示していた。


 「確かに私の魔法は1度消されました。原因は・・・あなたですよね?」


 シリアはゼロに向かって話しかけた。シリアの後ろにはピッタリと絹江さんが寄り添っている。

 ゼロは微動だにしないが視線はこちらに向いていた。正確には、絹江さんのお腹に入っているセリカにだ。


 「小さな音でしたが、指を鳴らした音がしました。あそこで私の魔法を消したのは、周りにいたみんなに魔法が使えない、というアピールの意味もあったのですね!?」

 「っ・・・!」

 「確かに、あの時はエレメントの気配を感じませんでした。でも、今はしっかりとエレメントの気配を、式神たちの気配を感じることができます。」

 「何言ってんだ、このクソガキッ――」

 「あなたにガキなんて言われたくありませんわっ!!」


 ガロの言葉にシリアは食い気味に反論する。


 「落ち着けって、魔女っ子ちゃん。」

 「確かに、私たちはあなたたちがこの子の魔法を消したおかげで、魔法が使えないと思い込まされていたわ。あの時まではね――。」


 


 話は少し遡る。シリアがセリカを任せてほしいと呼吸を整えていた時だ。


 『試すって、また魔法が消えてしまうかもしれないのに、そんな賭けに乗れないわっ!』

 『いえ・・・!魔法は、はぁ、はぁ、・・・使えると、思います!』

 『何を根拠に?』

 『この子たちから、はあ、はぁ、感じるんです!』


 シリアが指さしたのは、胸元にある式神だった。


 『それは?』

 『これは、私の魔術具でもある式神です。私のエレメントを注ぎこみ、この形を具現化できるものです。

 魔法が消された時、この子たちの気配も消えていました。だから魔法が使えなかったんだと思います。』

 『・・・でも、今はそこからエレメントの気配を感じると言うの?』


 シュリは、まだ呼吸が整っていないシリアの言葉を受け継いだ。

 シリアがコクンと頷く。


 『これは、本当に堪なんですが・・・。このお花のお陰じゃないかと思うんです。』


 そう言って、シリアが取り出したのは同じ胸元に入れていた造花の花だった。


 『なんだ、それ!?』


 見たこともないアイテムにアイバンが眉をひそめる。


 『これは入学式の日に新入生全員に贈られた桜の造花です。クラスに入る前の受付時に先輩方から胸に挿していただきました。

 大半の人は入学式が終わったら取っていましたが、私この造花が気に入って、式神たちと一緒に挿していたんです。

 今も、ほら・・・微かですけど光っていませんか?』


 シュリとアイバンは造花を凝視した。確かに淡い光が桜の造花を包んでいる。


 『この淡い光に、式神たちが共鳴したかのように気配が戻ってきたんです。だから、私は魔法が使えると思うんです。』


 信憑性はあるが根拠が無い。シュリが返答に困っていると、森に突風が吹き、木々たちをざわつかせた。


 『きゃぁっ!』

 『おっととっっ!!』


 その拍子にシリアの帽子が飛ばされかけると、素早い動きでアイバンがキャッチする。


 『ほい。』

 『あ、ありがとうございます。』


 アイバンが膝を曲げて、シリアに帽子を被せていた時だった。

 シリアが持っていた桜の造花と、アイバンのマント、正確にはマントに刺繍されているデイジーが近づいた時、デイジーの刺繍が淡く光ったのだ。


 『あっ!!』

 『な、何だよ、シュリ!?びっくりさせるなよっ!』

 『もう1度っ!!』

 『え・・・?』

 『もう1度、桜の造花をアイバンのマントに近づけて!!』

 『え・・・?え、こ、こうですか?』


 シュリの気迫に、シリアが恐る恐る桜の造花をマントに近づけた。

 そして、やはりデイジーの刺繍が淡く光ったことを3人ともが確認する。


 『・・・光った、な。』

 『えぇ。アイバン、小さく魔法を発現してみて。』


 シュリに言われて、アイバンは指に小さな火を灯してみせた。


 『使えるぞ!!』

 『魔女っ子ちゃん、私のマントにある刺繍にも桜の造花を近づけてもらえる?』

 『はいっ!!』


 シリアは、シュリのマントに桜の造花を近づける。するとマントにあるデイジーの刺繍が再び淡く光った。

 シュリが手の平に小さく魔法を発現すると、数滴の滴がシュリの手を優しく濡らした。


 顔を合わせた3人は大きく頷いた。

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