第2話 入学式
「以上の事を踏まえ、これからの学園生活を実りある時間にしてください。これで私からの挨拶は終わります。」
学園長は檀上でお辞儀をし挨拶を締めくくった。
陽は真上に向かい、暖められた入学式の会場は倦怠感のある空気に包まれていた。
セリカも欠伸を噛み殺す。周りを見れば隠すことなく欠伸を繰り返す者もいれば、すでに船を漕いでいる者もいた。
「続いて、本校の生徒会執行部代表 ミトラ・リドワール氏の挨拶です。」
しかし司会の教師が進行を続けた時、微睡んでいた空気が一瞬で変わり、大きな拍手とわぁっとした歓声がその場に響いたのだ。
檀上に現れたのは窓から差し込む陽の光を吸収し輝いているのではないかと錯覚するほどの明るい金の髪をした生徒だった。
少しウェーブがかかっている髪は陽の光を反射し肩の位置でフワっと揺れる。切れ長の瞳の色は深みのあるダークゴールドだ。
優しい笑みを浮かべながら新入生の前に立つ。容姿だけだと女性と間違われるかもしれない。それほどキレイな顔をしているが、姿格好はれっきとした男性だった。
「きゃぁ!ミトラ会長!」
「なんてステキなの。本物を見られるなんてっ!」
女子生徒の嬌声が聞こえる。その方向に目をやれば、女子生徒がミトラに向かって手を振り、他の女子生徒は羨望の眼差しで檀上を見つめていた。
(有名な人なのか・・・?学園長の時の差がスゴイな。)
人との関わりが無かったセリカには当然見覚えのない人物だ。
「あれがミトラか。なんかオーラがあるな。」
「おい、あの噂って本当かな。ミトラってエレメントを2つ持ってるって――。」
「えっ!?それって嘘だろう?エレメントを2つ持つ人なんて今まで聞いたことないぞ・・・。」
ミトラの登場で新入生たちはざわめきたっている。
エレメントを2つ――?
セリカは意図せず聞こえた会話に、もう1度ミトラを見た。
「新入生の皆さん、ご入学・ご進学おめでとうございます。そしてようこそ、サージュベル学園へ。
このサージュベルは自身のエレメントの能力を伸ばし開花させる為、国が運営している特別組織学校です。己の能力を向上させるため、切磋琢磨し合える仲間を作り社会に貢献できる
私たち生徒会執行部も、皆さまのこれからのご活躍を応援できるよう努めていきたいと思っています。」
その顔からは似合わず、といったら失礼かもしれない低く落ち着いた声でミトラは話し始めた。
「みなさんは、既に自分のエレメントが何かご存じだと思います。」
人は必ず1つのエレメント(属性)をもって産まれる。
エレメントは大きく分け火・水・風・土の4つに分けられる。その属性を司るのが精霊であり、その精霊を使役し魔法を使うのが
精霊の力を借り具現化できる形はさまざまで、その人が持つ魔法力の大きさで威力は変化する。魔法力が多ければ多いほど精霊の力をコントロールすることができ、強力な魔法が使えるのだ。
人の持つ魔法力には個人差があり、天性の素質に加え、努力による魔法力の拡張により精霊の力を溜める器を成長させていく。それがこのサージュベルの目的であり存在意義なのだろう。
「この学校ではエレメントについてより高度な研究もされています。国と研究機関が一体となって君たちをサポートしていく体制をとっているので安心して勉学に励んでください。」
エレメントは遺伝で決まることが多いとされている。
断定ではない、というのもエレメントはまだまだ不確定要素の多い事象で、長年の研究がなされている現在でも分からないことが多いという。
初めて自身が持っているエレメントを発現するタイミングは人それぞれであるが、比較的幼少期から自身の属性について知ることが多いという。
そのため初等部から普通教科に加えて、精霊の在り方・エレメントの使い方・魔法の成り立ちなどを勉強し、自分のスタイルを確立していくのがこの世界の常識なのだ。
人と精霊は太古から日常生活を共にして進化してきた。急速に発展するIT社会が進む現在でもその関係は変わらない。
人は精霊を使い生活を豊かにし、精霊は人の知恵や使い方によってその形を無限に変えることができると知った。
人と精霊はお互い必要不可欠の存在なのだ。
「現在も各地でさまざまな霊魔が目撃されています。その数や種類は増加傾向と呼べるでしょう。厳しい状況に追い込まれているというケースも情報として届いています。君たちには人々が安全に生活できるように、日々の安寧の暮らしが脅かされないように、これから邁進していってほしいと思います。」
精霊の力を借り豊かな生活を営んできた人間たちだがそれを悪用する者も出てくる。怒り・悲しみ・憎しみ・妬み嫉み――負の感情を精霊に植え付け使役し、そして負の感情を抱いた精霊は霊魔へと姿を変え人々を襲うのだ。
己の私利私欲の為に人を殺めることを厭わず、あまつさえそれを生業としている者たちもいる。
「皆さんのこれからのご活躍に加護を。それでは有意義な学園生活を送ってください。これで私からの挨拶は終わります。」
お辞儀をしたミトラに向かって登場した時よりさらに大きな拍手と歓声が上がった。教師たちはその歓声を止めようとせず静観している。どうやらミトラは教師たちにも一目置かれている存在のようだ。
興奮冷めやらぬ中、入学式は無事に閉会したのだ。
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