第七章 コレは社員旅行ですか? 合宿にしか思えないのですが?

対面、ギャング梶原!

 休暇を利用した、社員旅行が始まる。


 今日はオレたち以外に、見知らぬゲストがいた。


 一人は小学校低学年の少女だ。クールな表情が、グレースさんによく似ている。目がやや蒼い。

 問題は、もう一人である。ダンナさんだと思うのだが、スキンヘッドですごく怖い。


 車も、二台ある。大きいワンボックスはグレースさんが、二代目はグレースさん一家の私物だという。ダンナさんが運転するのだとか。


「あの、グレースさんにはいつもお世話になっています。ニコラ営業課の花咲です」

「はじめまして。今回ご同行させていただく、ギャング梶原かじわらと申します」


 人気急上昇中の、ゲームライターじゃねえか。


「え、ギャング梶原さんって、グレースさんのダンナさんだったんですか!?」

「お恥ずかしい限りですが、こんなナリでも、妻は認めてくださいました」


 二人の出会いは、飯塚社長がまだJKだった頃の話になる。取材中に知り合い、二人は意気投合した。その結果、恋愛結婚をしたという。


「当時は俺もペーペーでして、ブラックな業界に辟易してました。ですが、社長のアドバイスを受けて、立ち直って今に至ります」


 ギャング氏は見た目が厳つく、声も重く鋭い。が、話方自体は丁寧だった。


「こちらは、娘の梶原・アン・グレースです」


 グレースさんが紹介すると、アンちゃんは「よろしく」とお辞儀をする。


「では、参りましょう」


 それぞれ、車に乗り込む。


 単車のマヒルさん、軽四レンタカーのぴよぴよファミリー以外は全員、ワンボックスへ。


「ねえ、カートしよっ」


 ケータイゲーム機を持ち出して、アンちゃんが勝負を挑んできた。


「おっやるか」


 オレも便乗して、ゲームを開始する。


「具合が悪くなったら、言うですよ」

「わかってます」


 丁寧口調だが、親子らしいやりとりだった。


「うわ。開幕からトラップ」

「へへーん」


 このセコい戦い方。間違いない。彼女がギャング梶原だ。

 結局リードされたまま、勝負はアンちゃんの勝ち。


「あの、梶原さん。ひょっとして、この間の『クラセちゃん』通信対戦は」


 前回の配信で対戦した底意地の悪いプレイヤーは、アンちゃんだったのではないか? そんな疑問がよぎったのである。


「お察しの通りです。我が家の娘がプレイしていました」


 運転席から、梶原さんが返答した。

 やはりそうか。いかにもキッズなムーブだと思っていたが。


「仕事で新作ゲームの製作スタッフと対談がありまして、代役を頼みました。ご迷惑をおかけしたかと」

「いえいえ、とんでもない! あの情け容赦ない遊び方こそ、『クラセちゃん』ですよ!」


 ギャング梶原は、ラフプレイを推奨していない。「勝てばいい」というスタイルは、未熟なプレイヤーを遠ざけると考えているからだ。しかし、子どもには注意しないという。肌で分かっていけばいいと考えているようである。


「やっていいことと悪いことは、現場でわかっていけばいいかなと思いました。ヘタに縛ると、今度はゲーム自体がつまらなくなってしまいますから」

「たしかに、ルールでがんじがらめになったゲームって、味気ないですね」


 オレ自身、久々にラフプレイヤーと戦って面白かった。「こういうプレイヤーもいるんだった」と、思い出せたし。


 トイレ休憩で、サービスエリアに到着した。


 最新のフードコートやお土産屋さんと、古めのゲーセンが融合しているという変わった場所である。


 手洗いを済ませ、ここで軽く食べようとなった。


「社長、何にします?」


 フードコートでオレは社長に聞く。


 社長も、どれを食べようか悩んでいる模様だ。ヘタにガッツリ食うと現地のお昼で食べられなくなる。かといって、まだ先は長い。


「やはり、ご当地ソフトは外せないだろう」


 マヒルちゃんが食べているのを見て、食べたくなったようである。


 結局全員が、ソフトを食べることに。


「花咲さん、今度は俺と対戦しませんか? アンとの勝負を見ていたら、血が騒いでしまって」


 ソフトクリームを食べながら、梶原さんが提案してくる。


「いいっすね!」


 だが、こういう場所のゲーセンって、メンテナンスは大丈夫なんだろうか?


「あー、このコントローラー、昔を思い出します」


 彼も当時は、ゲーセンでやり込んだクチだろう。


 二〇年前に流行った格闘ゲームに、一〇〇円を入れた。


 オレはオーソドックスに主人公の空手家を、梶原さんはプロレスラーを選ぶ。


 開幕早々に、オレは飛び道具を避けられて懐へ入られる。


「うっわ! 吸い込まれた!」


 初手で大ダメージを食らい、一本を取られた。


 そこでオレは、スイッチが入る。過去のプレイ記憶が呼び覚まされ、手の感覚が戻ってきた。


「よし、行けハナちゃん!」

「よっしゃこれで!」


 乱舞技を連発し、二ラウンド連取する。


「いやあ、お見事でした。さすがです」

「現役のゲームライターさんから褒めていただけるなんて、光栄ですよ」


 もっと対戦したかったが、現地に向かう時間が迫っていた。


「コテージの近くに、古いゲーセンがあるそうです。続きはそこでやりませんか?」

「いいですね!」


 続きは宿でもいい。


「海よりもゲーセンが目当てとは、ハナちゃんはやはりゲーマーだなぁ」

「すいません」

「いいんだ。楽しみにしていてくれ」

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