第2話

『アア……イタイヨ。イタイヨ。イタイイタイ……イタ』

『おい、聞こえているか!? 気をしっかり持て!!』

『イヤダイヤダ……ナンデナンデ、ドウシテ……』

『……ダメか』


 俺の声は聞こえていないようで、この壊れかけの魂はうわごとを繰り返すだけだった。


 しかも時間が経つごとに形も色も不安定さが増していて、いつ完全に壊れてもおかしくない状態だ。


『まずいな。このままでは戻れなくなるぞ……』


 この魂には俺や他の魂には無い細い紐のようなものが遥か彼方まで伸びている。


 おそらくこれは肉体との繋がりなのだろう。


 つまりこの魂は何らかの事情で仮死状態となり身体から抜け出てここにいると考えれば、逆に言うとどうにかすればこの魂は生き返れるのだ。


『アア……アア……アア……』


 だが、どうすれば良い?


 最善はこの魂自身に状況を把握してもらい自分から身体に戻ってもらう事だが、この錯乱している状態からどうやって正気に戻せば良いんだ?


『ア……ア……ア……』


 今にも形が崩れて消えてしまいそうで明らかに時間がない。


 呼びかけが無理なら残るは直に接触する事しかないのだが、果たして魂同士が触れ合って大丈夫なのか?


 長くこの空間に漂っている俺でも、1度も魂同士が接触するところを見た事がない。


『ア……ア……』

『クソッ、本当に時間がない!!』


 どうなるかわからんが、助けられるかもしれないものを見捨てられない。


 俺は壊れかけの魂にできるだけ静かに近づき優しく触れた。


『おい、聞こえるか?』

『ア……ダレ……?』


 よし、気づいた。


 あとは説明するだけだな。


『お前は今死にかけている。お前に繋がっている紐の先を意識しろ。そうすれば身体に戻れるはずだ』

『ア……ア……ア……アアアアアアアア!!!!!!!!』

『ウオ!! グッ!!』


 突然、俺の中に大きな門を見上げている映像が浮かぶ。


 これは……、こいつの家か?


 なぜ、自分の家を見て絶望している?


 それに、この痛み、嫌な感じを受ける視線、悲しみ、辛さ、その他いろいろな感覚が伝わってくるのに、喜びや楽しさといった前向きなものは一切ないのは、どういう事だ?


 戦いに生きていた俺でも何かしら楽しみがあったというのに、こいつはどれだけ悪い環境にいるんだ?


『落ち着け!! 自分を保て!!』

『ア……アア……』


 接し方を間違えた?


 いや、あれ以上迷っていたら確実に手遅れになったはずだから、その事は置いておく。


 考えなければいけないのは、こいつをどうやって助けるかだけだ。


 ……こいつに触っているせいか、こいつの状態がわかる。


 今のこいつは穴の開いた器と同じで中身というか、こいつを構成しているものが崩れて流れ出ていってる状態だ。


 どう助ける?


 単純に考えれば、流れ出ている中身を足すなり穴を塞ぐなりすれば良いはず。


 しかし俺は魂の中身を足す方法なんぞ俺は知らない。


 そうすると残るは穴を塞ぐ1択だが何で塞げば良い?


『アア……、ア……』


 ……そうか、こうすれば良かった。

 こんな簡単な事に気付かないくらい俺は慌てていたのか。


 俺は苦笑しながらできるだけ心を落ち着かせる。


 失敗すれば俺だけでなくこいつも消えるのはわかっているが、俺ならできるという器として相応しい確固たる自信に満ちた己を思い浮かべ、俺はこいつを俺自身で包み込んだ。


 こいつが自分という器に穴が開いて中身が流れ出ている状態なら、俺が器となってこいつを受け止めれば良いそれだけの事。


『ア……ア……アア、ウアア』


 …………どうやら上手くいったようだ。


 少しずつ安定していくのがわかる。


 残る問題はどれくらいこうして包み込んでいれば良いのかと、時間をかけて大丈夫なのかだな。


 時間をかけ過ぎれば仮死状態のこいつが本当に死にかねない。


 ましてや仮死状態のこいつの身体が持つのか……って、なんだ?


 俺が紐の先にあるはずのこいつの身体に意識を向けると、徐々に俺が引っ張られ始める。


『は? なんで俺が意識しただけで引っ張られるんだ!? こいつが少ししか回復してないから今戻るのは不味い!!』


 俺はこいつを今の状態で戻らせるわけにはいかないから、引っ張りに必死に抵抗したが、抵抗虚しくものすごい速さで引っ張られ意識をなくした。




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◎後書き

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