第17話 ［AD2510］巨大小惑星と新兵器
そして俺は軍学校へ入学し、宇宙軍に入った。
義体化試験に合格し、新型運動エネルギー兵器〝ランス〟の搭乗員となった。
この義体化試験には相性があり、人によっては合格どころか死亡する場合もあるという。意識（魂）が肉体から離れない。もしくは、離れた意識が肉体に戻れない。そういったトラブルがそこそこ高い確率で発生する。一般には適性があると認められるものが４０パーセント程度いるのだが、その適正者でも２パーセント程度の事故が発生する。適性がないとされたものが実施すれば、失敗率は３０パーセント以上になるらしい。
失敗を恐れず未知の領域へ挑戦する者、それがランス搭乗員だ。
ランス搭乗員になって２年。出撃はバックアップを含めて２０回になった。
俺も一人前、英雄になったわけだ。
その俺に新しい指令が来た。新型機に乗って巨大な小惑星を破砕するのだという。
運動エネルギー兵器ランス。
１５０００トンの長大な機体を、秒速５００キロメートルまで加速させるキチガイ兵器だ。
これは主に直径が１０００メートル前後の小惑星を砕くように設計されている。直径が５００メートルから１５００メートルの小惑星が対象だ。ランスの質量と速度を調節し目標を破砕してきた。５００メートル未満の小惑星は、戦艦シキシマに搭載されているレールガンか熱核ミサイルで破壊している。
１５００メートル以上のものはどうするのか。それはもちろん問題視されていた。一応、ランス数基を使用して破壊する案が採用されているものの、実際には、そういったサイズの小惑星は接近していなかった。
この度確認された小惑星は、直径が約１５キロメートル。確実に地球との衝突軌道に乗っているという。通常のランスでは破壊できない巨大な小惑星だった。
俺は司令部に呼ばれた。
この小惑星をどうにかしろって事だろう。何をさせるのか、俺は興味津々だった。
会議室に呼ばれた俺は扉を開いて中に入った。広い丸テーブルを囲んで宇宙軍のお偉いさんが数名並んで座っていた。その中央に紀里香さんの父、斉藤
「秋山中尉よく来てくれた。かけたまえ」
俺は指示通りに末席に座る。
「聞いていると思うが、今回確認された小惑星は巨大だ。従来のランスによる攻撃では破砕できない。数基使用してもあまり効果がない事が分かった」
斉藤中将の言葉は重々しい。
「こういう事態が来ることは想定されていた。我々は二種の新兵器を開発している。山本君、説明を頼む」
山本と呼ばれた将校が立ち上がり話し始める。丸顔で小柄な男だ。
「山本
上方のパネルに図面が映し出された。
「これは大型化したランスです。全長を１・５倍に、質量は２・５倍に増加させてあります。更に核融合ブースターを二段に設定し、秒速９００キロメートルまで加速します。これは従来のランスと比較して１・８倍の速度となります。それでも細かく破砕できるのは直径２５００メートルまでです。４０００メートルまでですと、複数の大型の破片となります。その場合は大型の破片を改めて砕く、別の作戦を実施する必要があります。今回の目標はそれを大きく上回る直径１５０００メートルの小惑星となります。この小惑星を細かく破砕するのは困難でありますが、複数の破片に砕いて軌道を変え、地球に最接近するものを改めて破砕する作戦を考案しました。概要は以下の通りとなります」
山本技術大佐が機器を操作するとパネルの図面が変化し、ランス各部の詳細な情報が表示された。
「従来のランスは、鋼鉄製のケースに砂礫を詰め込んだものを弾芯として使用しておりました。これは主にコスト面からの選択でありますが、従来の質量を持つ小惑星の破砕には十分に機能しております。今回は此処に劣化ウラン弾芯を使用します。概ね２０パーセントを劣化ウラン、残りを砂礫とします。劣化ウランの巨大な杭を小惑星に打ち込む形状とご理解いただければ結構です。計算上、この劣化ウラン弾芯は約１０００メートル小惑星内部に侵食します。その時点で後方に備え付けてある熱核爆弾を起爆させます。通常の
「いいんじゃねえか。俺はいくぜ」
俺の一言に斉藤中将は渋い顔をした。山本大佐は話を続ける。
「秋山中尉。一つ未確認事項があるのですよ。至近距離で核爆発を受ける事。それが霊体にどう影響するのか分っていないのです」
「つまり、霊体がダメージを受けて死ぬかもしれないって話なのか？」
「断定はできないのですが、その可能性を指摘する人がいるという事です」
分らないって事か。しかし、俺の意思は変わらない。
「それしか手が無いのなら俺が行く」
「そう急がないでください。もう一つの実験兵器があるのです。こちらも誠意準備中であります」
また別の図面が表示される。
「これは大口径レーザービームを搭載した駆逐艦と大型の掘削機を搭載した駆逐艦となります。二隻の艦船を一単位として運用します」
「宇宙船を掘削機に改造するのか？」
「ええそうです。レーザービームで導線となる穴を掘ります。その後、トンネル工事用のシールドマシンを稼働させます。１０００メートル程の穴を掘ったところで熱核兵器を起爆させ、その反動で軌道を変えます。同時に複数の破片に砕きます」
「そっちの方が確実なんだな」
「確実です。しかし問題があります」
「何だ？」
「工期がかかる事です。最低一週間。確実にするためには二週間は欲しい所です。また現場に到達するためには、小惑星の背後から回り込む必要があります。ここでも直線で到達するランスより日数がかかります。数日必要です。それともう一つ問題があります」
山本は俺を見つめる。その表情から、彼が今から話す問題が深刻なんだと分かる。
「小惑星は自転しているのです。自転速度が遅ければ何とか対応可能なのですが、例の小惑星は毎時３０回転ほどなのです。この速度で自転している小惑星上でのトンネル工事は困難なのです。できない事は無いのですが、工期が三週間以上かかる見込みです」
なるほど自転か。
今まで気にしたことはなかったが、穴掘りをするなら重大事だろうな。
「分った。俺が行くよ」
その一言で斉藤中将に睨まれた。
「どうして君は簡単に決断できるのかね」
「それが自分の使命だからです。絶対に、地球には衝突させない。もし自分が失敗しても、必ず誰か、賢い人が失敗を克服する方法を考える。山本大佐、そうですよね」
「ああ、必ず考案するよ。失敗しない方法を」
山本大佐が握手を求めてきた。俺は力強く握り返す。
「君の勇気には敬服するよ」
その言葉に俺は大きく頷く。
「秋山中尉。明日、正午の便でシキシマへ発て。成田だ」
「了解しました」
俺は敬礼をした。
どんな奴でも乗りこなす。どんな加速にも耐えてやる。そしてどんな大物でも俺が砕いてみせる。そう決意して部屋を出ていく。
しかし、斉藤中将の悲し気な視線が俺の胸に重く残っていた。
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