トンネルぬけて

トンネルをぬけて

出た先は

緑の広場


わたしは子供に戻り

黄色い長靴をはいて

ひとり

とぼとぼ歩きだす

先のほうで

おかあさんが

両手をひろげ

こっちへおいでと

呼んでいる

わたしもうれしくなって

両手をひろげかけよるが

いつまでたってもたどりつかない

とうとうあきらめ

その場に倒れ

そのままそこで

寝てしまう


やがて目が覚め

わたしは大人

伴侶が転がっているわたしを見おろして

なんでここで寝てるんだ

いくとこあるだろと指をさす

しかたなく起き上がり

指さす方へ歩き出す


いつの間にか

子供が二人

わたしの両手を引っぱって

グイグイグイグイ進んでく

わたしはそのまま引っぱられ

橋のたもとに

たどりつく

子供はいつの間にかいなくなり

わたしはひとり立っている


少し歩くと

おじいちゃん

ニコニコ笑って立っている

なにも言わずに立っている

昔の笑顔で立っている


わたしは橋を渡ろうと

さらに先へと歩き出す

橋を渡りはじめるが

先の景色はみえず

霧がかかる

橋を渡って

霧の中

わたしはさらに進んでく

ドンドンドンドン進んでく

前もみえずに進んでく

ひとり歩いて進んでく

だけどちっとも怖くない


わたしはなぜかその先に

なにがあるかは

知っている

はじめて行くのに

知っている

疑問も不安もなにもない

ただただ前に進むだけ


霧の向こうのずっと先

ポツンと扉が立っていて

わたしはそこで扉を開けて

扉の向こうにふみだすと

そこでみんなは待っている

おそかったね

ずっと待ってたよ

と言いたげに

ただただニコニコ笑ってる

そんなかれらとまた会えて

ぽろぽろぽろぽろあふれだす

わたしは前から

知っていた

ずっとかれらはいっしょにいたと


おなかの中にいたときも

遅刻しそうなあの朝も

ひとり疲れて寝る夜も

わいわいやってたあの頃も

子供が生まれたあの雨の日も

ずっといっしょにいたんだね

わたしはかれらと手をつなぎ

大気となって溶けだして

影も形もなくなって

あるのはわたしの言葉だけ

やがて言葉も消え去って

あるのは風の吹く音ばかり


わたしはそれでも歩いてく

どこに行くかは知っている

橋を渡った

その先の

霧の向こうの

そのまた先の

扉の向こうの

また向こう

ただただ歩いていけばいい

いつかはきっとたどりつく

ぐるぐるまわる輪廻の先に

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る