【解決編】She is sisters.

《たった一人の姉妹》

(※ 精神汚染度特大です。だいぶアブノーマルな描写があります。閲覧注意です。by作者)




◇◆◇【雪村 凛奈】◇◆◇


『ん――っ、大正解!』

『浴場に颯爽と舞い降りたボクのカッチョイイ石像により、ぐちゃッと逝っちゃった殺人の【犯人】はなんと!』

『ずっと被害者だと思われていた、双子の片割れ、雪村 佳奈ちゃんなのでした!』

『被害者は、ずっと引き籠もってると思われた、萌 摩由美ちゃんです!』

『いやぁ、やっぱり小学生は最高だね! こんなエキサイティングな殺人を、こんな短時間で作りあげるなんて!』

『ボクの手助けなんて、必要なかったんじゃないかな? あははははははは!』


 ぬいぐるみが、わらう。

 それに、こわいひとが、くびをひねった。


「……手伝い? ワンワン、何かしたの?(。´・ω・)?」

『あ、口が滑った。――まあ、ちょっと強度計算を手伝ってあげただけだよ。小学生の頭で、どのくらいまでは石像の重さに耐えられるかなんて、わかるわけないからね。ボクとしては是非とも成功して欲しかったので、[存在分離]を床に使うとき、ちょっとまあアドバイス的なサムシングをしちゃったわけですよ』

「ふぅん。そういうのって、アリなんだ?( ̄д ̄)」

『まあね。【犯人】のちょっとしたお願いなら、ボクも聞いてあげちゃうわけですよ。それが事件を作るのに必要なことならね! ――ああ、ボクはあくまで、ほんのちょっと手助けするだけだからね! 間違っても、あいつを殺してなんて頼まないこと!』


 ぬいぐるみが、なにかをさわいでいる。

 きこえない。ききたくない。

 じかんが、すすまなければいいのに。

 そうすれば、おねぇちゃんは――。


 おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。


『えー、それでは、お待ちかね! そろそろ、真の【犯人】さんにご登場いただきましょう! いつまでも引き籠もっていられるのは面倒だからね!』


 ぬいぐるみが、むらさきのほうせきに、なにかをしゃべる。


『館スライムちゃん、似非霊媒師ちゃんの部屋の鍵、開けちゃって! それから、スライムちゃん、中から双子のお姉ちゃん連れてきて!』


 たてものが、ゆれた。そんなきがした。

 そして、そとから、なにかのみずおとがする。

 ぬるぬると、なにかがちかづいてくる。


『はーい、双子のお姉ちゃん、到着でございます!』


 すらいむ、というやつにのせられて、おねぇちゃんがつれてこられる。

 おねぇちゃんは、ふくをきていなかった。したぎだけ。

 あんなよごれた、きたないふくは、きたくなかったからだとおもう。

 しんだひとのなまえがかいてある、ちによごれた、きたないふく。

 りんなも、あんなふくは、おねぇちゃんににあわないっておもっていた。


『んー、なんか、双子のお姉ちゃんが赤毛って変な感じだね? ここは一つ、ボクが戻してあげようじゃないの!』


 おねぇちゃんは、すらいむ、というやつのうえで、ねている。すらいむは、おねぇちゃんのかみのけに、くっついた。

 つかれているんだとおもう。ずっと、まほうをつかっていたから。だからまだ、ねたまんま。

 すらいむが、あかいかみのけだけ、きれいにとかす。

 のこったのは、きれいな、みじかくてしろいかみ。したいにかみのけをつけるために、きってしまったみじかいかみのけ。

 りんなははしって、おねぇちゃんにちかづいた。


『それじゃあ、双子の妹ちゃん! なんか、魔力の使い過ぎで気絶してるっぽいし、ここはいっちょ、目覚めのキスでも――』


 おねぇちゃんをみると、がまんできなくなって、わたしはおねぇちゃんにキスをした。


『わぉ。言う前に、既にそのつもりだったとは! やるね!』

「んっ……」


 りんなは、おねぇちゃんのくちびるを、はなさなかった。

 ずっと、ずっと、ずっと。ずっとキスしつづけるつもりで、キスをする。

 でも、ずっとはつづかなかった。


「ん、んっ……。ん……? 凛奈……?」


 おねぇちゃんが、めをさます。

 おきたばかりのおねぇちゃんは、すぐに、おねぇちゃんのほうからキスをしてくれた。それを、すごくうれしくかんじる。

 だけど……。すぐに、くちびるがはなれる。


「凛奈、ここは……」


 おねぇちゃんが、キスでとじていた、めをあけて、まわりをみる。

 それで、ぜんぶは、おわってしまう。


「えっ、嘘……。佳奈……。な、なんで、ここに……」


 ほかのひとたちの、めがこわい。

 おねぇちゃんをせめるように、めが12こ、おねぇちゃんをみている。


『えー、双子のお姉ちゃん? キミはもう、【犯人】として指名されてしまったのです。起き抜けで悪いけど、これから死んじゃうってわけ。おわかり? あははははははははは!』

「えっ……や、やだ……。違う……。か、佳奈じゃない! か、佳奈は殺してなんてないから!」

『いや、でも。もう議論で決まったことだし。それに、ボクも正解って言っちゃったからね。事実、キミが殺したでしょ?』

「あ、ワンダーあんたが、嘘ついてるに決まってる! 佳奈は、殺してなんてない! だから、処刑なんてされない!」

『んー、そういう悪あがきは議論の最中にやってもらわないと。キミは引き籠もってたせいでチャンスを逃したの。優秀とは言い難いけど、探偵ちゃんが全部、キミの殺人を解いてくれちゃったからね!』

「……っ!」


 おねぇちゃんが、ぴんくのひとをにらむ。


『あ、頭ピンクちゃんじゃないよ? 今回の事件で探偵役をやったのは、そっちの痴女ちゃんなのでした! 散々ボクを煽ってくれたそこのソレは、自分の無能さを実感して震えてるところだよ! あはははははははははは!』

「――っ! 佳奈じゃない! 佳奈は、殺してなんてない!」

『あーもー、さっきからそればっかり。もっとないの? この場の全員ぶっ殺してやるー、とか、死ぬ前に妹ちゃんともう一度えっちぃことを、とかさ!』

「やだ! 死にたくない……。佳奈は!」


 おねぇちゃんが、まほうをつかう。

 そのまほうは、ぬいぐるみのくびをきって、ぽとりとじめんにおとした。

 でも、まほうはそれでおしまい。

 おねぇちゃんは、くるしそうに、ふらりとよろける。

 すぐに、あたらしいぬいぐるみが、おふろにはいってきた。

 そのぬいぐるみは、こわれたぬいぐるみがもつ、ほうせきをひろいあげる。


『あはぁ、ダメだよそんなの、最悪手だよ! 動ける分の力まで放棄するなんて。キミがするべきなのは、まず武器を探すことだったね! そうすればまだ、抵抗もできたかもしれないのに。そんなフラフラじゃ、もう抵抗できないよね?』

「う、うるさい! 佳奈は、まだ……」

「おねぇちゃん……」

「大丈夫。大丈夫だから、凛奈……。佳奈は、凛奈と一緒に生きるの。絶対」

「おねぇちゃん……」


 かんがえないと。

 りんなは、なにをしたらいいの?

 おねぇちゃんのために、なにをしてあげられるの?

 りんなのまほう。ふたつを、ひとつにするまほう。

 これで、どうやって、おねぇちゃんをたすけられる?


『それじゃあ、いってみましょう! 可愛い可愛い小学生の、処刑タイムです! 双子のお姉ちゃんは、どんなに可愛く泣いてくれるのでしょうか! それでは――』

「ま、まって……」


 りんなは、ぬいぐるみにかけよった。


『待たないよ! キミのおねぇちゃんはボクがぶっ殺しちゃうって、もう決まっちゃって――』

「そうじゃなくて……」

『ん? 何? どゆこと?』


 ぬいぐるみが、くびをかたむける。

 りんなはしゃがんで、ぬいぐるみに、こそこそばなしをした。

 それは、りんながおもいついた、おねぇちゃんといっしょにいるための、だいじなおはなし。

 ぬいぐるみは、それをきいて、わらった。

 こころのそこから、おもしろそうに、わらった。


『あはははははははは! 本気なの!?』

「うん」

『あはははははははは! あはは、あは、あはははははははは! こんなに面白いことはないよ! いいね、妹ちゃん、最高だよ! いいよいいよ、キミの話を呑んであげるよ!』

「……うん。でも、かわりに」

『わかってるって! ワンダーは約束を守る生き物なんだよ!』


 ぬいぐるみが、ほうせきをもって、ちいさくつぶやく。

 すぐに、すらいむ、というのがおふろにくる。

 すらいむは、ほうちょうをいっしょに、はこんできた。


『はい、お望み通りのものだよ! これでいい?』

「うん」


 りんなは、そのほうちょうを、てにとる。

 そして、おねぇちゃんのところにもどった。


「り、凛奈……。それ、どうするの……? ま、まさか……」


 おねぇちゃんが、おびえたかおをする。

 ……ちがう。だめだよ。それじゃあ。

 りんなは、ほうちょうをもったまま、わらいかける。

 しぜんに、えみがあふれてくる。やさしいきもち。

 愛が、あふれてくる。


「凛奈……」


 りんなのえがおで、おねぇちゃんも、あんしんしてくれる。

 ……よかった。そうじゃないと。


「おねぇちゃん。キス、しよ」

「……うん」


 おねぇちゃんが、めをとじる。

 なんどもくりかえした、愛をしめす、ふたりのぎしき。

 りんなは、愛しいおもいで、おねぇちゃんにキスした。

 そのまま、ほうちょうを、おねぇちゃんのおなかにさした。


「……ぇ」


 キスをしたままのおねぇちゃんが、めをあける。

 ……むぅ。キスしてるときは、はずかしいって、いったのに。

 めをあけないでって、いったのに。


「り、凛奈、なんで……痛っ」


 おねぇちゃんが、おなかのほうちょうを、おどろいたようにみる。

 ……あっ。うれしくて、つい、わすれてた。

 おねぇちゃんにも、おしえてあげないと。


「おねぇちゃん。あのね。りんな、おねぇちゃんといっしょになりたい」

「ぇ……? 何、を……」

「だから――ね? ひとつになろ?」


 りんなは、そのほうほうを、おねぇちゃんにおしえてあげる。

 それは、とびっきりの、まほうのつかいかた。

 せかいでいちばん、しあわせなまほう。

 おねぇちゃんは、びっくりしたように、りんなをみて――。

 そして、だきついてきてくれた。


「……ん、ぐ。凛奈……凛奈、凛奈、凛奈……っ。嬉しい。そんなこと、言ってもらえて。――愛してる。この世の誰より」

「うん。りんなも、おねぇちゃんのこと、愛してる」

「佳奈も、愛してる」

「りんなも」


 キスをする。なんども、愛をたしかめあう。

 ぐっとちかづいて、ほうちょうがもっと、ふかくささる。

 それでも、おねぇちゃんは、しあわせそうにわらってくれた。


「凛奈……ごめん。そろそろ、限界。……いい?」

「うん。おねぇちゃん、おねがい」


 おねぇちゃんがうなずく。くるしそうだった。

 もう、ほんとうに、げんかいらしい。

 ――さいごに、みじかく、キスをする。


「これからは、ずっと一緒」

「……うん」


 つよくうなずく。

 すぐだから。すぐに、いっしょになるから。

 だから――すこしだけ、まっててね。


「――[存在分離]」


 おねぇちゃんは、さいごに、まりょくをふりしぼって、まほうをつかった。

 おねぇちゃんから、が、ぶんりする。


 それは、おねぇちゃんとしか、いえなかった。

 からだもない。あしも、ても、どうたいも、くびも、あたまも。

 おねぇちゃんから、まほうでわかれたのは、そういうものだった。


 なにもなくて、でも、それはおねぇちゃんだった。

 おねぇちゃんから、『おねぇちゃんという、そんざい』そのものが、ぶんりされたから。だから、これはおねぇちゃんだ。


「――これからは、ふたりでひとり、だよ」


 わたしは、おねぇちゃんにわらいかける。

 ふたりでいっしょは、これがさいご。


「――[存在融合]」


 りんなは、おねぇちゃんと、ひとつになる。


 おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。おねぇちゃん。


 おねぇちゃんが、りんなのなかにはいってくる。

 からだが、こころが、たましいが――お姉ちゃんに侵される。

 凛奈だったものが、お姉ちゃんと一緒になる。

 二人が、ドロドロに溶け合う。脳髄が蝕まれて、グズグズになる。


 どこまでも深く、存在ごと侵される。侵入され、侵攻され、侵略される。

 お腹の中が熱い。頭が熱い。全身の血が熱い。心が熱い。魂が熱い。

 何もかもが溶け合う。愛で、一つに繋がる。


「あは、あははは、あはははははははははは!」


 気持ちいい。何もかもが気持ちいい。

 無上の快楽が、体を、心を、魂を貫く。

 ゾクゾクする。自分が、快楽そのものになったかのような、圧倒的な気持ちよさ。

 これが、愛する人と一つになるということ。


『自分』は、お姉ちゃんを愛している。

 でも『自分』は、凛奈を愛している。


 これは、凛奈の気持ちだ。これが、お姉ちゃんの気持ちだ。

 両想いの愛を、『自分』の中に感じる。


「あははっ。あはっ、ははっ、あははははっ」


 いつも二人でしてきた気持ちいい行為より、何倍も何十倍も何百倍も気持ちいい。

 だめだよ、こんなの。壊れちゃう。

 幸せすぎる。愛に何もかもを侵されるのが、こんなにも気持ちいいなんて。


 これでもう、二人は一人。一人で姉妹。たった一人の姉妹の出来上がり。

 存在しているだけで、気持ちがいい。圧倒的な快楽が、全身を刺激している。


 ――そうだ。『自分』に名前を付けないと。

 今の『自分』は、新しい姉妹なんだから。

 お姉ちゃんみたいに綺麗な名前がいいな。凛奈みたいに可愛い名前がいいかも。

 佳奈の名前。凛奈の名前。


 佳凛かりんっていうのは、どう? 佳奈と凛奈、二人が一緒になったのを、絶対に忘れない名前。

 雪村 佳凛。……可愛い。でも綺麗な名前。

 これがいいよ。すごくいい。


「愛してる」


 愛してるよ。お姉ちゃん。凛奈。


 ――雪村 佳凛。

 大好きで大好きで大好きで、世界の何よりも愛している姉妹の名前。

 世界の誰よりも愛し合ってる、一人の名前。

 絶え間ない快楽を分かち合う、一人の名前。

 改めて、これからもよろしくね。佳凛。


 全てを攪拌する快楽の渦の中で、佳凛は、新しい姉妹の形に微笑んだ。

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