マギア・ミステリー 魔法少女たちが綴る本格ミステリーデスゲーム

【解決編】What is the role of the victim?

《被害者の役割は何？》

◇◆◇【桃井 夢来】◇◆◇

「ぁ、ぅ……ち、ちがうもん。おねぇちゃんじゃ、ないもん……」

　弱々しく、なおも凛奈ちゃんは認めようとしない。

　その様子をジッと見ていた棺無月さんは、面倒そうにため息を吐いた後、わたしに対して向き直った。

「はぁ……。ぶっちゃけあーしも、このままムックが【真相】の解答に進むのは心配なんだよね。カナタンみたいに、完璧に穴を埋めながら推理できたわけじゃないし。それは、わかってるよね？(〟-_・)?」

「…………」

　自分が彼方ちゃんより劣ってる自覚はあるけれど、今回は完璧に役割をこなしたつもりだった。

　まだ、他にあるのだろうか。わたしが埋めるべき弱点が。

「反論点はまだ、二つあるよ。今からあーしが教えてあげるからさ、それに全部反論できたらムックの勝ちってことでいいよね？　ね、妹ちゃん(^O^)」

「ぁ、ぅ、ぅん……」

　凛奈ちゃん自身も、わたしに対する反論は用意できなかったらしい。

　逡巡する様子を見せた後に、躊躇いながらも棺無月さんの誘いに頷いた。

「おっけ。それじゃあ、やろうか。――この事件の、最後の反論バトルだよ。用意はいい？ヾ(＠⌒ー⌒＠)ノ」

「……はい」

　まるで、ゲームみたいだ。そんな感覚を与えられる。

　……いや。魔王は最初から、この状況をゲームとして作った。そんな、命を懸けたゲームなんてふざけていると、わたしは思っていたけれど……。

　わたしが今、『これはゲームだ』と実感しているのだとしたら……。わたしもまた、異常者のルールに染まりつつあるということだ。

　その薄暗さに身震いしながら、わたしは棺無月さんと向き合った。

「それじゃあまず、一つ目。これを忘れちゃダメでしょ？　あーしが双子のお姉ちゃんの魔法をコピーして、犯行に使った可能性は？(￣д￣)」

「…………」

　そうだ。そんな単純なことを忘れていたなんて。

　この人は――いつだって【犯人】たり得る能力を持っている。

　しかし毎回、【犯人】ではないと示す根拠があった。今回は……。

「……棺無月さんが【犯人】なら、佳奈ちゃんが引き籠もっていられることに矛盾します。遺体が佳奈ちゃんの魔法少女衣装を着ていた以上、佳奈ちゃんが生きていることは確定しています。個室は内鍵しかありませんから、佳奈ちゃんでも萌さんの部屋に隠れることができるはずですけど……佳奈ちゃんが【犯人】じゃないなら、そこに隠れてる理由がわかりませんし、棺無月さんに服を貸す理由もないです。それに、魔王に強制的に部屋の外に出されているはずです。【真相】の究明は、【真相】を知っている人以外は全員参加らしいですから」

「わからないよ？　あーしが上手いことそそのかして、【共犯者】として抱き込んだかも。それで魔法と衣装を貸してもらったとか。計画を知ってたなら、引き籠もってても許されるよね？(´Д｀)」

「……昨日、佳奈ちゃんたちは他の人たちを警戒していたはずです。そそのかすなんて、できるはずがありません。そもそも佳奈ちゃんたちには何の得もない以上、それは考えづらいです」

「――ん。ま、合格点かな。みんな、その説明で納得すると思うよ(*'▽')」

「ぁ、ぅ……っ」

　棺無月さんは大仰に頷いた。

　それに、凛奈ちゃんは悲しそうな顔をする。

「で、二つ目なんだけど……。これは、気づいてるんだかどうだか。ムック、答えづらいからって、わざとはぐらかしたりしてない？(o゜ー゜o)?」

「……そんなこと、しません」

　棺無月さんじゃないんだから、という言葉は呑み込んでおく。

　しかし――わたしに返されたのは、嘲笑だった。

「それなら、本気で無能ってことになるよ。――だってさ。キミも言ったよね？　【犯人】は、カナリン姉妹の個室でマユミンを殺したって。それっておかしくない？　［呪怨之縛］を持ってるマユミンを強引に部屋に連れ込むのは、だいぶ厳しいし。カナリン姉妹がマユミンを部屋に誘ったって可能性もあるけど、殺人事件が起こった翌日だよ？　罠だって思うでしょ、普通？( ；´Д｀)」

「…………」

　――そうだ。明らかに致死量はあったらしい、個室の血。その問題が解けていない。

　移動した形跡のない血だまり。現場に残されたノコギリ。

　……いや。でも何か、今までの議論の中に引っかかる推理があった気がする。全く関係のないところで【真相】に掠ったような、そんな感覚が――。

　棺無月さんの怪しい眼光が、わたしの瞳を覗き込む。

　凛奈ちゃんもまた、惑うわたしに期待するような目を向ける。

　……どうして、萌さんが雪村さんたちの部屋に足を踏み入れたのか。

　――どうして？

「ガチでわからないの？　ほんとに？(￣д￣)」

「…………」

「えー、じゃあ、しょうがないからヒントね。人は死者には理想を押し付ける。悲しいほどにね(。´･ω･)」

　……死者には、理想を押し付ける？

　何を言っているのか、全くわからない。

　――違う。わかりたくない。

「……まだ？　ヒント②。つい昨日のこと、忘れちゃった？(´Д｀)」

「昨日の、こと……」

　疑いが像を結び始める。

　これしかない、という思いが再び湧いてくる。けれど、これは……。

　……本当に？　もし何かの間違いなら、わたしは……。

「あれ？　その顔、わかったんじゃないの？　ほらほら、早く言ってよ( ꒪⌓꒪)」

「…………」

「ん？　ほんとに言わないつもり？　まあ、これなら意地でも認めざるを得なくなると思うけど。ヒント③――」

「だ、だめっ……！」

　棺無月さんが続々とヒントを与えようとするのを、凛奈ちゃんが体当たりで止めた。

「あー、そういえば、反論できなきゃムックの負けって条件だったっけ？(-ω-)」

「……っ、っ！」

「でもなぁ。ムック、もう気づいちゃってるっぽいよ？　今更手遅れじゃない？(´Д｀)」

「……ぅ」

　棺無月さんを食い止めようとしていた凛奈ちゃんは、今度はわたしの方に駆け寄ってくる。

「ね、ねぇ……ほんとに、おねぇちゃんじゃない、んだよ？　り、りんなが……りんなが、ころしたんだよ？」

「…………」

　凛奈ちゃんは、泣きながら訴えかけてくる。

　だけど――凛奈ちゃんの魔法じゃ、人体を切断することなんてできない。ノコギリを使ったにしても、こんな小さい子の力で人体を五カ所も切断するなんてこと、できるとは思えない。

　……小柄さで言えば、萌さんも相当だったけれど。だけど、あの人は――。

「……はぁ。ま、言いづらいだろうしね。退路を断ってあげるよ。ヒント③。――ノコギリを殺害に使わなきゃいけないのは、誰？(〟-_・)?」

　……もう、認めなくちゃいけないらしい。

「萌さん、ですよね……」

「そうだね。［呪怨之縛］を使うとしたらね。いや、他の凶器でもいいんだけどさ。現場にあったアレを必要とするとしたら、マユミンだけよね。じゃあ――どうして、マユミンはカナリン姉妹のところに行った？ヾ(＠⌒ー⌒＠)ノ」

「…………」

　これしか、ないだろう。

　使用した痕跡のないノコギリ。それが指し示しているのは――。

「萌さんは、佳奈ちゃんと凛奈ちゃんを……。二人を……」

「二人を？(。´･ω･)?」

　言葉が詰まる。本当に、こんなことを言っていいのか。

　間違っていたら、被害者への冒涜にしかならないんじゃないか。

　――でも、言わないと。

　言わないと、この事件は完全に解決されない。

　わたしは、息を整えて、全てを一息に言葉にした。

「……二人を、殺害しにいった……んですよね」

「正解！　たぶんだけどね(^O^)」

「…………」

　人は死者には理想を押し付ける。――被害者は何の罪も、何の落ち度もない人間だと思い込む。悪人に殺された以上、善人だと無条件に決めつけがちになる。

　つい昨日のこと。――雪村さんたちの部屋の鍵が、壊されたこと。殺人犯は是非あの双子を狙うようにと、魔王が悪趣味に喧伝していた。

　そして、ノコギリ。使用されていないというのが本当なら、それは【犯人】が用意したものではなく、【犯人】以外の意図で持ち込まれたということで――。

　これら全てを統合すると、被害者は殺人を企んでいたという結論以外出てこない。

　わたし自身、反論を探して……見つけられなかった。

「それにしても、マユミンも無謀なことするよね。［呪怨之縛］のストック、一回分しかなかったのに。どうやって二人とも殺すつもりだったんだか。ストックは現地調達する予定だったのかな？　普通に反撃されて死んじゃったみたいだけど(´Д｀)」

「……ぁ、ぅ、っ」

　凛奈ちゃんが、床にへたり込む。

　きっと、双子の部屋に萌さんが押し入ってきたのなら、その場に凛奈ちゃんも居合わせたことだろう。

　殺害には関与していないだけで。事件の全てを、この子は見てきた。

　その子が、膝をついた。

　――それは、もう何の反論点もないことを、明確に示していた。