Dig up the Victim's Grave

《被害者の墓を掘り返す》




「お墓を暴くって……石像をどかすってことだよね? だ、誰がやるの……?」

「いや、みんなで力合わせなきゃ無理でしょ。ぺしゃんこになったヤツの確認はあーしがやってもいいけど( ̄д ̄)」


 空澄ちゃんは嫌そうな顔をしながら言った。

 ……石像の下は、凄惨という言葉でもまるで足りていないような状況になっているだろう。それを、確認なんて……。


「……いいの?」

「あーしだって進んでやりたいわけじゃないし、代わってくれる人がいるなら遠慮なく代わってもらうけど? どうせ誰も見たがらないでしょ?(=_=)」

「…………」


 反論はなかった。

 浴場に戻って全員にその意向を伝えても、結局反対意見は出ず。

 私たちは吐き気を堪えながら、血の匂い渦巻く浴場で、墓荒らしを敢行することとなった。


「しかし……貴様はどのようにして、此処にある忌々しき像を除去するつもりなのだ」

「うーん、そこなんだよね……。ぶっちゃけノーアイデア。みんなでなんとか持ち上げられたりしない?(。´・ω・)?」

「無理だと思うけど……」


 ここにいるのは女の子が七人。接理ちゃんはあの状態だし、佳奈ちゃんは手伝ってなんてくれないだろうから……。佳奈ちゃんを拘束する役に一人残すとすれば、四人しか働けない。

 像は何キロ、あるいは何トンあるかもわからない。これを女の子四人で持ち上げるなんて。魔法少女としての力を振るえた頃ならできたかもしれないけれど、今は無謀中の無謀だ。


「てこの原理……とか?」

「ま、妥当なのはその辺りかな……。ねぇワンワン、これ持ち上げられそうな板とか、この館になかったっけ?(o゜ー゜o)?」

『あはは、苦労してるね! こんなの、不良ちゃんがいたら一発で吹き飛ばせただろうに! ま、死んだ人が魔法を使えるわけないけどね!』

「ほんとなぁ。なんでロウカス、死んじゃったかなぁ……(´Д`)」

『ほんとねぇ。誰かさんのうっかりのせいじゃないかなぁ……』

「あー、はいはい。それで、てこに使えそうな板とかある?(^O^)」

『ん? あいさー、こちらに!』


 新しいワンダーが、長い金属板を抱えてやってくる。幅何十センチ、長さ二メートルといった具合の、厚い板だ。倉庫で見かけた覚えがある。

 空澄ちゃんは渡されたそれを、しげしげと眺める。


「うーん、強度が心許ないかな。あと何枚か持ってきてもらっていい?(〟-_・)?」

『いえっさー!』


 ワンダーはどうしてか素直に従い、新しい金属板を次々持ってくる。

 ……どうして、ワンダーが奉仕なんてしているんだろう。

 少し、気味が悪かった。


「さて。これでうまいことホニャホニャやって、シーソー式のてこ、完成!(゚∀゚)」


 下に何かを――おそらくは死体を挟んでいるせいか、石像は少しだけ床から浮いていた。

 空澄ちゃんはお風呂のお湯を抜き、その隙間に金属板を挟んで、更には板の下に物を噛ませて、シーソーを作る。

 シーソーは全部で三枚。これに全員で体重をかければ……。


「でも……空澄ちゃん。これ、完全に持ち上げるのは無理そうだけど……」

「うん、それはわかってる。でも、一瞬でも見えれば、あーしは完全把握できるからさヾ(@⌒ー⌒@)ノ」

「えっ? ……ああ、映像記憶」

「そうそれ(*'▽')」


 そういえば、最初の事件の時に言っていた。

 空澄ちゃんは一度見たものをなかなか忘れない。

 だから空澄ちゃんがこの下を一瞬でも覗ければ、カメラのように、それは空澄ちゃんの脳に焼き付く。

 それで空澄ちゃんは、なんとかこの下を把握しようとしているらしい。


「それとカナタン、一つお願いがあるんだけどさ(*'ω'*)」

「……お願い?」

「そう。コレ持ち上げながら、死体に[外傷治癒]使うってできる?(-ω-)/」

「う、うん。できる、けど……。でも、どうして? だって、もう……」


 どう考えても手遅れだ。

 こんなものが降ってきたら一撃で絶命に至るだろうし、そうでなくとも、捜査の時間中に放置しすぎた。

 ……この下に人がいたなら、生存確率は0%だ。


「まあ、手遅れなのはわかってるけどさ。こんな状態じゃ、被害者の顔もよくわからないし。被害者を特定したいなら、顔やら何やらを復元しないとね( ;´Д`)」

「…………」


 無駄だとは、思う。髪の色である程度の判別はつくし、わざわざやる意味もない気がする。

 だけど……やらない意味もあまりない。


「……やるだけ、やってみる」

「おけ、よろしくね。それとアイたんも、金属板がもし耐え切れなさそうだったら、[刹那回帰]で復元してくれる?(。´・ω・)?」

「……ああ、了解した」


 そうして、石像を持ち上げる準備は整った。

 香狐さんは佳奈ちゃんの拘束に、空澄ちゃんは石像の下の確認にそれぞれ専念する。接理ちゃんは、手伝ってはくれなさそうだったので、役割はない。

 他三人――私と夢来ちゃん、藍さんがシーソーに全力で体重をかける役になった。


「一応言っておくけど、集中したいから、変なアクシデントはやめてね。間違ってあーしに魔法当てるとか、そういうことは絶対ないように(^O^)」

「うん、わかった」

「うむ」

「よし。それじゃあ――やりますか」


 空澄ちゃんが手を打ち鳴らす。

 それが、作戦開始の合図だった。




     ◇◆◇◆◇




◇◆◇【棺無月 空澄】◇◆◇


 這いつくばって、石像の下を覗き込む。

 石像の下部、抜け落ちた二階の床の部分は、やっぱり歯車状のギザギザがびっしりあった。

 ……まあ、今気にするものじゃない。


 わざわざ懐中電灯なんて用意して、墓の下を照らし出す。とりあえず、グロテスクな肉塊がそこに押しつぶされていることだけはわかる。

 嫌な景色だった。でも、グロテスクなものを見るのはこれが初めてじゃない。

 この館に閉じ込められる前にも、いくつか見てきた。

 一度見たものは忘れないあーしだけど、とりわけ、あれだけは忘れられない。

 二年前の、あの――。


 ……おっと、集中しないと。

 これで失敗したら面倒だ。リトライなんて御免蒙る。

 一回で、全てを見切らないと。


「3・2・1――」


 カウントダウン。

 合図と共に、三人が金属板に飛び乗る。

 やっぱり、完全には持ち上がらない。だけど、像の下の肉塊が少しだけハッキリ見えるようになる。

 あーしは目を凝らして、細部まで肉塊を観察した。


 やはり、その死体は見るに堪えない。最低最悪の醜さの塊だった。

 骨は砕け、肉は潰され、全てが血で彩られている。

 お風呂のお湯のせいか、一部は血が洗い流されたようにもなっていた。

 ……あった。髪だ。すると、ここが頭部。

 これもお湯のおかげか、血色に染まりながらも、髪の色は判別することができた。白だ。間違いない。少し血に染まった白の髪が、元・頭部と思しき肉塊から生えている。――カナリン姉妹が持つ、白の髪。


 それと――あれは何? 何か、変な風に光を反射する細い棒がある。

 ……見覚えがある。釘だ。倉庫にあった長釘。その釘が、肉塊に突き刺さるようにして何本も存在している。釘は全身を満遍なく縫い留めていて、被害を免れた場所は見つけようがない。両手足も完全に貫かれている。セーラー服も貫通して、釘は打ち込まれている。このお風呂は檜風呂だから、釘はしっかりと刺さったことだろう。

 どうやって被害者をピンポイントで石像の下に誘導したか疑問だったけれど、これで疑問が晴れた。


 それと……これはどういうことだろう。

 肉塊の元の形を考えると、どうも腕も足も頭も、胴体と泣き別れしているように見える。重いものが降ってきただけで、手足が千切れたりするだろうか。まして、首が千切れるなんて。……おそらくは、切断されたのだろう。


「……え?」


 カナタンが変な声を漏らす。何かあったのだろうか。

 そう考えているうちに、カナタンの[外傷治癒]が効力を発揮し始める。

 ぶっちゃけもう欲しい情報は取れたから、意味がないんだけど……。

 そんなことを思いながら経過を見届けていたので、あーしは驚愕させられた。


「は?」


 カナタンに続いて、変な声を漏らす。

 カナタンの[外傷治癒]は、大きな効果をもたらさなかった。

 本当に。治しきれなかったとかでなく、

 ただ、手足と頭が胴体にくっつく。――たったそれだけで、[外傷治癒]は役目を終えた。薄い血に濡れた、見慣れたセーラー服の下はどうなっているか見えないけれど。微動だにしないことからおそらく、ペシャンコにされた傷は全く治療されていない。潰されたときのままだ。


 ――観察しているうちに、どこかが耐え切れなくなったのか、石像が再び落ちてきた。

 肉塊は巨大な圧力にもう一度押さえつけられる。懐中電灯を持っていようが、グロ肉がそこにあることしかわからなくなった。

 ……もう、見なくてもいいだろう。

 気味の悪い光景は、もう十二分に脳に焼き付いた。

 そう思って、あーしは身を起こした。




   ◇◆◇◆◇




◇◆◇【空鞠彼方】◇◆◇


 ……何だろう、今の感触。

[外傷治癒]を使ったというのに、全身の修復ができる気がまるでしなかった。


 私は第二の事件の反省を生かして、治したのがどういう傷か把握できるように、神経を研ぎ澄ませていた。

 その結果わかったのは、私の魔法はただ、腕や脚の付け根、そして首の状態を元に戻しただけということ。

 それ以外にも小さい傷を――細い何かに貫かれたような傷を――治したような手応えはあったけれど、全身の修復をしたという感じではなかった。

 目的とは何の関係もない傷を癒して、私の魔法は役割を終えた。


 まるで――この石像の殺人に、悪意など存在しないと主張するように。

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