【解決編】Is that your final answer?
《ファイナルアンサー?》
『時間切れです! これ以上の議論は認められません! もし何か余計なことを言っちゃうなら、その前にキミたちの口を物理的にチャックしちゃうからなー? あはははははは!』
ワンダーの宣言に反抗せず、私たちは皆一様に黙り込んだ。
何か言いたげにする夢来ちゃんも、憤怒の形相を浮かべる接理ちゃんも、顔を真っ青にした忍ちゃんも、口を開かない。
従順に言われたことを守る私たちを見て、ワンダーがニヤリと笑った気がした。
『今回も【真相】の解答は、参加者のうち、誰か一人のみに許されます。さあ、今度は誰がやってくれるのかな?』
「僕がやる!」
「は? セツリンに任せられるわけないよね? 馬鹿じゃないの?( ゚Д゚)」
「それなら、桃井 夢来なら問題ないだろう!」
「問題大ありだよ。間違った答えを出した無能な探偵役は、フィナーレにはふさわしくない。今回も、カナタンに任せればいいでしょ? カナタン、できる?(-ω-)/」
「……うん」
「彼方ちゃん、ダメ!」
制限時間のせいで互いを納得させきれなかった対立陣営が、解答権を主張し合う。
……もう、忍ちゃんが【犯人】だというのはほとんど確定しているのに。
「ねー、ワンワン? こういう場合、どうすればいいの?(。´・ω・)?」
『ま、こういう場合は全員で多数決だね。【真相】解答は、全員の意見を提出する場だよ。はみ出し者が勝手に答えちゃたまらないでしょ?』
「そりゃそうだよね。【犯人】が【真相】解答役なんてやっちゃったら、それこそ目も当てられないことになるし┐('д')┌」
そう言って、空澄ちゃんが体の向きを変え、議論の中にいなかったメンバーに目を向ける。
「というわけで、多数決をすることになりましたー。あーしは解答役とかやるつもりないから、カナタンとムック、それと一応セツリンも入れとくけど、この三人の誰に任せるか決めてもらえる?(^◇^)」
「…………」
一部の人たちが、無言で顔を見合わせる。
そして。
「なら、私は彼方さんにお願いしたいわ」
「我も賛成だ。桃の乙女なら、不足はあるまい」
「みゃーはもう、忍が【犯人】ってわかってるにゃ! だから、彼方に入れるしかないにゃ」
「
最初から、流れは私に傾いた。凛奈ちゃんだけは口を開かずに、佳奈ちゃんの陰に隠れている。
忍ちゃんはまだ、[呪怨之縛]によって動きを止められたままだ。口を開くこともできずに、摩由美ちゃんに見張られている。
『はい、じゃあ今回も、【真相】の解答役は頭ピンクちゃんだね! いやぁ、主人公ポジションはアバンギャルドちゃんだと思ってたけど……案外、頭ピンクちゃんが主人公だったりするのかな?』
「…………」
今更、ワンダーの軽口に付き合ったりしない。
代わりに、心の中で強く、死者の剣を握りなおした。
――この剣で、全ての謎を切り裂いて見せる。
「彼方ちゃん……だ、ダメだよ……。また、彼方ちゃんが辛い思いをしちゃう……」
『ダメだろうがなんだろうが、決まったものはもう覆りません! 解答役は、頭ピンクちゃんになったの!』
……夢来ちゃんが、心配してくれているのはわかっている。
だから、覚悟だけは固めておこう。
――死者の剣を、握り続ける覚悟を。
『というわけで――これより、第二の事件の【真相】の解答! 猪鹿倉 狼花さんを、呪殺に見せかけて面白おかしく殺害した【犯人】、及びその犯行方法を当てていただきます!』
ワンダーが、大きな声で煽り立てる。
『ちなみに、【真相】解答中の私語は厳禁でーす。うるさくしそうな白衣ちゃんは、喋ったら即黙らせるからねー。あははははははは!』
「なっ――どうして僕だけ――」
『ほら、早速うるさくするんだからー。スライムちゃん、口塞いじゃってー! あ、一応呼吸はできるようにね。死なれちゃ困るから』
ワンダーが、紫の宝石を手に命令する。
すぐさまスライムが一匹シアタールームに入ってきて、接理ちゃんに取りつく。
スライムはマスク状に変形すると、それで接理ちゃんの口を覆った。
何か叫んでいるようだけど、私たちにはもううまく聞こえなかった。
暴れる接理ちゃんを、スライムがその身体を全て呑み込むことで拘束する。
『はーい、黙らせ完了ということで、改めまして。頭ピンクちゃんが見事【真相】をピタリと言い当てたのなら、ボクのお楽しみタイムがお約束されます! もしどこかで間違えちゃうようなら、みなみなさまは、揃って仲良く絶望タイム! 触手ちゃんの餌にでもしちゃおっかなー。もちろん、性的な意味でね!』
「…………」
ワンダーの軽口をまたも無視する。
どうせ、一緒だ。私はもう、先ほど見出した真実を信じる他ない。
『【真相】は、誰に微笑むのか――! あは、あはははは、あはははははははは! みなみなさまの最終解答を、開示してください!』
――よし。
この最終解答は、最後まで詰め切れなかった部分を補足しながら進めるしかない。
【犯人】がいつ犯行を行ったのか、どこで、どうやって――。
それらを全て詳らかにして、ようやく私たちは【真相】を突き止めたことになる。
この事件に、幕を引くことができる。
……狼花さん。今、終わらせます。
狼花さんの望みに反して、また起こってしまった事件を……私が終わらせます。
だから、見ていてください。
◇◆◇◆◇
今回の、旧個室で起こった殺人。あの薄暗くて不気味な雰囲気のせいで、この殺人は幽霊の仕業と誤認されました。
けれどそれは、【犯人】の偽装でした。【犯人】は、自分の固有魔法の特徴を利用して、殺人を幽霊の仕業に見せかけました。
そして、これもまた【犯人】の固有魔法の特徴で、後には何の証拠も残さずに殺人は完了されるはずでした。
……いえ。私が[外傷治癒]で傷を消さなければ、傷跡から【犯人】を特定できたかもしれません。もしかしたら【犯人】は、私が傷を消してしまうことも見越してこの殺害場所を選んだのかも。薄暗くて、治療前に傷跡を確認するなんてできない場所でしたから。
【犯人】の固有魔法は、設置式の罠。それも、魔法の罠故に、壁越しでも発動する巧妙なトラップです。
けれど、それを旧個室に仕掛けるには問題がありました。
旧個室の内部は薄暗く、しかも扉がすぐに閉まってしまうので、【犯人】の固有魔法の欠点が浮き彫りになります。【犯人】の固有魔法の欠点――光る魔法陣として、簡単に発見されてしまうこと。
それを防ぐために、【犯人】は壁越しで罠を発動させることを考えました。
たぶん普通なら、罠を一番仕掛けやすい場所は洗濯室だったと思います。あそこは旧個室の真下ですから、罠の範囲内に捉えるには十分です。
……【犯人】の固有魔法が、天井に設置できないようなら別ですが。もしかしたら、【犯人】はそれで罠の設置場所を別の場所にせざるを得なくなったのかも。
だけど私は、【犯人】がより効果的な罠の隠し場所を持っていたから、そっちを選んだんだと思います。
それは、女子トイレです。……確実を期すために、おそらくは二階の、旧個室の隣の女子トイレに罠は設置されました。
本当なら、そんな場所に罠を設置しても、すぐに気づかれてしまうはずです。けれど……今だけは違った。
ワンダーの嫌がらせで、女子トイレには触手の魔物が置かれました。この魔物は、幻覚も透明化も無効化して、やって来た女の子を襲う……女の敵です。
でも、【犯人】は――魔法少女でありながら、女の子じゃなかった。
【犯人】は、男の子でした。
実際、魔法少女になる条件は、どれも精神的なことだけ。それなら……女の子のような心を持っている男の子でも、条件を満たせたはずなんです。
けれど、魔法少女という名前から、私たちはここにいる全員が女の子だと思い込んでいました。
その認識のズレを、【犯人】は利用しました。
触手の魔物は、男の人を見ると委縮してしまうそうです。だから【犯人】は女子トイレに入っても襲われることなく、罠の設置を完了させた。罠の設置をしたのはたぶん、空澄ちゃんがスタンドライトで摩由美ちゃんを殴ろうとした後です。
……女子トイレにいる魔物も、見え見えの罠をわざわざ踏みに行くとは考えられません。罠は、その場に残ったはずです。
そうして後は、獲物が罠にかかるのを待つだけでした。
それに狼花さんが引っ掛かったのは……。
狼花さんが、旧個室のスタンドライトをつけようとしたからだと思います。
本来なら、スタンドライトはベッドの上……儀式の間に近い方の壁際にあるはずでした。けれど、そのスタンドライトは移動された。空澄ちゃんが摩由美ちゃんを殴る際の凶器に利用しようとしたことで、偶然に場所が移されました。
……あのとき、スタンドライトを移動させたのも狼花さんでした。そこで罠が発動しなかったということは、あのとき罠は仕掛けられていなかった。仕掛けたのは、あの騒動の後の、どこかのタイミングだと思います。
空澄ちゃんがどこかで魔法をコピーした可能性は、捨てきれませんけど。騒動の後にずっと監視を受けていた空澄ちゃんは【犯人】から除外できます。
罠が仕掛けられた後、スタンドライトに近寄った狼花さん。
……スタンドライトが置かれた机は、女子トイレ側の壁際にありました。
それに近寄ったせいで、狼花さんは罠の有効範囲に踏み入ってしまった。
そうして――【犯人】が仕掛けた、命取りのトラップが発動しました。
【犯人】の罠による斬撃の威力は、カッターナイフ程度らしいですけど……防御力を失った魔法少女にとって、それは軽い傷じゃありません。
しかも、佳奈ちゃんたちの目撃証言によると、罠は複数重ねて設置されていたはずです。だから、狼花さんは一つでも危ない斬撃を、多重に受けることになった。
こうして……殺人計画は、完遂されてしまいました。
◇◆◇◆◇
「【犯人】の計画通り、現場にはほとんど証拠も残されていません。罠の魔法陣も、既に消えてしまっているはずです」
傷跡も結局、【犯人】に乗せられて私が消してしまった。
私は、狼花さんが殺されたと聞いて、焦りを覚えて。
証拠の保存なんてことを考えずに、魔法を行使した。
それで、不可能殺人の構築は完了するはずだった。
「けれど……絶対に消せない証拠がありました。それは、自分の体の性別。生まれ持った体だけは、変えることができなかった」
この殺人を行う上で必要な条件である、男の子だということ。
それだけは、完全な隠蔽ができなかった。
女の子と男の子では、身体的な特徴にどうしても差異が出る。それが、唯一の証拠として残された。
「そして、その証拠は、さっき摩由美ちゃんに確かめられました。――【犯人】の可能性がある人はもう、一人しかいません」
「――――ッ!」
接理ちゃんが何かを叫ぶ。しかし、それは拘束されているせいで、言葉として届かない。
「【犯人】は――魔法少女でありながら男の子でもある、神子田 忍……くん。それ以外にはあり得ません」
――言い切る。
これで、終わりだ。
『ファイナルアンサー?』
「……うん」
『あはははははははははは! あははははは、あは、あははははははははははは!』
私の解答を、ワンダーは笑った。
盛大に、盛大に嗤い続けた。
そして――。
『頭ピンクちゃん――三分の一、不正解!』
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