第96話 緊急
とうとうこの日がやってきた。
”彩ちゃん、ファイト!!”という親友からの応援をもらい、彩は勝負スーツを着て部屋を出た。マンションのエントランスまで来ると、佐藤が待っていた。
「いよいよだな。…にしても、実の親に会うのにそんな気合入れなくても。」
「今日は私の人生のターニングポイントですよ?気合い入れなくてどうするんですか。」
「”私の”じゃなくて、”私達の”な。」
「!」
「ただ恋人になるためにヒーローしてたわけじゃないぞ。…その、お前との将来も勿論考えてだな…。」
「なんで肝心な時にどもっちゃうかな…。」
もじもじする大柄な彼にため息をつきながらも、彩は彼の言葉に心を明るくした。
指定されたホテルのレストランで受付を済ませ、席についた。
「…16時40分か。ちょっと早過ぎたかな。」
「心を落ち着かせるのには十分です。」
「そうだな。」
二人は必要以上に身だしなみをチェック仕合い、深呼吸しては水を飲んで、少しでもリラックスするよう心がけた。
「…もうすぐ時間だ。」
「…えぇ。」
時計の針が16時58分を過ぎた頃、彩のスマホに着信が入った。
「…お母さんからだ。もしもし。」
『彩!今お父さんが倒れて…!そのままタクシーで総合病院に運ばれている所なの。悪いんだけど、レストランキャンセルしてあなた達も来てちょうだい!』
「えっ!?お、お父さん大丈夫なの!?」
『とにかく来てちょうだい!』
電話の相手は慌ててそう言い通話を切った。
「お義父さんがどうかしたのか!?」
「倒れたって。総合病院に向かってるから、あなた達も来なさいだって…。」
「急ごう!」
青ざめる彩を庇いながら、佐藤は急いでタクシーを手配した。
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