第43話 労い
「佐藤さん、今日一緒に外でランチどうですか?」
坂並が珍しく誘ってきた。会社では言えない事だろうか。
「おう、いいけど…。」
「良かった。じゃ、お昼にまた。」
短く答えるとさっさと自分のデスクに戻っていった。
「…なんだ?」
昼になり、会社の外で待っていると坂並が出てきた。
「おまたせしました。」
「珍しいな、お前が高田以外の人間を誘うなんて。」
「私だって他の人誘う事もありますよ。佐藤さん、何食べたいですか?」
「え?俺は定食かな。坂並は?」
「私も定食で。近くに健康的なメニューを出してる定食屋さんがあるんですけど、どうですか?」
「いいな。最近健康的な食事を心がけなきゃなと思ってたところなんだよ。」
「なんですかそれ。健康診断の結果良くなかったんですか?」
「いや、そういうわけじゃないけど…。まぁ、俺も若くないしな。」
「若くないってまだ三十代じゃないですか。何をジジくさいことを。」
「学生からしたら立派なジジイだよ。」
遠い目をする佐藤。彩はそんな先輩を見てため息を吐いた。
「はぁ。これだから失恋した男は…。」
「なっ、ちげぇよ!!それとこれとは別だ!!」
「じゃあもっと胸張ってくださいよ。働き盛りなんですから。」
パンッと佐藤の背中を叩いた。
「痛っ、おま、力強ぇよ…。」
「着きましたよ。ここです。」
二人はカラカラと戸を開けて店に入った。
「いらっしゃいませ~。」
「二人で。」
「こちらのお席へどうぞ〜。」
にこやかなおばちゃんに案内され、彩は佐藤を奥の席に座らせた。
「別に気使わなくていいのに。」
「いえ、先輩ですから。」
「なんだよ、気持ち悪いな…。なんかお前らしくないぞ?」
「……。」
彩は運ばれてきた水を一口飲んだ。
「…すみませんでした。」
「?なにが。」
「だから、その…大口叩いといて結局力になれなくて。傷口深くしてしまっただけでした…。」
「あぁ…。そんな事気にしてたのか。」
「え?」
「縁が無かったんだよ。気にするな。」
「でも…。」
「俺以上にお前が落ち込んでどうすんだよ。」
「……。」
「ありがとな、気にしてくれて。だからもうその似合わん表情やめろ。」
「似合わんってなんですか。」
「坂並はすましてるくらいが丁度いいさ。」
「私、そんないつもすましてます?」
「いつもこーんな顔してんじゃん」
佐藤は人差し指で目尻を引っ張って釣り上がらせた。
「そんな顔してません!」
「はいはい。そうだねー。」
「もう!」
「そろそろ注文決まったか?」
「決まりましたっ。」
「はは。すいませーん、注文いいですかぁ。」
むくれる彩を見て笑いながら佐藤が手を上げ、先程のおばちゃんを呼んだ。
「はい、ご注文はどうされますか〜?」
「とんかつ定食一つ。」
「健康的な食事にするんじゃなかったんですか?」
「まだまだ働き盛りだからね?」
佐藤はニヤリと笑ってみせた。彩はため息を吐きながらも同じものを、と店員に伝えた。
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