第41話 夜の公園

「お待たせ、しました。」

「お、お疲れさまですっ!」

 呼吸が中々整わない山下に、美鈴はミネラルウォーターを差し出した。

「良かったらどうぞ!」

「あぁ、ありがとうございます…。」

 ごくごくと喉を鳴らして500mlのペットボトルを半分ほど飲んだ山下は力なく言った。

「はは、柄にもなくカッコつけるもんじゃないですね…。」

 もう一度ペットボトルに口を付け、今度は一口だけ飲んだ。

「…この間は、すみませんでした。」

「えっ、…どうして山下さんが謝るんですか?」

「意地悪なことを言って、しかも高田さんの返しを聞かないまま帰ってしまったから…。大人気ないことして、すみませんでした。」

「そんな。私が曖昧な態度とっていたのが悪いんです。…ごめんなさい。」

「高田さんはそんな人じゃないって分かるのにな。」

「え?」

「高田さん、純粋な人だから。男を弄ぶような人じゃないって分かってたのに。」

「じゅ、純粋かなぁ。」

「純粋ですよ。俺の見た目も気にせず接してくれたし、ゲームの事語るときなんて少年みたいな目の輝きしてましたもん。」

「せめて少女って言って下さい!」

「はは、すみません。…高田さんのそういうところ、好きですよ。」

「!」

「…でもだから腹が立ってしまったんです。危機感がなさ過ぎるっていうか、誰でも信じ過ぎるっていうか。」

「親友にもそれ言われました…。」

「でしょう?心配になりますもん。今まで変な人に騙されてませんか?」

「えと、付き合ってた人に浮気された挙げ句借金背負わされたことはあります…」

「ほらぁ。てか借金て…。」

「い、今は完済してますよっ!」

「そういう事じゃなくて。…いい人過ぎますよ、高田さん。」

 美鈴は俯いてジャケットの裾を引っ張った。

「いい人って言うより、馬鹿なんですよ。…深く考えないで都合の良い風にしか捉えない。だから、後でしっぺ返しが来るんです。」

「……。」

「…好きな人にも、誤解されて振られちゃうんです。」

「え、好きな人に振られたんですか。」

「学生のころ、今回に似たような場面が会ったんです。仲のいい男友達と二人だけで遊んでたら、付き合ってるって噂が流れて。好きな人に振られ、男友達からは告白されて以前のような関係になれず結局疎遠になって…。」

「…今と似てますね。」

「…馬鹿でしょう?」

「そうですね。」

「はは。」

 遠くの方でスケートボードの練習をしている若者が技を決めたのか、仲間の数人がおぉ、と歓声を上げた。

「…今好きな人には伝えたんですか、想い。」

「まだです。」

「じゃあ、勘違いされる前に告白しないとですね。」

「もう勘違いされちゃってるんです…。」

「え゛。駄目じゃないですか!」

「はい…。」

「必要なら俺、その人に言いますよ。誤解ですって。」

「…山下さんは、ほんと、優しいですね。」

「そんな事ないですよ。」

「……。」

風が少しだけ強く吹いた。スケートボードをしていた者達はそろそろと帰り支度を始めた。美鈴は、風の音に負けそうな声で呟いた。

「…好きです。」

「え?」

「私が好きなのは、山下さんです。」

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