声フェチの恋愛事情

とりすけ

第1話 出会い

「はい、一二三ひふみ商事営業一課、さかいです。」

 っはー!境さん、今日も渋い声ですね!

「部長、この間の企画案なんですが…」

 室井君は今日もさわやかボイスだね!

「高田さん、急で悪いけどこれ今日までにお願いできるかな?」

「はい、大丈夫です♡」

「ありがとう、君にはいつも助けられてるよ。じゃあ、よろしく頼むよ。」

 そういって王子ボイスの木田係長は自分の席に戻っていった。

 今日もイケボに囲まれ幸せを感じる私は、高田美鈴たかだみれいという。無類の声フェチだ。毎日同僚や先輩、上司の声に癒されながら仕事を頑張っている。


 プルルルルッ

「はい、一二三商事営業二課、高田です。」

「あ、わたくしミドリ食品の山下と申しますが―」


 !?なにこの声!!めちゃくちゃタイプなんですけど!?


「…もしもし?…あれ、繋がってないのかな」

「すすいません、大丈夫です繋がってます!担当の佐藤に繋ぎますので少々お待ちください。」

 平静を装い、佐藤先輩に電話を繋ぐ。

(声で一目惚れなんてするんだな…)

 ドキドキが止まらない。なんてかっこいい声…低くて、爽やかさもあって、でも親近感が持てる少し鼻に抜けるような声。素敵だ。電話という素晴らしいツールのお陰で私は会ったこともない人の声を耳にダイレクトで聞けるのだから現代万歳。

 声の余韻に浸っていると、佐藤先輩がやってきて先程の電話の主との企画を一緒に担当するようにとの指令を出した。

「先輩は神ですか。」

「なんだ、そんなにやりたかったのかこの企画(笑)。高田が居てくれると俺も助かるよ。今後ともよろしく。」

 これは運命だ、そうに違いない…!私は再び電話の声を振り返っていた。

(あぁ、電話であれだけイケボなんだから直接聞いたら私失神するんじゃなかろうか…。)

 いらぬ心配をしつつ、お昼の時間になったので社員食堂へ向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る