第2話 かつての同級生
顔を上げると、少年のようなあどけなさを残した男子生徒が、にっこりと笑顔を近づけてくる。お互いの鼻がくっつきそうだった。……近すぎね?
「やっぱり駿河くんだぁ!
「――――っ!?」
お人形さんのような白い肌に、青い
――まるで
「あの……えっと……」
秋人は
そんな秋人を心底心配するように、少年は
「記憶障害、だったっけ? ウワサは本当だったんだね……」
「…………っ!」
男にベタベタ触られているのに、不思議と悪い気はしなかった。小動物と
しかし、昇降口を通りかかる女子たちが、「えっ」「何、何!?」と興奮しているので、さすがに気まずくなった。秋人はあたふたと少年の肩を
「ああ……すまん! 正直……君のことも覚えてないんだ……っ!」
秋人はあわててその言葉を
「ううん、全然大丈夫! まったく問題ナシだよ!」
少年はニッと笑い、青い
「ボクは――藤堂・クロエ・モーショヴィッツ」
「と、藤堂……?」
「クロエって呼んでよ。ボクたち、中学二年生まで同じクラスだったんだよ?」
クロエの声は
「……中二、まで?」
クロエの言葉を繰り返し、秋人は頭に浮かんだ疑問をそのまま口にした。
「中二までってことは……?」
「うん。ボク……引っ越しちゃったからさ……」
クロエは顔を伏せ、モジモジしながら言った。か、かわいい……って、イカンイカン、男だった。秋人は顔をブンブンと振った。
外見と名前から察するに、両親の仕事の都合で海外に行っていたのだろう。そういえば、さきほどから
「ねえ、
クロエは学生カバンから、プラスティック製の箱を取り出した。箱を軽く振ると、カードの束らしきものが
「トーナメントセンター、行ってみない?」
「――ッ!?」
クロエの誘いに、秋人はビクリと肩を震わせた。
トーナメントセンター。カードの束を収めたプラスティックの箱。クロエが誘っているのが、カードゲームショップらしいことは大体わかった。
だが――秋人の脳裏には、今朝、優子先生と交わした会話が浮かんでいた。
――忘れたほうがいいことも、人にはある。
頭の
「あ! そっか! ごめん……ボク、無責任なこと言っちゃったよね……やっぱ
「いや、何というか……」
さっきの勝美とは
「カードゲームのプロプレイヤーだったらしいのに、俺の部屋にはカードが一枚もなかったんだ。もしかしたら、親が売り払っちまったのかもしれない。あるいは……」
「――自分で売っちゃった?」
秋人の複雑な事情に共感するというように、クロエは
「ってーわけで、一度は〝引退〟しちまったみたいなんだ……物理的にも、精神的にもさ。カードもないし記憶もない。だから……クロエの対戦相手にはなれないと思うんだ」
クロエは首を横に振った。
「ううん、ボクの方こそごめんなさい……駿河くんとは、カードゲーム以外でも遊べるもんね?」
言葉とは裏腹に、カバンにカードの束をしまおうとするクロエはどことなく元気がない。
何だか申し訳ない気がしてきた……。さっきまでコロコロ笑顔だったクロエから、元気を奪ってしまったような、罪悪感が胸中に広がっていく。
俺は何をしてるんだ、と秋人は自分に言い聞かせた。高校初日――ボッチになったらどうしようと怯える学生生活の立ち上がりにおいて、クロエはせっかく声をかけてきてくれた。そんな友達を拒絶してしまった自分が、情けない。カードゲームぐらい、いいじゃないか。もしかしたら、記憶を思い出すかもしれない。それはつらい記憶かもしれない。だが――少なくとも、記憶が戻れば、成績の面では不安はなくなる。
そんな打算も働かせた秋人は、「あの……さ」と言葉を
秋人が何を話そうとしているのか、クロエが待っている。
「もしよかったら……教えてくれないか? 俺に。カードゲーム」
「す、駿河くん!?」
クロエは
「うん! やったあ! 駿河くんとカードゲームできる!」
秋人と手のひらを組み合わせ、クロエはその場でびょんぴょん
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