第25話 森の中の救急隊

 支援のための傷薬や薬草を、多めにカバンに詰め込み、A班B班の元へ向かう準備が整った。


 忘れ物もない、これでよし!

 シャルちゃん先輩冒険者の皆さん今行くぞー!


 詰所からレルエネッグ東門を抜け外へ出ると、さっきまで一緒に戦っていたC班のひとつ星冒険者たちが集まっている。彼らは私に気付くと、雨音にも負けない大きな声で送り出してくれた。


「がんばれよっ、A班とB班の支援は任せたぞ!」

「気を付けてね、無事に帰って来てよ!」


 C班みんなが応援してくれて体の底から力が湧いてくる! よーし行くぞー!


 「がんばってくるよっ、いってきます!」


 私たちはC班のみんなに手を振ってレルエネッグを出発した。


 A班とB班がいる予測地点まで行くには、街道を逸れて森の中を進まなくてはいけない。雨も降ってて危険な道のりだから気を付けて行かなくては!


 途中まで歩いてきた街道を離れ、森の中へと足を踏み入れる。晴れの日よりも更に薄暗くてかなり不気味だ。


「暗くてちょっと怖いね……リアナちゃん大丈夫?」

「だだだだだ大丈夫だだだ……しし、心配ななななな……」 


 涙目でめちゃめちゃ震えてた!

 もうすでに限界が近そうだ!


「ちょっと、大丈夫なの……?」

「だだ、だだだ大丈夫ぶぶぶぶ、でですす」


 全然大丈夫じゃなさそうな返事にルミーアさんも不安そうだけど、リアナちゃんを信じるしかない。

 それに私もちょっと怖いし、早くA班B班を見つけなきゃ!


 躓いて転んだりしないように、足元に意識を集中して一歩一歩確実に、木の根っこだけじゃなく、雨に濡れた苔にも注意を払って前進する。


「こっちは、滑るから危ない。じゃあこっちは……ここも滑るから危ない。ここは……よし、ここなら行けそうだ!」


 という具合に慎重に森を攻略していく。

 ふーっ、みんなは大丈夫かな?


 先頭のダインさんは旅慣れてるのだろう。ムダのない動きでひょいひょいと先へ進む。さすがだ!


 私の後ろにいるアキューちゃんは時々落ちてる石を拾い上げては、大きなカバンに詰め込んでいた。あの石は武器作りの役に立つのかな?


 最後尾にのルミーアさんは不安そうにリアナちゃんをフォローしている。そんな優しいルミーアさんの隣のリアナちゃんは、ガクガク震えてて真っ直ぐ歩けるのか怪しいけど、その状態で複雑な地形の森の中を躓かずに移動していた。すごい!


 誰も転ぶこともなく無事に予測地点に行けそうで安心した。

 更に森の奥へと進むこと数十分。いよいよ私たちは最前線に到着する。


 最初に負傷者を発見したのはダインさんだ。B班の冒険者とおぼしき男性が、大木にもたれ掛かって座っていた。


「おい大丈夫か!? 傷薬を……!」

「は、はい!」


 私は急いで駆け寄り負傷者さんの容態を調べる。

 あちこちに切り傷等あるが、1番酷いのは手で押さえているおなかだと思う。

 カバンから急いで傷薬を取り出しすぐに応急手当を始めた。


「はぁ、はぁ……いててっ、すまない助かる……あんたらは増援か?」

「ああそうだ、今の状況はどうなってる?」


 ダインさんの質問に、負傷した冒険者さんが苦しそうに答える。


「楽勝、とはいかなかったが……あらかたのモンスターは片付けた、あと残ってるのは、三つ星級が数体だけだが、こっちも負傷して動けねえ奴が多い……そいつらも早く助けてやってくれ」

「ああ、わかった」


 傷薬を塗った傷口に薬草を貼りつけ包帯をぐるぐる巻いて応急処置おしまい!

 シャルちゃんも無事か心配だから早く探したいけど、他のケガしてる人も早く見つけて手当をしなきゃ!


 ただ1人ずつ探すとなると時間がかかる。

 だから……!


「この森の精霊たちに協力を求めます!」

「そうだだだなな、たたたた頼むココこここここ」

「……さっきのあの子たちね。お願い貴方に任せるわ」


 厳密にはレルエネッグ東門で呼んだ精霊とはまったく別の精霊だけど、今は説明してる時間がないから2人に力強く頷いた。


 すー……はー……すー……はー……よし!

 深呼吸をして準備完了!


「森の精霊たち……私の声が聞こえるかな?」


 …………ひょこ。


 少し間をあけて、私の前に生えている大きな木の幹から、木の精霊がひょっこり顔を覗かせる。


「……こんにちは、呼びかけに応じてくれてありがとう!」


 木の精霊はうんうんと言うように頷く。

 良かった、話を聞いてくれそうだ!


「今、この森で起こっている戦いのせいで、ケガをしてしまって大変な人がたくさんいるの」


 ひょこひょこ、ひょこひょこひょこひょこ。


 私が話を始めると木の幹や枝からたくさんの精霊が出てきてくれた。その精霊たちにもお礼を言って話を続ける。


「ケガをしてしまった人たちを助けるために、この広い森の中でその人たちを見つけるお手伝いをしてほしいの」


 精霊たちはお互いの顔を見合わせてから、私を見てうんうんと頷いてくれた。


「……ありがとう!」


 力を貸してくれる精霊たちが早速動き始める。

 たくさんの精霊たちが枝に集まって、みんながそれぞれの枝の先にぶら下がった。そしてびょんびょんと枝を揺らしだす。


 ざわざわざわざわと木の葉が揺れる音が辺りに広がる。するとその音に応えるように、他の木からも精霊たちが出てきて、同じように枝を揺らしてざわざわと音を立てた。


 少しの間それが続いた後、周囲の木々の揺れは止まり、私たちの前の木だけが揺れ続けたままになった。


 木の精霊たちは枝を揺らしながら揃って同じ方向を指差す。


 その方向を見てみると木の葉がまだ揺れてる木があった。

 あっ、もしかしたらあの揺れてる木のところに負傷者がいるのかも!


 みんなも同じ答えに行き着いたみたいで一斉に走り出し揺れている木を目指す。

 そこには脚をケガして蹲ってる人がいた。

 やっぱりそうだ!


「動かないで、もう大丈夫よ」


 ルミーアさんが急いで応急処置にとりかかる。

 私たちはその間に次の揺れている木探す。


「あった……あそこ」


 今度はアキューちゃんが見つけた木の元へ急いだ。

 そこにいたのは――――。


「……! シャルちゃん!」

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