第2話 繋がりだす少女たち
冒険者になってから一週間が経った。
この一週間で請け負ったクエストは、薬草採取が二回に突進ウサギ退治が一回。
薬草採取は街から少し離れた場所に、たくさん生えていたから簡単に達成できたけど、突進ウサギ退治は失敗に終わった。
突進も早ければ逃げ足も早かった。やっつけるのには少しコツが必要そう。
なので突進ウサギ退治はまたの機会にする。
現在、冒険者ギルド新米用掲示板前には、私のほかに四人の冒険者がいる。
男の子が一人に女の子が三人。見た感じ彼等は同じパーティのようだ。
四人はどのクエストを請け負うか相談していた。
「今回の獲物はこいつらだ」
「レイ、そのモンスターはまだ私たちには早くない?」
「何言ってんだセニア。今日は守ってくれる騎士がいるんだから大丈夫だろ」
リーダーっぽい剣士の男の子と、魔法使いの女の子の会話が聞こえてくる。
騎士が守ってくれるなら、ちょっと強いモンスターもやっつけられそう。
一人ではできないクエストもできるから、仲間がいるのが羨ましい。
「アンタ、ちゃんとあたしらを守んなさいよ」
「わ、わかってる」
弓を持った背の低い女の子が、軽鎧の女の子に命令している。
この二人はあんまり仲が良くないんだろうか?
っと、見ず知らずの人たちを、あんまり詮索するのは良くないよね。
私も今日請け負うクエストを選ばなきゃ。
「出発は陽が落ちてすぐだ。それまで酒場で時間を潰そうぜ」
そう言って剣士の男の子がクエストカウンターに行き、女の子たちは地下にある酒場へ続く階段を下りて行った。
なんとなく彼等を見てしまっていたけど、今度こそ本当に決めないと。
たくさんある張り紙から一枚を選ぶ。
この選んでいる時もわくわくして楽しい。
よーし、今日はもう夕方だし、よまわりの花採取のクエストにしよう。
よまわりの花はレルエネッグ北の草原に生えているけど、夜じゃないと見つけるのが難しい変わった花なのだ。
あ、そうだ。今のうちに松明も用意しておこう。
夜まであんまり時間がないからね。
クエストカウンターで依頼を請け負い、最寄りの雑貨屋さんへ向かう。
冒険者ギルドからまっすぐ歩いて、五分ほどで目的の店に到着する。
比較的大きな雑貨屋さんで、冒険に役立つ道具の品揃えが良く、新米からベテランまで様々な冒険者が利用している。
外観は屋根が丸みを帯びていて独特な雰囲気。
ドアを開けて店内に入ると、至って普通のお店だったりする。
棚には傷薬にポーション、地図や包帯などいろいろな道具が並んでいる。
松明は二本あれば足りるかな。
棚に無造作に置かれている松明を取って、次は火を起こすための道具を探す。
「火打石はどこかなーっと」
松明が置いてあった棚の裏へ回ると、小柄な女の子とぶつかってしまった。
女の子は体勢を崩し、あまり感情のこもってない声を出した。
「あいた」
「わっとと、ごめんなさい!」
慌てて倒れそうになる女の子の腕を掴んで引っ張る。
なんとか体勢を立て直した女の子は、私の顔を見てぐっと親指を立てた。
「大丈夫」
「ほっ、良かったぁ」
多分年下の子にケガがなくて良かった。
きょろきょろしながら歩くのは危険だ。気を付けないとなぁ。
最後にもう一度謝ってからその女の子から離れた。
結局棚を一周ぐるっと回って松明の近くを探すと、さっきは気づかなかった火起こしセットなるものが置いてあった。
火が起こせれば問題ないのでセットをひとつ手に取る。
後はお会計を済ませれば、いつでも出発できる準備の完了だ。
お会計をしている時にさっきの女の子が目に入った。
彼女はぴくりとも動かず、鉄製のハンマーをじっと見つめていた。
一体何をしているんだろう。
あのハンマーに何かとんでもない秘密でもあるのかな。
「はい、おつりだよ」
「え、あ、ありがとうございます」
女の子が気になったけど、おつりと購入した道具を受け取り雑貨屋を後にする。
外に出ると辺りはもう暗くなっていた。
松明と火起こしセットを鞄に入れて歩き出す。
冒険者ギルドの酒場で夕食のパンを買ってから出発しよう。
来た道を通行人を避けて戻り冒険者ギルドへと急いだ。
冒険者ギルドの中は、冒険から帰ってきた冒険者たちで溢れていた。
報酬を受け取っている人や戦果を語りあっている人が目立つ。
みんなこれから地下の酒場で冒険の疲れを癒すのだろう。
そんな先輩冒険者たちの間を縫って地下へ降りていく。
夜が近いこともあり酒場は大盛り上がりだった。
ウェイトレスさんが両手に料理を持ってあっちこっち行き来し、冒険者たちが運ばれてきた料理やお酒を美味しそうに平らげていた。
その中でもひと際目立つ女の子がいた。
「うわぁ、すごい」
思わず声が出てしまったくらいにすごかった。
一人でテーブルに並べられた、たくさんの料理を豪快に食べている。
それもものすごく美味しそうに。
女の子はお皿を空にすると、手をあげてウェイトレスさんを呼ぶ。
「むしゃむしゃ……ごくん。すみません、おかわりお願いします!」
すでにテーブルの上には、お皿が重なっているのにまだ食べるみたいだ。
まじまじと見ていると、その女の子と目が合った。
しまった、怒られる? じっと見てるのは失礼だったかな。
彼女は私と目が合ったまま、骨付き肉に齧りつく。
しかしすぐに意識はお肉に向かったようだ。
女の子はむしゃむしゃと一生懸命お肉を食べている。
今のうちにパンを買って出発しよう。
さささっと酒場の奥のカウンターに行き、お店の人にパンを注文した。
お肉の女の子を見て私も食欲が湧いてきたので、大きめのパンにしてみた。
お金を払い受け取ったパンを鞄に入れて、いよいよ出発だ。
外に出ると大通りを北へ向かって歩いていく。
さすがにもう夜なので酒場や、食堂以外のお店は店じまいの時間。
片付けをしているお店の人を横目に夜の道を進む。
そこそこ長い時間を歩いて、ようやく北門が近づいてきた。
この街は壁に覆われているので、外へ出るには門を抜けなければいけない。
少し前までの私だと街の衛兵さんは、外には出してくれなかっただろう。
街の外は守ってくれる人がいなくなるからそれも当然だ。
それどころか街の中にも時々モンスターは現れるから、夜に出歩いていると危険だから帰りなさいと注意されたりする。
でも、今はもう違う!
冒険者となった私は、私には!
北門の見張りをしている衛兵さんに近づいていく。
するとやっぱり衛兵さんに止められた。
「おっと、もう夜だから街の外は、昼間よりもっと危険だ。通すわけには……」
「冒険者です、夜のクエストに行ってきます!」
そう今の私は冒険者なのである!
だからこうしてギルドカードを見せると、衛兵さんは道を開けてくれるのだ。
ふっふっふ。これが冒険者の力!
「冒険者なのか。ご苦労さん、気を付けていってらっしゃい」
「はい、いってきます!」
堂々と北門からレルエネッグの街の外へ。
壁の外に広がる世界は街の中とは違い暗かった。
早速鞄から松明を取り出して門の脇のかがり火で付ける。
ぼうっと明かるい炎の光が辺りを照らしてくれた。
これで夜道も安心だ。
それじゃあ、よまわりの花を探しに行くぞー。
両脇を気にしながら街道を歩いてみる。
草や小さな花は咲いているけど、これじゃないなぁ。
やっぱり街道から外れて探さないと見つからないかも。
モンスターと遭遇しやすくなるけど仕方ない。
松明の火を恐れて近づいてこないことを祈ろう。
街道を外れて草が生い茂る草原へ足を踏み入れる。
よまわりの花が咲いていないか周囲を注意深く見て歩く。
時々がさがさと草が揺れる音にビクビクしながら進んだ。。
気付いた頃にはレルエネッグ北門から、随分離れた位置まで来ていた。
幸いモンスターとは遭ってないけど、怖いことには変わりない。
早くよまわりの花を採取して帰りたいなぁ。
そんな時だった。草と草の間に光るものを見つけたのは。
近づいてよーく確認してみる。
そこには青い花びらが淡く光っている、小さなひまわりが咲いていた。
あった、間違いないこれがよまわりの花だぁ!
見た目はどう見てもミニサイズのひまわりの花だ。
夜のひまわりだから、よまわりなのである。
早速根っこごと引き抜く。ぶちぶちっと。
でもひとつじゃ足りないからもう少し探さないとなぁ。
辺りをよーく見てみると淡い光が点々としていた。
松明の光のせいで見つけにくかったのかな?
意外とたくさん生えてた。
片手で大変だけど一輪ずつ引っこ抜いていく。
ある程度集まったら冒険者ギルドで受け取った袋に入れる。
よしよし、これだけあれば大丈夫だと思う。
よまわりの花が入った袋を鞄に入れて終了。
後は冒険者ギルドに届けるだけだ。
でもその前に月を見ながらパンを食べよう!
街の外が危険なのは百も承知だけど、外で食べると美味しいのだ。
その場に座って鞄からパンを取り出す。
松明は草が燃えないように土の上に置いておいた。
さてさて、では少し遅い夕食をいただきまーす。
大きくぱくっと口に含む。
もぐもぐ。
冒険者ギルドの酒場で見かけた女の子みたいに、豪快には食べられないなぁ。
でも美味しいので良し!
月も星も綺麗だし外で食べて正解だった。
もぐもぐと大きめのパンを半分ほど食べた頃、遠くから光が近づいてくるのに気が付いた。
私の他にも夜のクエストを受けてる人がいるのかな?
光は段々近づきそれが松明の炎であるとわかる。
それに人数は三人。大きな声で話しながら走ってきた。
「ちくしょう、なんだよあの騎士ふざけやがって!」
「ねぇ、あたしらだけで逃げてきて良かったの?」
「しょうがねぇだろ、しんがりを務めるのも騎士の役目だ!」
「とにかく冒険者ギルドに救援を頼むしかないわ!」
あれ、あの人たちさっき冒険者ギルドで見かけたパーティの。
でもさっきより一人足りない。あ、騎士の女の子がいないんだ。
それに随分慌てているようだ。何かあったんだろうか。
私に気が付いた彼らは一瞬立ち止まったけど、すぐに街のほうへ走っていった。
もぐもぐ。
彼らが走ってきたほうに視線を移す。
騎士の女の子はどこにいったのかな。ちょっと気になる。
パンを食べ終わったら少し見に行ってみようかな。
終わりそうだった今日の冒険は、ちょっとしたきっかけでまだ続くのだった。
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