Lilly7. 冒険者ギルドへ

「見えてきました、あれがプロリリです」

「イルヴェーナ程じゃないけど大きい街だね~」


 イルヴェーナからひたすら歩き続けて私たちはついにプロリリに到着した。リリナシア領内では街の入り口での身分照会も指名手配されているかどうかを調べるだけので私たちでも普通に入ることができる。わざわざバッグの中に潜む必要がないというのはとてもありがたい。


 街の中はミオさんが感嘆の声を上げたように、大きな賑わいを見せていた。このプロリリという街はリリナシア領内の北部では一番発展しているという。実際、街にはイルヴェーナのように様々な店が軒を連ねており、人々の中にも活気が感じ取られた。

 

「まずは冒険者としての登録を済ませましょう。登録しておけばギルドが宿泊費の一部を援助してくださるんですよ」

「太っ腹」


 エルフィナさんはプロリリに来たことがあるようなので、黙って後ろをついていく。街の中心部に冒険者ギルドが存在し、そこにエルフィナさんは迷いなく入っていった。なんというか、エルフィナさんがいつもよりも頼りがいがあるように見える。普段のおどおどした感じがここ最近は陰りを見せていて、徐々にエルフィナさん自身の感情が見えてくるような、そんな気がしてきた。


「冒険者ギルドへようこそ……ってエルフィナお姉さん!?」


 ギルドの受付にいるサイドテールのお姉さんがエルフィナさんを見て驚嘆の声を上げている。青みがかった白色の髪の毛をくゆらせながら、紅い宝石のような瞳をまじまじと見開いている様を見ると、どうやらエルフィナさんのことを知っているようだ。一方のエルフィナさんは少し不思議そうな顔をしていたが、受付のお姉さんの顔をまじまじと見つめると、何かに気付いたように声を上げた。

 

「エルフィナさん、知り合い?」

「はい。お師匠様の娘さんです……というか私のことよく覚えていましたね」

「そりゃもう! だってあの時と全然変わってないですもん! ねぇギルマス~! ちょっとここ空けていいかな~?」


 受付での騒ぎを見かねてか、すごくいかついおじいさんが現れた。顔だけ見れば普通のご老人に見える。だが、明らかに鍛えられた胸や腕を見るとそれは侮ってはいけないと警鐘が鳴らされた。


「おやおや……これはリュミエラ様のお弟子さんの……なんと言いましたか」

「エルフィナさん! ほら、あのエルフの!」

「そうそうエルフィナでしたな。あの時と変わらずお美しいままで」

「あ、ありがとうございます……」


 エルフィナさんがペコペコ頭を下げる。ギルドマスターと思しき老人が笑いながらエルフィナさんに屈託ない笑顔を見せた。しかし受付のお姉さんがサポートしているところを見るとお孫さんにしか見えない。

 

「ほっほっほ、老いぼれになったわしのことなど覚えてなどいないでしょうが……かつてはリュミエラ様の片腕としてエルフィナを鍛えていたのですよ……今はしがないギルドのマスターとして茶をくゆらせる日々ですが」

「ええっ!? エルド様……なのですか?」

「ほほっ、物覚えがいいですねエルフィナ。ここではなんですから場所を変えて話をしましょう。そこのお連れ様も一緒にどうぞ」


 かくして私たちはギルドの別室に通されることになった。もしかしてエルフィナさんが冒険者になりたくない理由ってこれだったり……? いやでもエルフィナさんの反応を見るにそれはあり得ない。単にプロリリという街に長居したくなかっただけなのかもしれないが。


 私とエルフィナさんが椅子に座る形になり、ミオさんがエルフィナさんを、アーシャ姉が私を守るような形で側に立っている。出されたお茶を軽く口に運ぶと、芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。ユーヒ村や勇者さまと飲んだお茶と比較しても、とてもいいお茶だ。


「改めて……わしはエルド・ヒュミエール。冒険者ギルドプロリリ支部のマスターをしている老いぼれですよ」

「そんでアタシがミュゼカ・ヒュミエール、このギルドの職員だよ」

「ヒュミーエルということはつまりミュゼカさんとエルドさんは」

「うん、ギルマスはアタシのパパなんだ!」


 そう胸を張るミュゼカさんと、少し恥ずかしそうな顔をしているエルドさん。エルドさんはもう結構な年をいっている割にまだまだ元気といった感じで。笑っている様子を見ている限りまだまだ前線に立っていそうな、そんな威圧感すら覚えた。というかお父さんなんだ、ぱっと見お爺ちゃんとそのお孫さんにしか見えなかった。


「こちらも自己紹介をすべきですね。私がアーシャ・ユーヒ、今は分け合って宣教師まがいのことをしていますがただのしがないシスターです。それで向かいで立っているのが」

「ミオ・グリャラシカ。イルヴェーナ出身の鍛冶屋だよ。で、そこに座ってる可愛いのが」

「あっ、アルセーナ・ユーヒです」


 名字をつけて名前を名乗るというのは久々だ。勇者さまと冒険していた時もそんな局面に差し迫ったことはほとんどなかったと記憶している。だが、その名前を口走った瞬間に二人の表情が急に険しくなってしまった。


「ねぇギルマス、これヤバいって」

「……ミュゼカ、リュミエラ様と得体の知れない紙切れ、お前はどちらを信じる?」

「もちろんママに決まってるよ!」

「あ、あの……エルド様、ミュゼカちゃん、どうされましたか……?」


 明らかに不穏な空気だ。……まさか既にリリナシアにもプトレの魔の手が差し迫っているの? でもリリナシアとプトレは対立関係にあったはず。そこで魔の手が伸びるというのは少々考えにくいのでは? 頭の中で諮詢するが、私の知能ではこれ以上の結論を導き出すことができない。そんな中でエルドさんが言い放った一言が私たちを驚愕させた。


「アーシャさん、アルセーナさん。これは落ち着いて聞いてほしいのだが……君たちは全世界の冒険者から狙われている」

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