向こうのほう
三河
第1話 5月12日 前田の涙
外を走る救急車のサイレンが遠ざかっていく。窓に打ち付ける雨が騒々しい。
車でも借りて、どこかへいきたい。
運転免許を取得して以来一度も車を運転したことがない。これから一生運転しないのかもしれない。都心ではないが電車に乗ればどこへでも行けるところに住んでるのがいけないのだろうか。いや、住んでいる場所のせいにするのは違う。そもそも自動車の運転が向いてないのだ。対向車とすれ違う度に恐怖で冷や汗が出る。電車に乗ってのんびりと目的地に向かう方がずっと楽しい。流れる景色を見ながら舞と……。
吐き気と涙が同時にこみあげてくる。三日前、舞に振られた。耐えられないから違うこと考えようとするのに舞の笑った顔が浮かび、付き合ってるときにはしなかった妄想が頭の中に浮かんでは脳を支配し自分を締め付ける。湿っては乾き、また湿る目の周りが痛い。
消えてしまえ
自分に向けた言葉なのか舞に向けた言葉なのか分からない。ただ、すべてに消えてほしかった。だが言葉にしてみるとかなり幼稚で馬鹿馬鹿しくも感じる。外ではまたサイレンが鳴っている。腫れた瞼をまた濡らしながら眠りにつくと、夢に舞が出てきた。飛び起きトイレに駆け込み便器に頭を突っ込む。出るのは唾液だけだというのに、胃の痙攣がなかなか収まらない。
救いが欲しい
前田は漠然と救いを求め、疲れ果てて、また眠りにつく。
雨はもう止んでいた。
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