終章 サステナビリティ③

 もう何ターン目かも数えられていない。しかしながら、魔王のバリアが消滅してからは絶望的は戦いではなかった。互角に渡り合っていたと思う。運び屋とクォーダを中心に攻撃を組み立て、蓑口さんと俺も魔法で援護、クルルが回復を担当した。ちなみにクルルの回復魔法への信頼感は数ターンで全幅となった。言葉が通じるのであれば魔法をご教授願いたい所だ。クルルに背中を任せ、着々と魔王にダメージを与えていく。ステータスを総合的に見れば俺達の方が強い。人数の差と指摘されれば反論できないが、強大な敵に力を合わせて立ち向かうのがお決まりである。ただ、魔王のヒットポイントが圧倒的に高い。加えてクルル程に高性能ではないにしろ、回復魔法も唱えてくる(ラスボスは回復魔法を使わないというのが暗黙のお約束なのに)。長期戦を超えてキリがない、永遠にラストバトルが続くのではないかと思われた。


 まずはクルルのマジックポイントが尽きた。

「ありがとう。お疲れ様。」

そう言って蓑口さんがクルルを元の世界?へ送り出した。本当に助かった。攻撃主体の幻獣もいいが、俺達みたいなパーティーには回復に特化したクルルの様な幻獣の方が適していたかもしれない。さて、ここからは俺も回復に気を配らなくてはなるまい。さらに喰らうダメージも抑えないと回復が間に合わなくなるので、補助魔法も必要となるだろう。そうするとマジックポイントの消費量が急激に増える。アイテムも使い切ってしまった。参ったな、やはりクルルの離脱は痛い。魔王のヒットポイントがゼロになるか、俺達の打つ手が無くなるか、我慢比べだ。魔王だって見るからに困憊(こんぱい)して、肩で息をしているのだ。向こうも余力は認められない。

 「やれやれ・・・」

ふと一呼吸を置いたのは魔王。

「この技はひどく疲れるのであまり気が進まないのだが・・・認めねばなるまいか、伝説人を。仕方あるまいて―」

さらっと誉め言葉を吐いた魔王は唯一の武器であり、魔力の増幅装置である杖をへし折った。

「!?」

折れた箇所から現れた黒い煙がす~っと俺達を撫でてすぐに消えてしまった。別段、身体に異常は認められず。何の問題も見受けられなかった。俺と蓑口さんは―


 特技を封じる特技がある。そんな話をしていたのは運び屋だったか、酒場の店主だったか。魔王さんの言うことにゃ、効果はこの戦闘が終わるまで継続するそうだ。言うまでもなく勇者と戦士の勢いは大きく削がれた。攻撃に派手さが無くなり、与えるダメージも半減してしまった。一方で魔王の魔法攻撃も明らかに威力が落ちていた。杖がないのだから当然なのだが、そこまでしても運び屋とクォーダの特技を封じたかったのか。魔王に認められし剣士。

 覚えておくといい。いつだって、絶望は突然訪れる。俺と蓑口さんがマジックポイントを使い果たした。そして、運び屋とクォーダの武器が使い物にならなくなった。耐久値―俺の作ったシステム、ルールが、伝説人を殺すのだ。

 秘策も奥の手も、切り札もジョーカーもない。残された策はなし。俺の手元には何も・・・一応、バカ高いルナを払って買った弓矢があるが、攻撃力は中の下。ぼったくられたんじゃねぇのかというクォーダの指摘を受け、結局使わず仕舞い。1度くらい射ってみるか、ダメ元で。

 矢を放ったはいいが、武器の修練を積んでいないからこうなる。確かに魔王を狙った俺の一矢は、天井へ報いてしまった。天を仰ぐ。が、その天井に転送陣が描かれた。咄嗟に浮かんだ可能性は2つ。何かが来るか、俺達の逃げ道か。

 しばらくの沈黙。しばしの様子見。互いに好き放題暴れていたダンジョンが静寂に包まれた。誰も何も分からない。やがて痺れを切らせたクォーダが俺に問う。

「おい、ありゃ何だ。何か召喚するのか?」

「さ、さぁ・・・・・・」

「さぁってお前、お前が作った転送陣だろうがよ。」

「そんなこと言われても、俺にも分かりませんよ。この武器、使ったのも初めてですし―」

「!!!」

 痺れを切らせたのは魔王も同じだった。魔王の全体攻撃。4人仲良く吹き飛ばされてしまったが、敵さんもマジックポイントが尽きたのか、今のは魔法ではない。体感としては強風に煽られた程度。大したダメージにはならないが、もう腰を上げるのもしんどい。このまま横になっていたい。もう俺達に武器がない。悔しいが撤退も考えなくてはならない―その時だった。天井の転送陣が青に緑に光り出した、何か来る。打ったのは俺だが責任は取れない。何が出てきても俺は知らんぞ。そして残念なことに、こんな転送陣が最後の望みなんだよな。

                     【終章 サステナビリティ③ 終】

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