あいつが勇者で俺の職業(ジョブ)が道具屋だと
遥風 悠
あらすじ
<あらすじ>
勇者ではなく、戦士でも魔法使いでもなかった。俺の職業(ジョブ)は道具屋。何も分からぬまま、まずは『薬草』を売り始めた。客は勇者であり、その仲間達。小売経験のない俺ではあったが船出はまずまず。順調な滑り出しだったと思う。取り扱うアイテムの中で最も基本的かつ最安値の商品だから儲けは少額だったが、確実に売れるというのは有難い。来客に困ることなく、買っていくものも分かる。冒険者のパーティーで言えばレベル1ということもあるが、何の苦もなく道具や生活に馴染むことができた。原価で商品を購入し、売価で商品を販売する。売価と原価の差額が俺の利益となる。その仕組みを体験するというのが初めの店舗の目的であった。
俺の道具屋としてのレベルアップは別の村や町に新たな店を構えることだった。やることは変わらない、薬草なりなんなりを売っていればいいのだろう、そう思っていた。けれどもそれは甘かった。勇者御一行も回復魔法を覚えることで、薬草に頼る必要がなくなってきたのだ。毒消し草も然り。解毒魔法をマスターしてしまえば用はない。道具を使うパーティーがどんどん減少していった。
対してこちらは店舗数を増やし、取り扱うアイテムの幅を広げることで対応する。道具に加え、防具や武器の販売を始めた。言うまでもなく薬草云々とは売価がまるで異なる。ゼロがひとつ、ふたつ、みっつ・・・このおかげで収入を大幅に増やすことができた。勇者と比較してしまうと地味ではあるが、道具屋なりのレベルアップだった。攻撃力が上がったり魔法を覚えるわけではないが、文句など言えようはずもない。経営が再び軌道に乗り、生活に余裕ができ、娯楽施設だって利用できてしまうのだから。ちょっと寄り道というか息抜きも必要で、一時カジノにハマってしまった。勝ったり負けたりを繰り返している内に、ひょんなことから結婚までしてしまうのだから、人生分からない。
商売人たる者、情報収集は基本中の基本。買い物に来る客との会話はもちろん、町を征く人々、寝泊りする宿屋の店主に、酒場。ある日俺は、友人の情報を入手した。そいつの職業はおそらく勇者。世界を魔王の魔の手から救うべく日々戦っているはずだ。道具屋、そして武器、防具屋を営みながら日々探してはいるのだが、どうにも見つからなかった。出会う機会に恵まれなかった。冒険者にとって薬草は必需品。道具屋を営んでいれば必ず再開できると思っていたが、そうでもないらしい。アイテムに頼らぬ縛りプレイなるものに取り憑かれた強者も時折いるらしい。けれども丸腰の勇者というのは聞いたことがない。この頃になると俺の目的は友人との後会ということになっていた。その時には恥ずかしくない姿で、店売り最強の剣と鎧を引っさげて。
伝説の鍛冶屋から武器を仕入れるようになっても、友人は現れなかった。個人的には2人の子宝に恵まれ、経営も順調。心配事といえば別れた友人のことだけ。勇者でもないのに魔王に関する情報収集を行う日々。そこで手に入れた確かな筋の話。友人は生きている、けれども、勇者ではない。残念ながら再会の夢は諦めた方が良いという助言もあった。
大魔王の城に最も近い村。勇者達が最後に訪れる牙城、ベースキャンプ。ということは、道具屋の俺にとっても結びの店舗。ここで俺は、いわゆる尖ったアイテムを発注できるようになった。相応のリスク、条件を満たせば、あとは道具屋のアイデア次第、冒険者の要望次第。真実を確かめるべく、俺自身が旅立つことはできない。だから勇者へ依頼するのだ。こちらの武器はレアリティの高いアイテム。主導権を握ることができるのは俺。まさか俺が、勇者一向にイベントを与える側になるとはな・・・
【あらすじ 終】
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