記憶と夢の話

とりすけ

第1話 着物の女の子

 季節は初夏に入ったばかりの頃。天気のいい午前中のことでした。

一人っ子だった5歳の私は、与えられた自分の部屋で静かにままごとをして遊んでいました。

 兄弟を欲しいと思った事は何度もありましたが、その願いは叶うことは無く。今日みたいに友達と遊べない日は、縫いぐるみ達が遊び相手でした。


 どれくらい遊んでいたでしょうか。少し小腹が空いてきたな、と思い始めた頃、気が付くとまりが近くに転がっていました。

(なんで、鞠がここに?)

昭和と平成の狭間はざまに生まれた私です。鞠で遊んだ事も、ましてや鞠をプレゼントされた事もありません。でも、この鞠には見覚えがありました。仏壇に飾られている鞠です。

でも、子ども部屋と仏間とは一部屋分距離があったし、転がってきた方向も不自然でした。

鞠から少し顔を上げると、いつの間にかおかっぱ頭で赤い着物を着た女の子が立っていました。

「一緒に遊ぼう?」

 知らない女の子が家に突然現れたのにもかかわらず、私は違和感を覚えることなくその子からの誘いを受けました。

 二人は植えられた稲がさわさわと揺れるあぜ道を駆けっこし、息が切れたら田んぼのオタマジャクシを眺めました。おやつ代わりにヒメオドリコソウの蜜を吸って元気を回復し、四葉のクローバー探しに飽きてシロツメクサでかんむりを作って遊びました。

 いつも友達としていることですが、それでも楽しく、時間はあっという間に過ぎました。


 気が付くと私は自分の部屋で眠っていました。そして台所からは昼食が出来たから来るようにという母の声が聞こえました。

(???)

 確かに私は遊んでいた。その証拠に、体には軽い疲労感が残っている。でも一緒に遊んでいた子の顔がどうしても思い出せませんでした。

 狐につままれたような気持ちで母にこの事を話しました。

「座敷童かな?それか、伯母おばさんかもね。」

 父には四人の姉が居ますが、そのうちの長女は幼くして亡くなったそうです。もしかしたら、独りで遊んでいる私に同情して遊んでくれたのかもしれないね、と母は言いました。

 私は仏壇を見ました。子供部屋に転がっていたはずの鞠は、いつもと変わらず仏壇の向かって左側に飾られていました。

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