始まりより前に

…つまり結果的には、手を繋ぐ形になった…のだが。


「あ!?」


唐突なことで、まともに声も出なかった私に、先程からの私の言動の挙動不審さに、笑いを堪えていたらしいカミュは、ついに我慢できずに吹き出した。


「…た、たかがこの程度で、その反応か…

面白いな、お前」

「どこが面白いのよ!?」


私のプチ怒りが噴出したが、彼は楽しさを隠すこともなく、しれっとして続ける。


「血が足りない割には、別な所で有り余っているようだからな」

「!な…、そういうカミュだって、それだけの口が叩けるんなら、あたしの血なんか要らなかったんじゃないの!?」

「…お前の血の影響だとは、塵ほども考えないわけか?」

「…あ、そう…、そりゃすいませんでした…」


って、何で私が謝ってるんだろ。

何だか理不尽な気もするけど…


「…とにかく、カミュ。それはあたしの血のせいってことでいいから、早く家に帰らない?」

「…そうだな。だんだんと暗くもなってきたようだ…

今日は、満月か」


呟いたカミュは、静かに天を仰いだ。

夜の空気を含んだ風が、彼の銀髪を軽く撫でていく。


月の光に照らされたその髪は、まるでその光を得たかのように、きらきらと輝いている。


(…き、綺麗…!)


…そう。

今の彼に合うのは、紛れもなく、その一言。

その人間離れした美しい容貌は、もはや…


(って、多分…人間じゃないんだっけ…)


(…でも…)


確信できたことが、ひとつだけあった。

それは…


(やっぱり、普通の人間ひとよりも…、すごく綺麗…!)


それを認めた時。

…心の中で、また、何かが疼く。


「…どうした、唯香。帰るんだろう?」

「!えっ…、う、うん!」


…彼に促されて、私の考えは鳴りを潜めた。



…今はいい。

今は彼が、人間でも、そうでなくても構わない。


そんな事はどうでもいい。


例え成り行きでも、カミュが居てくれる。

傍にいて、自分を気遣ってくれている。


…“今の自分”には、それだけで…

名を呼んで貰えるだけで充分だ。


…そしてそれが、“今の自分”の存在意義。



「…唯香!」


彼が、私の名を呼ぶ。

私は嬉しくなって、それに応える。


「うん、今行く!」






…こうして、私はカミュと出会った。


ごくありふれた日常の中で…

道端に落ちていたのは、何と、“美麗なイケメン吸血鬼”。


…なんて、そう言ってしまえば聞こえはいい。

けれど、この状態はまさしく、女の子なら誰でも一度は羨み憧れるであろう、“あれ”。

以降の交流・恋愛フラグと呼ばれるものが、確定で容易に立ちまくる──

まさに絶好の、“乙女ゲームさながらシチュエーション”。


なおかつ、この流れなら、ここから非日常的な現実を、嫌というほど見せつけられて、そのたびに一喜一憂・喜怒哀楽することになるんだろうけれど…



…生憎と、実際に相手をするのは、見目と性格が反比例し、更に一癖も二癖もある…

ある意味、人間より人間らしい“ヒト”。



相手をするには結構手強いだろうけど、でも…それなりにでも優しくて、理解も多分…まぁそこそこにある…と、思う…、いや、そう思いたい──

…、うん。

こんなヒトと一緒にいるのも、悪くないよね?



…自分でも気付かないうちに、口元に期待の笑みを浮かべながら、そんなことを考えつつ…

私とカミュは、二人揃って帰路についた。





→TO BE CONTINUED…

NEXT:†迫り来る闇†

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