暁の旅団
ふぃふてぃ
前編 月光
残業、残業、また残業。
辛く長い一日の最後の祝福は、半額シールの貼られた餃子弁当と、ビールまがいの発泡酒。
テレビのバラエティーに顔をほころばせるも、次には焦燥感と孤独感に苛まれ、溜息と共に独り言が溢れる。
「明日も早い。寝ないと」
形無き者に催促され、残る気力でシャワーを浴び、布団へと潜り込む。先走る気持ちが寝付きを悪くする。
寝なくては、寝なくては、
気持ちだけが焦っていく。
時計の秒針が息苦しい。
外ではカタカタと風が強い。
この時、朝から取り込まれることのなかった洗濯物の存在に気付く。
明日でもいいだろうと思いながらも、気になって仕方がない。
五分後、あっさりと諦める。
ベランダへと足を運んだ。
深々と降り積もる虚構の闇に、揺れる洗濯物、箒、黒猫!
目の前の摩訶不思議な光景に瞳を見開いた。眼前には箒にふよふよと浮かぶ黒猫の姿。
「ナー!」と僕に一瞥。
闇夜を削る黒猫の遠吠え。
僕は無意識に揺れる箒にまたがった。
吹き荒れる風も何のその。箒は光を帯びて飛び出す。
箒の先、黒猫はまっすぐ前だけを見据えている。揺れる箒の先端にも微動だにせず、凛々しく立っている。
箒は黒く分厚い雲を抜ける。目先には大きく丸い月が浮かんでいた。
月夜。眼下には、天駆ける大きな箱舟。
脇から這い出たオールが雲を混ぜ込むように漕ぎ、風を受け進む偉大なる
一人と一匹は甲板に降り立った。
黒猫はふわりと箒から飛び降り「ナー」と一言、目の前の華奢な少女の肩まで這い上がる。
黒のローブの少女が、ふわりとローブの裾を持ち上げた。
「ようこそ、わが旅団。
「あの、これは夢なのでしょうか?」
「
夜空の星々が煌々と輝きを増す。
時を経た甲板に繁殖する
「ゲハハハッ!おいでなすったな旅人よ。宴だーーー!」
突然あらわれた偉丈夫が、豪快に口笛をならすと、宙船を囲むように、暗く厚い雲から黒イルカの群れがはぜる。
ぬるっと現れた白鯨が光あふれる潮を吹くと、シャンパーニュの星空のように、きらびやかな星屑が甲板に降り注いだ。
「では、お手を」
差し出された左手に右手を添える。
黒いローブの少女がとがり帽を深々とかぶり直し、右手で、枝のような光あふれるステッキを、どこからともなく取り出すと、くるくる回して、その輝きを振りかけた。
着ていた寝間着がスーツに化ける。いつもの息苦しい自分を偽るためのスーツとは違った、何処か落ち着く、それでいて背筋を伸ばせる、等身大の衣装。
「さぁ、グラスを掲げて」
華奢な少女に言われるがまま、グラスを受け取り、天に掲げる。
グラスがシャンパーニュの星々で満たされていく。
「Shall We ダンス?」
「Sure、喜んで」
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