第4章 7 ナッツさんの正体

 やがて二頭立ての馬車が街の中心部にあるパークに設けられたパレード会場に到着した。ここはナッツさんとデートをしたパークだった。


「さあ、降りようか。」


御者が馬車の扉を開けるとナッツさんは右手を差し出してきた。


「は、はい・・・。」


すっかり緊張していた私は震えながらナッツさんの右手に左手を乗せると、その手をしっかり握りしめられ、途端に私の胸が大きく高鳴る。

ナッツさんのエスコートで馬車から降りた私は目の前に飛び込んできた光景に驚いてしまった。なんと私の眼前にはレッドカーペットが敷かれ、両脇には豪華な衣装に身を包んだ男性と女性達がずらりと並び、カーペットの先には立派な椅子が2脚用意されていたのだから。


「あ、あの・・・ナ・ナッツさん・・・こ、これは・・・?」


顔を引きつらせて私はナッツさんを見るも、彼はにっこり笑みを浮かべると言った。


「さ、行こうか?」


そして手を引いて歩き出す。


「え?え?」


もう私は何が起こっているのか分からず、すっかりパニックになっていた。人々は歩く私たちをじっと凝視している。

やがて席に着くとナッツさんは私を見た。


「さあ、座ろう。」


そしてナッツさんは席に着いたので、私もぎこちない動きで隣の席に座るとたちまち人々は拍手を始めた。

そして司会者?らしき燕尾服を着た若い男性が現れると声を張り上げて話し出した。


「御集りの皆様、大変長らくお待たせいたしました。これより、わが国『シエロ』が誕生して400年目を迎えました記念式典を開催したいと思います。本日は特別席を設けまして、初代建国者の正当な血を受け継ぐブルックリン家の第一皇子リチャード・ブルックリン様をご招待させて頂きました。どうぞ、もう一度盛大なる拍手でお迎え下さい!」


すると集まった人々は再び一斉に拍手を始めた。


ええ~っ!!!

私は司会者?の話に仰天し、思わずナッツさん・・・もとい、リチャード皇子を見た。しかし、リチャード皇子は私の視線に気づいているのか、いないのか・・ニコニコと手を振っているだけだった―。


そしてその後はリチャード皇子と会話をする間もなく、人々が一斉に周りに集まり私たちはあっという間に取り囲まれ・・私たちの関係を問い詰められる事態となった。パニック状態の私はまともに返事を返すことも出来ず、受け答えはずっとリチャード皇子が1人で対応してくれた。

やがて・・・気づけば私はリチャード皇子の婚約者候補にされていたのだった―。



****


ボーン!ボーン!


夜空には美しい打ち上げ花火が上がっている。私はリチャード皇子に誘われるまま、パレード会場を抜け出し、パークの高台にある丘の上に座り、花火を見上げていた。

私はいまだに自分の身に起きた出来事が信じられず、すっかり言葉を無くしていたし、リチャード皇子も無言で花火を見つめていたけれども・・・。


「ごめんね。驚いただろう。」


「え?」


突然リチャード皇子が話しかけてきた。


「ええ・・それはもう驚きましたよ。まさか・・・ナッツさんが・・・皇子様だったとなんて・・。でもどうして・・屋台なんかやっていたんですか?」


「うん・・・あれはこの国で暮らす人々がどんな暮らしをしているかをこの目で確認する為に屋台をやっていたんだ。すぐにやめる予定だったんだけど・・屋台の仕事が思った以上に楽しくなって・・・城の人々に無理を言って午前中だけ屋台売りをさせてもらっていたんだ。でも・・以外に王族の人間て・・ばれないものだね?」


リチャード皇子は笑みを浮かべた。


「そうですね・・・私も気づきませんでした・・というか、顔も知りませんでしたから・・・。」


「・・・。」


リチャード皇子は黙って私を見つめると口を開いた―。

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