第1章 2 頭の中で聞こえる謎の声

「どうも状況からすると、私は貴女を引っぱたいてしまったみたいなので、これに関しては謝らせて貰うわ。ごめんなさい。」


だけど・・!私はグイッとさらにネクタイを引っ張って怯える美少女を自分の方へ引き寄せた。


「ヒッ!」


「でも・・貴女はどうやら大事なブローチを無理矢理奪ったんじゃないの?『そんなに大事なものなら返してやるわよ!』なんて言う位だから。しかも『いつもなら辛気臭い顔をしてしっぽ巻いて逃げ出す癖に』なんて事も言ってたわよね?」


そして私はパッと手を放すと、少女は無様に地面にしりもちをつく。


「ひ、酷い・・・私にこんな事をするなんて・・・。」


途端に美少女の目に涙が浮かぶが・・・それすら私には演技に思えてならない。だって何となくこの美少女の言動が妹の唯に似てるんだもの。


その時―


キーンコーンカーンコーン


チャイムの音が鳴り響く。うん・・・何だかこのメロディ・・懐かしい。聞き覚えがある。そう、このメロディは学校のチャイムの音・・。


「あ・・・もうすぐ授業が始まっちゃうわ。」


美少女は立ち上がると私を見た。


「パストリスも早く教室へ戻った方がいいわよ。最も・・・貴女みたいに落ちこぼれの生徒が授業をうけても何の意味も無いと思うけどね?」  


美少女は何や意味不明な事を言う。この私が落ちこぼれ?いや、そもそも私はその授業とやらに出るつもりはないのだけれど・・・。


「ご忠告ありがとう、でも・・・私授業に出る気は無いの。」


すると美少女は目を見開いた。


「どうやらさっきから様子がおかしいわね・・パストリス。貴女逃げられると思っているの?成績だって自分がどれだけ悪いのか理解している?この上授業をさぼったら間違いなく留年確実よ。」


へ・・?留年?夢にしては随分とリアルすぎる・・。だけど、この私が留年などするはずがない。何せ私は自他ともに認める優秀な人間なのだ。中・高と生徒会長を務め、大学だって国立の難関校を合格してる。双子の弟妹だって一流校に通っているのは全て私が2人に必死で勉強を教えてきた証なのだから!留年なんて私のプライドが許さない。


「それにしても・・・酷いじゃない!さっき貴女が私のネクタイを掴んでいきなり手を放すものだから・・しりもちをついて制服が汚れてしまったでしょう?!」


美少女は袖が汚れたジャケットを私の前に着きだしてきた、その時―。


「セレナーッ!」


こちらに真っ白なジャケットに紺色のズボンのおそらく男子学生?らしき人物が駆け寄ってきた。おおっ!なんという美少年!栗毛色の髪に青い瞳の少年・・・。まるでハリウッドスターのようないで立ちだ。


「あ!ジョバンニッ!」


すると目の前の美少女が顔を赤らめる。


《 ジョバンニッ?! 》


へ?

何・・・今、頭の中で声が聞こえたんですけど?!するとその声は私の考えに反応したのだろうか?


《 し、しまったっ?! 》


え?ちょっと!あなた誰よっ?!何で私の頭の中で話しているのよ?!


《 ・・・・。 》


しかし、それきり頭の中の声はだんまりを決め込んだのか、それともどこかへ消えてしまったのか、全くの無反応だ。私が謎の声の人物に必死で語りかけている間に私と美少女の前に駆けつけてきた、おそらくジョバンニ?という名前の少年はセレナと呼んだ美少女の両手を握りしめた。


「大丈夫だったかい?セレナ。またロザリアにやられたのかい?」


そして何故かこちらをじろりと見る。


「・・・。」


私は先程からセレナに『パストリス』と呼ばれており、『ロザリア』と呼ばれたことがない。あ・・・それとも『パストリス』はラストネームなのかな?それにしても目の間にいるこの少年・・・名名前が『ジョバンニ』だなんて、まるで『銀河鉄道の夜』に出てくる名前と一緒だなんて・・

すると、少年は再び私に言った。しかも指までさしてっ!


「おい、聞いてるのか?ロザリオ・ハリスンッ!」


「あの・・・つかぬことをお聞きしますけど・・・。」


「何だ?言ってみろ。」


横柄な態度で美少年は言う。生意気な態度にイラっと来たけども、それをおくびにも出さず、私は尋ねた。


「あの・・・ロザリオ・ハリスン・・それが私の名前ですか・・?」


「は?お前・・一体何を言ってるんだ?」


ジョバンニは眉をしかめてこちらを見ている。


「いえ・・・信じられないお話かもしれませんが、一時的に記憶喪失になってしまったようでして・・実は自分の名前すら思い出せないのです。すると、そちらの方が私の事をずっと『パストリス』と呼んでいたので、てっきりその名前が私の名前だと思っていたのですが・・・?」


「何だって・・?パストリス・・・?」


すると少年は隣に立っているセレナを見る。そしてセレナは何故か私を見て脅えたように震えていた—。








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